「ロシア同様、日本も無差別殺りくをした」 歴史に学び、核廃絶を
2022/3/23 07:00

 「第二次世界大戦中、日本はアジアへの侵略で、米国は日本に空襲や原爆で、ロシアがウクライナにしたことと同じような無差別な殺りくをしてきた」。修学旅行生に被爆体験を語る証言活動を続けている元教師の豊永恵三郎さん(85)は19日、神奈川県の女子高生たちにオンラインで証言した際、冒頭にこう語りかけた。「核の悲劇を繰り返さないために、日本の戦争や歴史をきっちり勉強して考えなければいけない」


 横浜市出身。3歳で両親と広島市尾長町(現・広島市東区)に移り、米軍が原爆を投下した1945年8月6日は9歳だった。市内の建物疎開作業に3歳の弟と連れだって行った母親を捜し、父親と翌7日から9日まで中心部に入って入市被爆。2人は爆心から約1・6キロの昭和町(同中区)で被爆した。

差別を知り、在外被爆者を支援
その後暮らした船越町(同安芸区)の祖父母宅周辺には、養豚業を営む朝鮮出身者も多くいた。排せつ物回収時の臭いやうまくはない日本語を理由にからかわれる様子を見て「日本人はひどく差別をしている」と漠然と感じた。こうした少年期が原点となって、長年取り組んできたのが在外被爆者の支援だ。


 71年夏、高校の国語教師として教育研修で初めて訪れた韓国・ソウル。日本の植民地支配から解放されたことを記念し、休日となっている「光復節」の8月15日、在韓被爆者から「日韓両政府の支援は何もない」と切実な訴えを聞いた。当時、日本では被爆者健康手帳を取得すれば無償医療などの援護を受けられたが、制度が国内向けの社会保障との位置付けだったため在外被爆者は対象外だった。

「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」世話人会で発言する被爆者の豊永恵三郎さん=広島市中区で2022年3月13日、滝川大貴撮影拡大
「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」世話人会で発言する被爆者の豊永恵三郎さん=広島市中区で2022年3月13日、滝川大貴撮影
 「被爆者は日本人だけではない。差別だ」と憤りを感じ、帰国後の同年12月、大阪にできたばかりの「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」本部に広島支部の設立を直訴。72年の支部設立後は、初代支部長として在外被爆者の手帳取得手続きを手伝う傍ら、韓国人の郭貴勲(カク・キフン)さんら在外被爆者が原告となった40件超の訴訟の支援に奔走した。勝訴を重ねた結果、援護対象を国内に限る根拠となっていた旧厚生省の「402号通達」が2003年に廃止されるなど国を動かした。海外から手帳を取得できるようになり、各種手当、医療費が国内とほぼ同水準で受け取れるようになった。

「核兵器のない世界を作るのはあなた」
 「裁判だけで40年。ここまで来られて本当にうれしかった」。4月には、広島支部の世話人を務める「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の設立50周年集会を広島市で開く。人生の大きな区切りを迎え、被爆体験の継承について思いを巡らせていた時、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。高まる核使用の恐れに危機感を募らせ、「若い人たちにもっと過去の戦争を勉強してほしい」と強く願う。