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キエフ・ヴォロディミルスカ通りでのLGBT平等推進デモ行進(2021年9月19日)(Pavlo_Bagmut/ Ukrinform/Future Publishing via Getty Images)

ウクライナのLGBTQ(性的少数者)は、自分の命を失うことだけでなく、自国がロシアに占領された場合に受ける迫害についても恐れている。

ロシア政府はこれまで、LGBTQへの偏見をあらわにしてきた。同国の「同性愛プロパガンダ」禁止法は、子どもにLGBTQに関するコンテンツを見せることを禁じるもので、事実上、LGBTQとしての生き方を話題にすることに対する禁止令として使われている。チェチェンで行われたLGBTQに対する迫害、いわゆる「ゲイの粛清」は、近年のロシアでも特に恐ろしい出来事として、世界に衝撃を与えた。

そして今、ロシアのウクライナ侵攻が世界を震撼(しんかん)させている。戦争が始まる前から、すでに恐ろしい情報が出ていた。米国は国連に提出した書簡で、ロシアが「反体制派」のリストを作成し、LGBTQやジャーナリスト、活動家といった人々を殺害したり、収容所に送ったりすることを計画していると指摘。「人権面で大惨事」が起きると警告した。

筆者が話を聞いたウクライナのLGBTQ当事者たちは、こうした理由から、ロシアの侵攻開始後、ネット上に掲載していた自分の性的指向や性自認を急いで隠したという。そして戦争開始から3週間以上たった現在、LGBTQの多くはウクライナ軍の一員として戦っている。

「ロシアが勝てば、ウクライナのLGBTQは全てを失う」

領土防衛部隊に志願したウラド・シャスト(26)は「ロシアが勝てば、ウクライナのLGBTQ+コミュニティーは大きな危険にさらされる」と述べた。シャストは、ウクライナのLGBTQシーンで人気のクィアパフォーマーだ。今は、スタイリストとしての人脈を活用し、軍の資材調達を支援している。

「ロシアが勝てば、それは闇を意味する。自由や、ありのままの自分でいる機会はなくなり、多様なコミュニティーは権利を失う」(シャスト)

ロシアの侵攻前も、ウクライナでLGBTQとして生きることは楽ではなかった。宗教組織の間ではLGBTQへの反発が強いものの、近年には性的少数者の権利向上運動が大きく進展。ウクライナは、自国を逃れざるを得なかった東欧のLGBTQが集まる場所となっていた。

ウクライナの映画監督でウクライナ・プライドの共同設立者であるユーラ・ドビジョンは筆者に対し「ロシアやベラルーシ、カザフスタン出身のLGBTQで、母国での差別を理由に近年ウクライナに移住した人を多く知っている」と語った。「ウクライナはこうした人の避難場所となってきたが、それが失われつつある」

ウクライナ・プライドは現在、軍で戦うLGBTQの人に資金や支援を提供することに注力している。「ロシアが勝てば、ウクライナのLGBTQは近年勝ち取った全てのものを失う」とドビジョンは語った。

「プーチンの攻撃は、民主主義や自由主義の価値観に対するもの」

戦争は、ウクライナ人を結束させた。民主主義・自由主義の価値観を守ることが、国民の決意の大きな源となっていることは明らかだ。シャストが、LGBTQであることを公にしつつ母国の防衛を支援するのをためらわなかったのもそのためだ。

「ここでは真の自分以外を演じる必要はない。私のアイデンティティーや性的指向を気にする人はいない。勝利し、ロシア軍を自国から追い出すという大きな目標がある」

「これはウクライナのためだけではない。プーチンの攻撃は民主主義や自由主義の価値観に対するもの。これはウクライナ人、そして世界の両方にとって同等に重要なものだ」

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