内閣府の調査で約8割の日本人が中国に「親しみを感じない」と答えている。こうした中国嫌いの感情はどこから来ているのか? 「カルチャー・ギャップ・マネジメント」の著者で、日中ビジネス研修の第一人者である李年古氏に聞いた。

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■日本人の8割が中国が嫌い

 中国にあるスターバックスの店舗数は、昨年10月の時点で5360店。「中国ではコーヒーを飲む習慣や文化がない」と海外企業が進出に尻込みをする中、スタバは「コーヒー未開拓の巨大市場がある」と考えた。

 日本人の8割の人が中国を嫌っている──ということは、これからは上がる一方ということ。とりあえず政治のことを抜きにすれば、日本人の中国嫌いはちょっとした誤解が生じているだけかもしれない。

 李さんは、深圳で工場を経営する日本人社長に、こんな相談を受けたことがある。入院した現地の女性社員を毎日見舞った社長は〈会社はいつでも君の復帰を待っている〉〈一刻も早く職場に戻ってくることをみんな望んでいるよ〉と励ました。しかし、いざ退院の日、その女性は会社を辞めてしまったという。どうしてだろうか?

「中国人上司なら『安心して治療しなさい。どんなに時間がかかっても気にしないでいいよ』と話したでしょう。女性社員は『社長は会社の都合ばかり考えて、一刻も早く部下を職場に戻させたいから毎日のように出勤を催促しに来た』と考えたのかもしれません」

 日本人同士なら何の問題もなかっただろうが、外国では文化や常識が違って当たり前。こうしたコミュニケーションの失敗例は、中国人の「属人」的な考え方を理解すれば納得できそう。人が基本にあって、「義理」を重んじる価値観のことだ。

■卓球選手のボイコットで分かる「属人」的考え方

 その属人的な考え方の例として、「卓球の馬龍、樊振東、許マの大会ボイコット騒動」がある。2017年、当時の男子世界ランキング1〜3位の3人が中国オープンを突然、棄権した。中国人の卓球ファンなら誰でも知っているが、その直前に劉国梁監督が体育総局から解任されている。劉監督は選手たちに敬愛されていたが、こんな熱いスピーチが「カルチャー・ギャップ・マネジメント」で紹介されている。

《(元世界チャンピオンの)馬琳さんは今回の試合に出場しなかった。かわりに毎日、みなのために食材を買いに行き、現地レストランの厨房に立ち、料理を作ってくれた。料理や箸を運んでくるのも彼だし、最後に残りものを食べたのも彼だ。君たちはチャンピオンになってから5年後、このような姿を見せることができるか?》

「選手たちにとって、監督は家族。兄貴か父親であり親分です。日本と異なり、中国では『会社のため』を強調するのは逆効果で、上司への忠誠心を通じて愛社精神を実現するのが唯一の道です」

迷惑はかけるが、かけられても平気という国民性
 日本人駐在員が中国人部下に慕われているか、1つの質問で分かるという。それは「部下の1カ月の収入や家計を即答できますか?」と聞くだけだ。日本ならプライバシーに関する内容で禁句だが、中国では「給料はいくらですか」とズケズケと聞かれることもある。

「中国人は、人間は悪いことをしたら、それを隠そうとするが、清廉潔白であれば何一つ隠す必要がない。正々堂々と個人の『隠私』(プライバシー)情報をさらけ出して平気なはずだ、と考えるのです。ここ数年、個人情報公開に抵抗感を抱く人が増えつつありますが、相手の私生活への好奇心が強い一方、お互いにオープンな関係になると、困った時に助け合うようになるのです」