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バイデン大統領にとって「オミクロン株」の出現が好都合だった側面も(Getty Images)

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の出現が、世界の金融市場を大きく揺るがしている。そのひとつとして注目したいのが、原油先物価格の動きだ。高騰が続いていたNY原油先物価格は11月26日に約10%下落した。その後少し戻しはしたが、今後のトレンドはまだ見えてきていない。

 10月下旬から11月上旬にかけての原油先物価格は新型コロナウイルスのパンデミックが発生する前の高値を更新、1バレル80ドルを超える水準で推移していた。約7年振りの高値を付ける中で急落が起きた。原油先物価格は物価を見通す上で非常に重要な指標である。投資家のみならず、その先行きは非常に気になるところだ。

 それにしても、急落前、なぜ、上昇していたのだろうか。今後の動きを分析するには、まずその点から整理しておく必要があるだろう。

 主な要因として考えられるのは、需要拡大見通しである。新型コロナウイルス感染拡大の収束期待が高まることで、グローバル経済が回復に向かう。そうなれば当然、原油の需要は拡大する。その上に、ラニーニャ現象の発生で厳冬となれば、需要は更に上乗せされる。

 加えて、供給の構造的な鈍化、硬直化など、“需要増加に合わせて柔軟に供給が増えるといった市場メカニズム”が働きにくいことも要因として挙げられよう。

 環境問題を重視する各国政府は石油開発投資、生産を抑制しようとしている。OPECプラスはそうした動きを警戒、需要の伸びが期待できない以上、価格政策を重視している。サウジアラビアやロシアなどは政治的な駆け引きに熱心であり、OPECプラスとして柔軟な供給体制が取れないでいる。アメリカの覇権に陰りがみられ、産油国への影響力が弱まっているといった見方もできよう。

インフレが進めば米国債券市場に危機も
 原油(先物)価格の上昇で困るのは、日本や欧州の主要国(イギリスを除く)など、非産油国だけではない。足元で物価が上昇、金利の先高懸念の強まっている米国も同様だ。インフレが手に負えなくなれば、安全資産の頂点にあり、国際金融市場の要ともいえる米国債券市場が危機的状況に陥るリスクがある。

 バイデン政権にとっては、大統領の支持率低下が深刻となる中で、市民に強い不満を与え、経済的な大混乱を引き起こしかねない原油高は、なんとしても避けたいところでもある。

 米国は世界最大の産油国であり、シェールオイルの増産能力は十分あるはずだが、バイデン大統領は11月に開かれたCOP26において、各国に対して気候変動対策の強化を訴えたばかりである。トランプ前大統領とは正反対の姿勢だ。そもそも、石油業界は伝統的に共和党支持者が多い。政治的な要因も加わり、政府主導で増産を呼びかけるわけにはいかないといった事情がありそうだ。

 バイデン大統領は11月23日、石油の国家備蓄を5000万バレル放出すると発表。日本政府も24日、米国の要請を受けて石油の国家備蓄を放出することを決めた。インドや韓国などもこれに追従する意向である。ちなみに、中国は既に9月の段階で、国家備蓄を放出している。

 しかし、国際協調の動きがあったにもかかわらず、バイデン大統領が打ち出した切り札ともいえる政策は効かなかった。原油先物価格は22日に一旦底打ちすると、24日には高値79.23ドルまで上昇した。

米国にとっては都合の良い結果
 こうした背景で原油先物価格が高騰していたタイミングで、今回の急落が起こった。