ロシアのウクライナ侵攻以来、日本では中立で客観的、かつ冷静に思われる
ような議論が散見された。まるで、「けんか両成敗」を是とするような論法だ。

まずはロシアの侵攻を非難する。いわく、「確かに、ロシアによる軍事力の
行使は問題である」。この後に必ず、「しかし」というかたちで言葉が続くのだ。

例えば、「しかし、ウクライナ側にも問題があった」「しかし、
ウラジーミル・プーチン大統領には、プーチン氏の正義がある」…。

ロシアを一方的に指弾するだけでなく、ロシアの論理に理解を示すべきだと
説き、ウクライナの過失についても確認すべきだとの議論だ。一見すると
「ロシアが悪い」と非難している議論よりも、冷静で客観的な議論を
展開しているように思われる。

だが、これらの議論には陥穽(かんせい=落とし穴)がある。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権が対露交渉を誤っていた
としても、プーチン氏なりの正義があろうとも、軍事力を行使して他国を
侵略することは許されないのだ。

なぜなら、大国が恣意(しい)的に軍事力を行使し、自らの要求を貫徹
しようとすることは、現在の国際秩序を根底から否定する暴挙であるからだ。
日本も含め、多くの国々が国際秩序の中で守られている。われわれは国際
秩序の受益者なのだ。現在の国際秩序を破壊し、むき出しの暴力が全てを
決定する帝国主義の論理を復活させることは、ほとんどの国々を不幸にする。

プーチン氏にも正義があるという議論についても、真剣に考える必要がある。

私も、プーチン氏にはプーチン氏なりの正義があることを疑わない一人だ。
自らの正義を確信せずに、このような暴挙に打って出ることはできないはずだ。
だが、その正義は許される正義なのか。そこが重要だ。

多くの人々が「『正義』の相対主義」に陥っているように思えてならない。
人にはそれぞれの正義があり、それは尊重されるべきとの思考方法だ。
自分の正義を押しつけるのではなく、他者の正義にも理解を示す姿勢に
好感を持つ人も多いだろう。

しかし、考えてもみてほしい。地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の
信者たちにも彼らなりの正義があった。それは、われわれには全く受け入れ
がたい正義だった。

国際法を無視し、国際秩序を根底から破壊する蛮行に及んだプーチン氏の
論理を理解しようと試みることは重要だ。だが、プーチン氏の正義を
知ることと、プーチン氏の正義に賛同し、その行為を擁護することは
まったく異なることだ。

国際秩序の受益者である日本は、断固としてロシアの侵略行為を糾弾する
のが正しい。「国際秩序を守る」という重要な観点を忘れてはならない。

■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治
経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。大和大学准教授などを経て、
現在、一般社団法人日本歴史探究会代表理事。専攻は政治哲学。著書・
共著に『「リベラル」という病』(彩図社)、『偽善者の見破り方 
リベラル・メディアの「おかしな議論」を斬る』(イースト・プレス)、
『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(扶桑社)など。
ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。
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