「『南京大虐殺の死者数は30万人』とする中国政府の主張をもっと客観的に論じるべき」と授業中に発言した上海市の専門学校「震旦学院」の教師、宋庚一さんが昨年12月中旬、生徒から密告され除籍処分を受けた。この事件を発端にして、「宋先生の発言を支持する」と中国SNS「微博(ウェイボー)」に投稿した湖南省在住の女性教師、李田田さんが当局に拘束され、精神科病院に送り込まれたものの、年明けに釈放されていたことが分かった。

 宋さんと李さんはともに、いまも当局の監視下にあり、自宅から一歩も外に出ることができない状態で、事実上の軟禁状態に陥っているという。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が匿名の人権活動家の話として報じた。

 李さんは当局に取り調べを受けたあと、教師資格を失い、地方の普通職員に降格。そのショックや疲労などで、いまも精神状況が不安定な状態が続いており、憔悴しているという。

 このため、「李さんが精神科病院を退院した」との情報を受けて、李さんを励まそうと5人の人権活動家が李さんが身を寄せているという李さんの祖父の住む湖南省湘西永順村を訪れたものの、村に入ったとたん、村の幹部から暴力を受け、携帯電話も奪われてしまったという。

 警察はこの事件の背後に「外国勢力が暗躍している」と判断しており、李さんが外国の情報機関に「うその情報を吹き込まれて、南京事件の30万人の死者数に疑問を持った」と村人に説明しているようだ。

 李さんは退院を知らせる最後の「微博」の投稿のなかで、南京事件の犠牲者が30万人に上るという中国政府の公式見解について「正確な事実に基づいて検証すべきだ。上海の宋先生が除籍処分を受けた事件で、問題があるのは密告した学生であり、除籍処分とした学校、官製メディア、そして沈黙する知識分子だ」と主張した。

 李さんは最後に「社会に助けを求めたい。もし私が死んでしまえば、二つの命が失われる」と綴っており、妊娠している可能性があるという。

 中国では、過去にも反政府的な言動をした人が精神科病院に送られたことがある。2018年7月、上海で習近平国家主席の写真に墨汁をかけた董瑤瓊(ドン・ヤオチョン)さんがその一例だ。

 董さんは2020年1月に退院したが、「お父さん」という言葉しか発せない状態だった。同年12月には「微博」に本人とみられる動画がアップされ、「政府の監視下にある」と説明。「もうこんな生活は嫌です。死んだほうがましです。常に監視されているのはもう耐えられない」などと訴えていた。ネット上では「悲劇は繰り返される」との書き込みが出ている。

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