今や若者だけではなく中高年もYouTubeやサブスクリプションサービスで映像作品を見る時代。テレビの黄金期は去って久しい。とはいえ今も熱心にテレビを見続けるアラフォー、アラフィフもいる。その違いとは何なのであろうか。(フリーライター 武藤弘樹)

よく聞く「Z世代のテレビ離れ」
では中年のテレビ離れはどうか
 昨今、「テレビを見る人が減ってきている」という言説をよく聞く。特にZ世代、インターネット環境が当たり前の環境で育った若い世代のテレビ離れは著しく、主要キー局もその世代の獲得を狙った方策を打ち出そうと知恵を凝らしているようである。

 では、中年以降の世代のテレビ離れはどうか。こちらはテレビが当たり前の時代に育って、インターネットによる文明開化を目の当たりにし、肌で体感してきた人たちである。

 結論から言って、「離れている人もいれば、依然として『テレビ最高!』と考える人もいる」である。ではその両者の違いはどのようにして生まれるのか。これを本稿では考察していきたい。

重度のテレビ好きおじさんが
テレビを一切見なくなったわけ
 まず、超テレビっ子だったおじさん(42歳男性)が、テレビから離れたケースである。

 見たい番組を片っ端から予約録画しておき、どんなに忙しくても日に1~4時間はテレビを見る時間を確保していた。休日はとりためたものの消化である。この生活を長年続けていた。しかしここ最近、ついにテレビをほとんど見なくなり、視聴時間が週に合計で1~2時間程度となった。

 では、そのテレビを見なくなった時間は何をするようになったのかというと、SNSかVOD(ビデオ・オン・デマンド)の視聴である。

「テレビではバラエティー、政治、ドキュメンタリーなどいろいろなジャンルのものを見ていた。バラエティーは腹を抱えるほど面白く、ニュースやドキュメンタリーは知的好奇心や問題意識を刺激してくれていた。

 テレビから離れた直接のきっかけは、Amazon Prime Videoを見始めたことだった。そちらで自分が好きなタレントたちが出演する笑えるバラエティーをやっていて、『こっちにも面白い内容の番組があるのだな』と発見した。その後ほかのサブスクにも加入して、そちらに割く時間が少しずつ増えていった。

 並行して、YouTubeの視聴時間も増えていった。これも芸能人がやっているチャンネルの視聴から始まって、関連動画で表示されるものを追っていくうちに好きなYouTuberが何人かできて、彼らの配信を追っていたらテレビを見る時間が減った。

 テレビのとりだめ分をちゃんと消化すべく躍起になったが、消化する量よりたまっていく量の方が圧倒的に多く、『これは無理だ』と途方に暮れた。

 その時、糸が切れるように『テレビを見なくちゃ!』という義務感に似た気持ちが、フッと消えるのを感じた」(テレビっ子おじさん)

時代の必然か
「テレビの魅力が半減した」と考える人も
 先に紹介したのはテレビが極端に好きな人のケースだが、「まあ、普通に見ていました」くらいのテレビ視聴者が視聴の主軸をネットコンテンツに移した場合は、次のようなコメントが聞けた。

「いつの頃からか、テレビ番組(主にバラエティー)の内容が押し並べて似たりよったりな印象になってきた。とがった内容のものは放送されず、『丸く丸く』を心がけて制作されているようで、チャンネルを回せば街ブラかクイズばかり。一方、ネットには刺激的なコンテンツがたくさんあった。テレビからネットに人が流れるのも道理だと思う」(38歳女性)

 かつては「最強の媒体」で鳴らしたテレビは、王者ゆえの弱みがあった。圧倒的多数に視聴されるがゆえに公共を意識せざるを得ず、ネット文化とともに広まった「炎上」を体質的に恐れなければならなかった。詰まるところは、番組は丸く丸く作られる。

 一方、新進気鋭のネットコンテンツには、丸いテレビで蓄積された鬱憤を発散したい制作者・視聴者がなだれ込んで、かいわいは一気に盛り上がった。さらに、テレビよりもフットワークが格段に軽かったので、時に「炎上上等」を掲げながら番組制作に励むことができた。

 このような状況だったから、テレビからネットに人がある程度流れたのは、時代の必然とも言える。