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自らのルーツをウェブサイトで公表し、部落差別の問題を発信している上川多実さん=東京都で2022年2月24日、内藤絵美撮影

 部落差別の解消を目指した全国水平社が京都市で創立されてから3日で100年。長きにわたる取り組みで表面的には差別は見えにくくなったが、インターネットが全盛のデジタル時代では新たな形の被害も生まれている。そんななか、あえてウェブサイトでルーツを公表し、差別に向き合う人もいる。

 上川多実(たみ)さん(41)=東京都=の両親は、関西の被差別部落出身。物心つく前から「あなたも将来、差別を受けることがあるかもしれない」と聞かされて育った。だが、疑問が募った。「境界線が引かれているわけじゃない。部落って他の場所と何が違うの?」

 現実を目の当たりにしたのは中学生の頃だ。学区内の工場で就職差別が表面化し、大きな問題となる。クラスには、その工場を経営する企業に親が勤めている同級生もいた。差別する側と、差別される側――。そんな分断が存在していた。「私は『される側』の人間なんだ」。初めて恐怖をリアルに感じる。不安になり、将来への心配を同級生に打ち明けたが、返ってきたのはそっけない反応だった。「差別なんて本当にあるの?」「大げさだよ」

 その言葉を聞き、差別がなかったことにされてしまうと危機感を覚えた。「実際に恐れ、悩んでいる人がいる。『部落民の私はここにいるんだ』と伝えないと」。その方法を模索するなかで出会った仲間と2011年、情報発信サイト「BURAKU HERITAGE」を開設した。東京や大阪に住む10人ほどのメンバーが差別問題への思いを記す。何気ない日常をつづり、顔写真や実名も公表する。「あなたが暮らすこの社会に、私も生きているんだよ」と伝えるためだ。

「アウティング」も横行

 一方、ネット上では差別をあおる書き込みが氾濫している。被差別部落を撮影したとして地名とともに公開する動画が勝手にアップされ、本人の同意なく出自を暴露する「アウティング」も横行する。上川さんも被害に遭った。部落解放同盟の活動をしていた両親の名、その娘として自分の名やSNS(ネット交流サービス)のアカウントが書き込まれた。「私はルーツを公表しているとはいえ、媒体を選んでいる。私たちのサイトは、差別問題を解決するためのもの。問題のサイトは差別を扇動するようなもので、わけが違う」 解放同盟が裁判を起こし、上川さんも参加した。東京地裁は21年9月、約230人の原告の大半がプライバシーを侵害されたと認定。地名リストなどを公表した出版社側に対し、一部の掲載差し止めを命じた。ただし、上川さんのように自ら出自を公表している人らはプライバシー侵害が認められなかった。双方が控訴し、裁判は続いている。