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ロシアのスホイ35戦闘機|pomogator / Shutterstock.com

 ウクライナに対し圧倒的な航空戦力を誇るロシアだが、侵攻開始から2ヶ月半が経ついまも航空優勢(制空権)の掌握に至っていない。演習不足と厳格すぎる指揮系統が災いし、能力を発揮できていないようだ。

◆圧倒的戦力差でも制空権握れず
 制空権は戦局を左右する重要なファクターだ。米アトランティック誌(5月10日)は、仮に片方が制空権を握れば「この紛争の成り行きを根本から覆すことになる」と指摘する。ロシアは4000に近い軍用機を保有しており、シリア紛争などを通じ経験を積んできた。本来であればウクライナ領空の深部に容易に侵入し、首都キーウに狙いを定めているはずであった。

 米公共放送のNPR(5月11日)も戦力差を指摘する。航空業界誌による推計によると、ロシア空軍が1500機の戦闘機と爆撃機を保有するのに対し、ウクライナは100機程度だという。さらに、ロシア側は比較的近代的な戦闘機を導入している。ウクライナのある空軍パイロットは同局のラジオ番組に出演し、「残念ですが私たちの戦闘機は、彼らと効果的に戦う能力を持ちません」と述べている。しかしながらロシアは、まだ制空権を得るに至っていない。

◆航空戦力を使いこなせないロシア
 要因の一つとして、ロシア側の総合的な運用能力の低さが挙げられる。航空戦は複雑な技術に依存して成り立っており、優れた機体を保有するだけでは能力を引き出すことができない。アトランティック誌は、指揮統制、索敵活動、燃料補給、電子戦などの「重層的な軍事作戦」が必要であり、高スキルの人材によってこれらが統制されてはじめて効果を生むと解説する。戦闘機の近代化を進めたロシア空軍だが、その転換は「ほぼ見掛け倒しだった」との評価だ。

 英ライターのニーアム・カヴァナー氏は米ヤフー・ニュース(5月10日)に寄稿し、演習不足と戦闘システムの弱さが原因だと指摘している。米ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシアの戦闘機が搭載する兵器の弱さから、放たれたミサイルが「よく目標から外れる……仮に作動したとしても」と述べており、信頼性にも課題がある。

◆ウクライナの強固な対空防衛
 ウクライナは西側の支援を受け強力な対空防衛網を展開しており、これもロシア空軍にとって脅威となっている。NATOが提供する携帯式誘導ミサイルの「スティンガー」などがその代表格だ。英国際戦略研究所のウィリアム・アルバーキ氏はヤフー・ニュースに対し、効果的な対空防衛が張り巡らされたウクライナ領空は「ロシアの戦闘機パイロットたちにとって危険すぎる状態になった」とコメントしている。

 ウクライナの空に侵入できないロシア軍は、長距離ミサイルを多用してきた。しかし、直近では精密誘導ミサイルの在庫が枯渇し始めているようだ。モスクワ・タイムズ紙はアナリストによる分析として、ウクライナへの空爆が直近で増加した背景に、ミサイルの在庫枯渇によりロシア側が危険を承知で空爆を実施する方針に転じたと報じている。

https://newsphere.jp/world-report/20220512-2/