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なぜ普及が進まないのか?

 政府はマイナンバーカード取得者らを対象に最大2万円分のポイントを付与する新たな制度を打ち出した。こうしたキャンペーン以外にも、マイナンバーカード取得によるメリットを強調しているが、普及が進んでいないのが現実だ。その背景に何があるのか。マイナンバー制度の問題点について、経営コンサルタントの大前研一氏が分析する。

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【1】カードの新規取得者に最大5000円分(利用額の25%)【2】健康保険証として利用登録すると7500円分【3】公金を受け取る口座を登録すると7500円分の3段階で、マイナンバーカードの普及促進と消費喚起を目的に、この「マイナポイント事業」の経費として2021年度補正予算案に1.8兆円を計上した。

 マイナンバーカードの交付率はまだ40.3%(2021年12月12日時点)だが、そもそも便利で安全で使い勝手の良いカードなら、お金で釣らなくてもみんなカードを取得するはずだ。しかし、利便性や必要性が感じられず、生体認証がなくて危険だから、なかなか普及しないのである。

 札束で頬を叩いて強引に持たせても、自治体別にバラバラに開発した住民基本台帳ネットワークシステムを土台に屋上屋を架しているマイナンバー制度のシステムは、統合の後遺症に伴うトラブルが絶えないみずほ銀行のシステムと同じような状態になっているので、将来的には破綻して作り直すことになるのは確実だ。

 本連載で繰り返し提言しているように、いまデジタル庁がやるべきことは、日本の行政サービスを根本からデジタル化して国民と国が電子的につながる国民データベース(DB)をゼロから構築することだ。それがあれば、一人親世帯などの家計の貧困状況はすぐにわかるし、給付金も紐づけた口座に簡単に送金できる。

 にもかかわらず、使えないマイナンバーカードに固執し、お金をバラ撒いてでも普及させようとしているのは愚の骨頂だ。政府は子供の貧困や虐待を防ぐため、家庭の経済状況や子供の学力などの情報を一元化するDBを構築する方針だと報じられたが、それも含めた生体認証付きの国民DBを作ればよいだけの話である。

 土台が崩れているマイナンバー制度を存続させてサービスメニューだけを積み上げていっても、どこかで“ご破算”になることは目に見えている。それがわからない政治家がお金で釣って利用者を増やすのは、税金の無駄遣いも甚だしい。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2022〜23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。

※週刊ポスト2022年1月1・7日号

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