CGじゃないのにあり得ない世界がそこにはある。会社が認める年1回のコンテストは、普段クライアントの要望に忠実に応えている食品サンプル職人が、大いに暴れる日。発想力、技術力、表現力、経験値の全てを結実させる。

当たり前の話だが、飲食店で食品サンプルを見て注文したのに全く違うものがサーブされた、なんてことは基本的にないはずだ。飲食店では自分のところで提供するメニューそっくりの食品サンプルを展示し、いわば販売促進のツールとして誘客する。

食品サンプルを作る職人さんは、飲食店からのオーダーに常に忠実だ。サイズまでほぼ等倍で再現する。盛り付けや具材の内容を変えたり足し引きするなど、勝手なアレンジは許されないのだ。

しかし、食品サンプルのリーディングカンパニーである株式会社岩崎では年に1度だけ、職人たちがそのクリエイティビティをいかんなく発揮できるお祭り場がある。それが、「食品サンプル社内製作コンクール」だ。このときばかりは「作りたいものを作る」が許される。

常識にとらわれない自由な発想と、経験、技術の粋が結実し、現代アートとも取れる素晴らしい作品が出来上がる。2021年のそのエントリーの一部をご覧に入れよう。

【ファンタジー部門】

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「ア・ジグソーパズル」
新鮮なアジなら、生臭くはなさそうだ。スーパーリアルな魚に、あり得ないカッティング。これぞサンプルのなし得るファンタジー。

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「Let’s Dance」
皮を剥いたバナナがダンスを踊りだすという、アニメーションのような設定。皮の色の変化、断面、果肉の表情など、その表現力に驚く。

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「ポテチザウルス&トリケラチップス」
これはネーミングが先に決まったのでしょうか。にしては、素晴らしく世界観ができています。揚げたてパリパリを食べたい!

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「沖合のご褒美 手で行け、手で」
見てください、このアラ入れ。刺身の切り口、血合いに、皮。このスケール感を含めて、漁師さんの賄いサンプル万歳!

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「蟹さん」
これは……ガンダムと互角の戦いを繰り広げた、シャア専用ズゴックですよね?ライティングを意識した見事な作品。

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「毛蟹のキャンプ」
再び蟹。技術を要する質感だけではなく、動きで個々のキャラクターまで生み出した。手や口の周り、汚れてますよ毛蟹さん。

【リアリティ部門】

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「アサリの酒蒸し」
職人さんはこの料理を自宅で作ったのか、居酒屋で食べたのか。シンプルだけど食品サンプルとしての奥深さを感じる“燻し銀”な作品。

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「プルドポーク好きなだけ盛って」
BBQ好きなアメリカ人の定番メニュー、プルドポーク。割いてほぐしたときの肉の繊維をここまでの量感で表現するのはさすが。

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「回鍋肉」
かなりお腹が空いていたようで、盛りすぎましたね。この量に対しては、卵2個。ご飯にも染み入ってるじゃないですか……。

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「秘伝のタレ」
継ぎ足し継ぎ足し、何年経過したんでしょう。タレもさることながら、灰や、焼き鳥の皮の質感、コゲが素晴らしい。