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ロシアの人は普段どんなものを食べているのでしょうか。(写真:/PIXTA)

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2カ月。連日のようにウクライナにおける悲惨な映像を見るにつけ、ロシアやロシア人に対するイメージを悪くしている人がいるかもしれない。が、政府による方針をそのまま国や国民に結びつけることは、さらなる悲劇や差別を生むことになりかねない。本稿ではロシア軍事・安全保障の専門家である小泉悠氏の新著『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』より、「普通の」ロシア人の素顔に迫る。

ロシア人は辛いものが苦手?
外国に行くと食習慣の違いで面食らうということがありますが、ロシアではその心配はあまりないでしょう。ロシア人は全体的に薄味好みなところがあり、極端に味が濃いとか辛いものというのはあまり出ません。ボルシチを思い浮かべてもらうとわかりますが、ああいう優しい味のものが多いです。

こういう味に慣れているので、ロシア人はスパイシーなものが苦手なようです。モスクワに住んでいた頃、近所にインド料理のレストランができたので行ってみたのですが、まったく辛くないので店員に聞いてみたところ(日本人とインド人がロシア語で会話しているというのも不思議な話ですが)、「こうしないとお客さんが来てくれないんだよな」とのことでした。

かといって、ロシア人みんなが辛いものを食べないというわけではありません。ロシアのコンビニに行くと「ドシラク」という四角いパッケージのカップ麺を売っていて、この中には舌が痺れるくらい辛いものがあります。というのは製造元が韓国で、生半可な辛さでないのも納得でしょう。

1990年代に極東の船乗りたちが韓国で買ってきたのが始まりとか、担ぎ屋貿易の商人たちが持ち込んだとか諸説あるようですが、いつのまにかロシア人にはすっかり馴染みの味になりました。

ちょっとしたスパイスの味さえ耐えられない人がいるかと思えば、こういう激辛カップ麺が普通に食べられているというのが面白いところです。近頃では、日本でもおなじみの「辛ラーメン」もロシア進出を果たしたようです。

巨大国家は料理のレパートリーも豊富
ロシアで出るのはロシア料理だけではありません。ソ連はシベリア、中央アジア、カフカスといった広大な地域にまたがる巨大国家でしたから、料理のレパートリーも豊富です。

例えばロシアにはペリメニというシベリア料理がありますが、これは小麦粉の皮にひき肉などを包んで茹でたもの。要は水餃子です。そのご先祖はおそらく、われわれが食べている餃子と同じところに辿り着くのでしょう。茹でたてのやつが溶かしバターに浸かって出てくるので、アツアツのうちに食べてください。

一方、カフカス料理の代表はなんといってもジョージアです。スパイスの効いたはっきりした味の料理が多く、そろそろロシアの薄味に飽きてきた日本人の出張者を3日目くらいにジョージア料理屋に連れていくと大変に喜ばれます。

特にニンニクの効いた濃厚クリームスープ「シュクメルリ」は日本人の口に合うようで、最近ではコンビニで販売されたり、冷凍食品のラインナップにまで加わるようになりました。私のお気に入りは米の入った辛いスープ「ハルチョー」で、薄味のロシア料理に飽きてきたらこれに限ります。

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日本でも近年人気が高いジョージア料理の「シュクメルリ」(写真:PIXTA)

そして何より、ジョージアはワインがうまい。ジョージアでは実に紀元前6000年ごろからワインが作られていたと言われ、ソ連でも有数のワイン産地でしたが、最近では国際的にも知名度が高まってきました。

ジョージアの首都トビリシでも団地の中庭が葡萄棚になっていたり、ワインを醸造する巨大な甕が首先だけ出して埋まっているのを見かけたりと、ワインが生活の中に深く根付いているのがわかります。

中央アジアの串焼きシャシリクについては、中央アジアの料理を出すレストランではメインディッシュとして欠かせないメニューですし、夏になると大きな公園にシャシリクの屋台が出ていたりします。具材は大体、牛、豚、マトンが多いですが、サーモンのシャシリクとか、店によってはチョウザメを焼いて出すところもあります。