記録的な票差で否決
果たして国民のための不信任決議案だったのか。立憲民主党と社民党が6月8日に衆議院に提出した細田博之衆議院議長の不信任決議案と内閣不信任決議案は、翌9日に衆議院本会議に上程され、即日否決された。

自民党と公明党がこれらに反対したのはもちろんだが、前者の採決では日本維新の会、国民民主党、有志の会やれいわ新選組が棄権。後者の採決では日本維新の会や国民民主党、有志の会が反対し、れいわ新選組は棄権した。

「これで今国会での最後の憲法審査会の開催はなくなってしまった。我々が提案して週1回は開くことにして、17回目となる今日の審査会で緊急事態条項の骨子などを示し、最後のまとめを行うはずだったのに、それもできなくなってしまった。残念でならない」

本会議の後、議員会館の自室に戻った国民民主党の玉木雄一郎代表は、半ば怒りを込めてこう言った。憲法審査会だけではない。9日に開催予定だった衆議院の内閣委員会、総務委員会、法務委員会、文教科学委員会、厚生労働委員会、国土交通委員会、そして環境委員会の7つの委員会は取りやめとなり、翌日に延期された。

それにしてもなぜ、このような結果となったのか。細田議長の不信任決議案の賛成は105票で反対は288票だったが、岸田内閣の不信任決議案については、賛成が106票に対して反対が346票。賛成と反対の票差240票は記名投票での不信任決議案の否決として歴代最大の差だ。立憲民主党らの内閣不信任決議案の提出は、かえって岸田政権の支持を強めてしまった印象が残る。

「文春頼り」の姿勢
そもそもこれらの不信任決議案の提出は、綿密な計算に基づいて行われたとはいえない。立憲民主党は当初、細田議長の不信任決議案を6月7日に衆議院本会議に上程するはずだったのだ。

細田議長は衆議院での「1票の格差」を是正するために与野党が合意した「10増10減案」に異議を唱え、「手取り100万円未満の議員を増やしても、罰は当たらない」と発言。これらが衆議院議長として適正を欠くのではないかと問題になっていたが、立憲民主党が最も問題視したのは週刊文春6月2日号が報じた女性記者に対するセクハラ行為だ。

同党は2018年4月、当時の財務省事務次官が在京テレビ局の女性記者にセクハラを行った疑惑で「#me too運動」を展開。社民党議員らとともに喪服を着てプラカードを掲げ、財務省に抗議したことがある。

当時は世界各地で「#me too運動」が隆盛だったため、これに乗じて安倍政権(当時)批判を強めようとしたが、党内に議員のセクハラ問題を2件も抱えながら甘い処分ですませていた立憲民主党に世論が反発。「パフォーマンスにすぎない」と批判された。

だからこそ日本維新の会や国民民主党、有志の会などはこれを警戒し、セクハラ行為自体は許せないとしつつも、「週刊誌報道だけでは積極的な根拠付けにならない」と不信任決議案に賛成しなかった。また立憲民主党も彼らに対して、積極的な働きかけを行ったわけではなかったのだ。