2022年5月5日、英国を訪れた岸田文雄首相はボリス・ジョンソン首相と首脳会談を行った。両首脳は、ロシアに対する制裁の継続や両国の安全保障協力進展のため、自衛隊と英国軍が共同訓練などを円滑に実施するための協定「日英円滑化協定(RAA:Reciprocal Access Agreement)」締結について大枠合意し、早期署名に向けた準備の加速化を確認した。

共同訓練手続きを簡素化
 RAAは「日米安保条約」と異なり、「軍事同盟」や「防衛協定」ではない。

 相互の軍事支援や武力行使を法的に義務付けるものではなく、自衛隊と英国軍の部隊が相手国に入国する際の入国審査や武器・弾薬などの装備品の持ち込み手続きを簡素化し、共同訓練の際の諸手続きを簡略化するための協定だ。日本がこの協定で合意するのは、2022年1月のオーストラリアに次いで2か国目となる。

 英国は海洋貿易国であり、イギリス連邦54か国のうちインド、オーストラリア、ニュージーランドなど多くの国々がインド太平洋に存在している。

 日英RAAの締結は、英国にとってインド太平洋へのコミットメントを示す目的があり、日本にとってもインド太平洋地域での安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)および北大西洋条約機構NATOとの連携強化の足掛かりとなることが期待できる。

 今後は日英共同訓練などを拡大し、両国の安全保障面の連携はさらに強化されるのではないだろうか。

中国・北朝鮮対応も連携
 2015年以降、4回の外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を実施してきた日英両国は、東・南シナ海で一方的な現状変更の動きを見せる中国への危機感を共有するとともに、北朝鮮による核・ミサイル開発や日本人拉致問題に対しても共に対応し、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた連携強化を図ってきた。

 2021年8月には英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を含む空母打撃群が日本に寄港し、日本近海において日米英蘭各国軍との共同訓練が実施されている。

 この共同訓練は、ロシアのウクライナ侵攻前ではあったが、存在感を増しつつあるNATOとの軍事的連携を確認できたことは日本にとって大きな収穫であった。

2017年には英国とACSA締結
 日英両国は2017年8月、自衛隊と英国軍との間において、物品と役務を相互に提供する際の決済の手続き等の枠組みを定める「物品役務相互提供協定(ACSA:Acquisition and Cross-Service Agreement)」を締結しており、自衛隊と英国軍の双方が参加する共同訓練、国連平和維持活動、人道的な国際援助活動等のための相互の物品・役務の提供が円滑かつ迅速に実施できる体制になっている。

 日本は現在、米国、オーストラリア、英国、カナダ、フランス、インドの6カ国とACSAを締約している。

日本に「ファイブ・アイズ」参加要請も
 2020年7月、英与党・保守党のトム・トゥーゲントハット下院外交委員長が、河野太郎前防衛相に電話会議で日本の米英など英語圏5カ国で構成される情報共有枠組み「ファイブ・アイズ」への参加を打診している。