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カイコのサナギを口にする小泉進次郎衆院議員(手前)。隣は昆虫食の普及推進を図る武部新副農相=東京都千代田区の衆院第1議員会館で2022年5月20日午後4時9分、町野幸撮影

 「次世代のスーパーフード」として近年注目が集まっている昆虫食。気候変動などの環境問題やウクライナ情勢などを受けた食料不足への懸念が高まる中、近畿地方に住む22歳の現役学生は昆虫食を手に上京した。小泉進次郎議員ら国会議員に食べてもらい、普及に協力してもらいたいとの考えからだ。小泉氏の反応は。そして学生の思いとは――。

カイコ、コオロギ、ハエの幼虫…

 5月20日、東京・千代田区の衆院第1議員会館の一室。小泉氏は目の前に差し出されたカイコのサナギを口にした。満面の笑みを浮かべながらつぶやいたその感想は「オレ、今、食べてるって感じ」。どうやら口の中のカイコのコロリとした存在感をしっかりと感じたようだ。

 このカイコを差し出したのは、奈良市にある近畿大大学院・農学研究科の現役学生で、昆虫食の普及活動を行う清水和輝さん(22)らだ。環境問題や食料問題の一つの解決策として期待される昆虫食をもっと広めたいと、環境相や自民党の農林部会長を歴任した小泉氏に協力を求めるため上京。小泉氏が声をかけた国会議員5人も同席し、その場は昆虫食の試食会となった。

 カイコのサナギとともにずらりと並べられたのは、コオロギ、ハエの幼虫、ハエ目に属する「アメリカミズアブ」の幼虫、セミの幼虫を、乾燥させたり、くん製にしたりしたものだ。「どうするよ、一緒にルビコン川渡っちゃう?」とお互い苦笑し合い、当初はとまどいを隠せなかった議員らも実際に口にすることでそのおいしさを実感したようだ。「濃厚で、カリカリとしたかつお節を食べているみたい」。試食会も後半になると、そんな「食レポ」も飛び出した。

食料危機に備えて

 「栄養を効率よく摂取できる昆虫食は、世界を救う一つの手立てです」。清水さんはそう熱を込める。

 食料や栄養不足への世界的な危機感は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料供給の不安定化を受けて高まる一方だ。栄養に富んでいる上に少ない餌で育ち、温室効果ガスの排出も少なく環境にも優しい昆虫食への期待値は世界的に高まっている。

 清水さんは4月1日、シルクを使った製品の企画販売を手がけるベンチャー企業「NEXT NEW WORLD」(群馬県桐生市)の取締役に就任。たんぱく質をはじめ豊富な栄養を含む昆虫であるカイコを使った「シルクパン」の開発に意欲を燃やす。

 ウクライナ情勢の影響で輸入小麦の価格が高騰していることを受けて、国産のコメから作る米粉を活用し、さらにカイコの繭から取ったシルクの粉末をパン生地に練り込んだものだ。焼き上がった状態で冷凍し、購入者が解凍しトーストして食べる「冷凍パン」にすることで、長期保存して食品ロスを防げるほか、忙しい大学生や社会人など若い世代にも手軽に栄養を補給してもらえる食品だという。

農水省も普及に本腰

 「食料安全保障の問題もあるし、いいテーマだと思う」。清水さんの話に耳を傾け背中を押したのは、ドイツで5月14日まで開催され、世界の食料問題を話し合った主要7カ国(G7)農相会合に出席した武部新副農相だ。

 武部氏は、試食会以前にコオロギパウダーが入ったチョコを食べたことがあるという。それもそのはず、農林水産省は目下、昆虫食の普及拡大に取り組んでいる。21年7月には組織改編を行い、昆虫食や大豆ミートといった代替肉などの普及を推進する課を新設するなど、本腰を入れる。

 清水さんは「昆虫と聞くと苦手に思う人もいると思うが、一つの概念にとらわれずに一度口にしてみていただきたい。まずは知ることから」と呼びかける。昆虫食はエビやカニに似た成分を含むため食物アレルギーのある人には注意が必要だが、可能な人は一度口にしてみてはいかがだろうか。【町野幸】

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