ウクライナのユダヤ人たち
ウクライナで「ネオナチ」は活発なのか?

プーチンがロシアのウクライナ侵攻を正当化する理由の一つに、「ウクライナで跋扈しているネオナチから人々を守るため」というものがある。もうそうなら真っ先にターゲットになりそうなのがユダヤ人だが、ゼレンスキー大統領自身がユダヤ系である。この侵攻理由はまったくおかしいと多くの人々から批判されてきた。

それでは、実際のユダヤ人のウクライナでの生活はどんなものなのだろうか。3月下旬、オデッサのユダヤ博物館を訪ねた。

ウクライナのオデッサは20世紀前半まで、ニューヨーク、ポーランドのワルシャワに次ぐ三大ユダヤ人都市の一つだった。

第二次世界大戦前は人口の44%がユダヤ人だったといわれる。その後、戦争で減少し、現在ではオデッサの街の人口99万人のうち、ユダヤ人は2万人。しかしそのユダヤ人も今回の戦争で脱出し、街に残るのは5千人だといわれる。

オデッサのユダヤ博物館では、30センチはありそうな長い髭のいかにも「ユダヤ人」といった感じの男性、ズビ・ヒルシュ・ブリンダー(52歳)が出迎えてくれた。

「ユダヤ人として、ここオデッサでの生活はどうですか? プーチンはネオナチがいるとか言っていますが……」

そう質問すると、すぐに返事が返ってきた。

「はっ!別に何も不自由じゃないよ!」

ちょっとイライラしたように答えた。彼はこの博物館で働きユダヤ人を対象にした新聞の編集長をしている。腰元についたユダヤ教徒の房飾りを見せながら、

「こういうユダヤ人の格好をして出かけても何も問題ないよ!」

自分たちの現状について身に覚えのない「擁護」をプーチンから勝手にされたことへの苛立ちのようだった(またここ数週間、同じ質問をしにやってくる大勢のジャーナリストにも嫌気がさしていたのだろう)。

もう一人、この博物館で働くターバンをした女性、ユーリア・マクシュミク(48歳)にも聞くと、

「何も嫌なことはないわ」

とあっさりとした返事が返ってきた。ズビがいう。

「今回の戦争でウクライナからドイツに逃れたユダヤ人が多いけど、むしろ、そっちのほうが心配だよ。ドイツには本物のネオナチがいるし、それにイスラム教徒も多いから我々と問題になりやすいからね」

まったく皮肉な話だ。ユダヤ人を救うためといって(難民を受け入れたドイツを責めるつもりはないが)、よりウクライナのユダヤ人にとって不安に感じる場所に行かなければならないのだ。

「第二次世界戦争でナチスから逃れてドイツからウクライナに来た人もいるのに、また戦争で、逃れたはずのドイツに戻るなんてね」

ズビは皮肉を込めて笑った。

「これ、私の息子」

ユーリアが見せてくれたスマホの写真には軍服を着たユーリアの息子がいた。要件があって入れなかったが、地域防衛隊(地域を守るウクライナ軍とは別の部隊)に志願したそうだ。