そうなると味方の戦車などが地雷原を安全に通り抜けられないため、92式地雷原処理車を運用する施設科部隊の隊員は、味方の掩護射撃を受けながら地雷原まで走り、地雷の未処理部分がないかどうかを確認しなければならないのです。

 これは決死の作業で、実際に対抗演習と呼ばれるような、赤外線で交戦する装置、通称「バトラー」を用いた訓練では、多くの施設科隊員がこの障害処理中に敵(対抗部隊)から狙い撃ちされ、「死亡」判定を受けています。

 この部分は、総火演では披露されることはありませんが、実は重要な作業だといえるでしょう。

フル装薬で射撃したときのトホホ話も
 総火演は今年もインターネット動画「YouTube」でライブ配信されますが、この92式地雷原処理車の投射からパラシュートで引っ張り出される爆薬ブロック、そして爆破の様子を視聴したのち、“未処理がないか施設課隊員が走り回っている”姿をイメージすると、臨場感が高まるかもしれません。

 また、総火演において流れる無線の音声をよく聞いていると、92式地雷原処理車がロケットを投射する前後に、戦車中隊による射撃を行い、敵の動きを一時的にストップさせているのが確認できるはずです。常に互いに援護し合い、決して単独で行動しているわけではないことがわかると思います。

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ロケットの弾体後部からパラシュートで引き出された装薬ブロック。まだ数珠繋ぎ状態のままだが、このあと、後ろのロープに引っ張られ等間隔に展張する(武若雅哉撮影)。
 ちなみに、総火演では爆薬ブロックの数を4分の1程度まで減らして投射します。その理由は、演習場使用協定に基づく爆破薬の使用量制限に引っ掛かるからです。装薬をフルにした場合、爆発音とその衝撃はすさまじく、地元住民からクレームが来てしまいます。

 ゆえに、国内における92式地雷原処理車のフル装薬での投射は、制式採用前の試験運用時に北海道の矢臼別演習場で実施された一度しかないといわれています。それ以外でフル装薬での投射を行っているのはアメリカでの訓練時のみに限られます。
【了】

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