プーチン大統領は「核を使えない」? 情報分析のプロ指摘 クーデターの可能性は――

イギリスのスカイニュースのインタビューに答えて、ウクライナ国防省の諜報部門トップのブダノフ准将が、ロシアの軍と治安機関の上層部でプーチン大統領に対する「クーデター計画」が進行していると伝えたのは5月14日のことだった。
ブダノフ准将はその具体的な根拠を示さなかったが、ロシア軍の打ち続く敗北が、最終的にはプーチン大統領を引きずりおろす策動につながると見ていて、「この動きはすでに始まっている」と話した。

同じようにプーチン政権内の異変を指摘する人物がいる。
オランダに拠点を置くオープンソース・ジャーナリズム「ベリングキャット」のクリスト・グローゼフ氏だ。
ロシア・ウクライナ情勢に関する様々な情報を分析してきたグローゼフ氏は、Radio Svobodaの番組”Grani Vremeni”(5月16日)で、プーチン大統領と軍・治安機関上層部の溝は確実に深まっていて、「明らかに対立が起きている」と語ったのだ。

■ プーチン“側近”が抱く恐怖と不安

クリスト・グローゼフ氏が代表を務める”ベリングキャット”は、ネット上にアップされるオープン・ソースの情報を積み重ね分析する手法で、権力が隠ぺいする「ファクト」をあぶりだしてきた。
2014年にウクライナ東部の親ロシア派支配地域で発生したマレーシア航空17便墜落の「撃墜犯」や、幾人ものジャーナリストや反体制活動家の殺害を企てたクレムリンの「暗殺部隊」を明らかにするなど、その活動は国際的に高く評価されている。

(グローゼフ氏の報道については3月22日に公開した「『ロシアに勝利の可能性なし』FSB情報員の手紙」でも紹介した。また、ベリングキャットについてはE・ヒギンズ著『ベリングキャット――デジタルハンター、国家の嘘を暴く』筑摩書房、に詳しい)

いま「ベリングキャット」が積極的に行っているのは、ロシア軍の戦争犯罪の事実を明らかにして戦争犯罪人たちを法廷に立たせるための証拠と証言の収集だ。
そうした作業の中で、グローゼフ氏のもとにはプーチン政権の異変を示唆する様々な情報が集まってきているようだ。

グローゼフ氏によれば、プーチン政権の軍・治安機関上層部は、これまでプーチン大統領の庇護の下、汚職まみれで私腹を肥やし、法を超えた特権を得てきていたが、それが今回のウクライナ侵攻によって、ことごとく失われてしまう恐怖と不安に直面している、という。
「プーチンの側には利益誘導できる元手がもうないのだ。2014年のクリミア半島併合の時は、プーチンの取り巻きとオリガルヒ(新興財閥)とで、風光明媚な保養地クリミアを分け合ったが、この戦争では分捕るものもない」。

その結果、今後政権の上層部で危機感が深まることは確かだとグローゼフ氏は見ている。
「最近はクレムリンの情報を盗み出すハッカーからもさまざまな情報が出回っているが、プーチン周辺の不満は高まり、この戦争に皮肉を言う者も出てきている。プーチンが戦争を始める決定を下したことに対して激しく批判する者もいる。対立があることは明白で、今後プーチンがどういう行動をとるかが注目だ」。

■ 「参謀本部に戦略も戦術もない」と批判の声

こうしたプーチン政権中枢の情報について、グローゼフ氏はどのように信ぴょう性を確認しているのか。
Radio Svobodaのインタビューでグローゼフ氏は、「治安機関はわざと偽情報を流すが、良質のファクトと偽情報をどうやって見分けていくのか」という質問に、「最初はすべて偽情報だと疑ってかかり、意外に思われるような方法を積み重ねて、仕分けしていく。二重三重にチェックしていくことで、小さな情報が価値あるものになることがある」と答えている。