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シカのうまみがつまった「鹿ラーメン」を提供する松平成史さん=2022年2月4日午後1時58分、福井市畠中町、柳川迅撮影

 イノシシとシカ。人間に身近で、田畑を荒らすこともある山の住人の勢力図が、福井で塗りかわっている。

 イノシシとシカは多雪に弱く、元来、北陸では生息域が限られていた。しかし、福井県中山間農業・畜産課によると、近年の少雪傾向から生息域を拡大し、県内のほぼ全域で見られるようになった。

 まず、台頭したのはイノシシだ。2014、15年度に捕獲頭数は1万頭を超えるようになった。害獣としても勢力を振るい、14年度には農業被害額が1億1千万円を超え、ピークとなった。イノシシは寄生虫やダニを落とすための「ぬた場」として水田を使うため、被害額の約8割が水稲だ。

 ところが、18年度以降は減少が続く。どうやら、背景には、豚熱(CSF)がありそうだ。

 養豚業への脅威として知られるようになった豚熱はイノシシにも感染する。県内でも、感染個体の死体が発見されている。

 捕獲も強化された。19年に大野市で豚熱にかかったイノシシが見つかり、県は、家畜の豚への感染拡大を防ぐため、イノシシを標的にした。

 19年度は前年度比3割増しの8952頭を捕獲すると、20年度の捕獲数はほぼ半減し、4534頭になった。農作物の被害額も約3200万円まで減少。21年度の捕獲数も12月までで約1800頭と前年の半分に落ちている。

 同課の担当者は「豚熱の流行と捕獲強化で生息自体が減っている」とみる。

 一方、入れ替わるように増えているのがニホンジカだ。

 20年度の捕獲頭数は1万453頭と1万頭を超え、特に嶺北での捕獲数が4362頭と過去最多となった。捕獲を強化している嶺南で推定生息数が減少しているが、嶺北では増加が続いているとみられる。今年度も12月までで県内全体で約7300頭が捕獲され、昨年度を上回るペースだ。

 県は、22年度からの5年間の管理計画案で、嶺北の捕獲数を初年度は年間4800頭以上から5900頭以上へ引き上げる目標を掲げた。狩猟免許取得や猟銃所持に必要な経費の補助やICT(情報通信技術)を活用したわなの普及で捕獲の強化を検討している。(柳川迅)

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 石川県では2020年度の農作物被害額約6600万円の6割がイノシシによる被害だ。ただ、イノシシによる被害額はピークの18年度の約1億1600万円からは半分以下に減少している。

 捕獲頭数は18年度の1万5501頭から3千頭ほどしか減っておらず、生息数はさほど減っていないとみられる。

 シカはほとんど被害が報告されておらず、捕獲もわずかという。

 富山県でも20年度の農作物被害額の5割をイノシシが占め、シカによるものは報告されていない。イノシシによる20年度の被害額は前年度の8330万円から3229万円へと大きく減った。捕獲数も19年度の8172頭から3325頭へ減った。

 県自然保護課の担当者は「はっきりしたことはわからないが、豚熱の影響や19年度に駆除に力を入れた影響が出ているのではないか」としている。

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 山の勢力逆転でピンチを迎え、新たな挑戦をした飲食店もある。