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財務省から「コスパが悪い」と指摘された10式戦車

 朝日新聞デジタルは5月25日、「ウクライナでも次々破壊、戦車はコスパ悪い? 財務省と防衛省の攻防」の記事を配信した。財務省が防衛省に「戦車は高額な割にコストパフォーマンスが悪い、安くて役に立つ対戦車ミサイルを増やせ」と“注文”をつけたという内容だ。

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 記事の一部をご紹介しよう。

《4月20日にあった財政制度等審議会(財政審)。委員に配布された資料には厳しい言葉が並んでいた》

《財政審は財務相の諮問機関で、取りまとめた建議(報告書)は財務相に提出され、予算編成に生かされる。資料は議論のたたき台で、財務省の考え方がにじむ。そこで「課題を抱える装備品」の一例に挙げられたのが戦車だった》

《疑問視されたのは費用対効果だ。その根拠として、ウクライナ軍が米国製の携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」でロシア軍の戦車を多数破壊している事実が示された。資料は「対戦車ミサイルを活用することはコストパフォーマンスを高める」と指摘する》

 財務省はそこまで口を出すのか、と驚いた方も多いだろう。担当記者が言う。

「財務省が“戦車不要論”を唱えたのですから、かなりの反響がありました。東洋経済や産経新聞も記事にしています。複数の軍事専門家が“戦車必要論”を主張して反論したこともあり、『財務省が日本を滅ぼしてしまう』と指摘する識者もかなりの数にのぼっています」

雨漏りする倉庫
 本稿では、戦車が必要か不要かという問題は取り上げない。デイリー新潮は6月4日に配信した「防衛費“5兆円増”で自衛隊が購入すべき兵器は? 専門家が『トマホーク』を挙げる理由」の中で、戦車不要論は正しいかどうか専門家に取材している。興味のある方は、そちらをご覧いただきたい。

 本題に戻ろう。とにかく財務省が防衛費に対し、細かなところまで口出ししていることを理解してもらえれば、それで充分だ。

 ロシアがウクライナに侵攻したことで、世論調査では有権者の過半数が防衛費増額に理解を示しているという(註)。

 さぞかし自衛隊では士気が上がっているだろうと普通なら思う。ところが現場を取材してみると、「高額で高性能な最新兵器より、私たちの身の回りを整備してほしい」という切実な声が多いようなのだ。さる軍事ジャーナリストが言う。

「自衛隊の現役隊員に『防衛費が増額したら、何を整備してほしい?』と質問すると、『雨漏りする倉庫を改築してほしい』という答えだったので驚きました。財務省の予算査定が厳しいため、駐屯地の倉庫は老朽化が進んでも改築は後回し。中も狭くて装備品で埋まっているそうです。『最新兵器を買ってもらっても置く場所がない。雨漏りもひどいから故障したら大変だ』と言うのです」

装甲車を青空駐車
 ウクライナ侵攻により、先進国間で“二極化”が進むのではと懸念する声がある。

 北大西洋条約機構(NATO)の加盟国や支持国はウクライナ支援で団結する一方、覇権主義や“反NATO・反米”を掲げるロシアと中国は関係を深めている。

 明日にでもロシアや中国が日本を侵略する可能性は低いにしても、両国が日本に対して軍事的な威圧を強めているのは間違いない。

 また、台湾有事の場合は決して絵空事ではない。北朝鮮の瀬戸際外交や挑発行為はエスカレートするばかりだ。日本が東アジアにおけるプレゼンスを高めるためにも、防衛力増強が急務であることは言うまでもない。

 防衛省は対中防衛の一環として、鹿児島県の馬毛島から沖縄県の石垣島を結ぶ線を“防衛ライン”として捉え、ミサイル部隊など駐屯地の建設に着手している。

 日本防衛における“最前線”だが、ここでも取材をすると切実な悲鳴が聞こえてくるという。

「沖縄県内の駐屯地では部隊の車両車庫まで予算が回らず、装甲車なども青空駐車で塩害に悩まされています。野ざらしだと車両の劣化が早く、整備に手間を取られてしまう。ただでさえ人手不足なのに、余計な作業が増えて困っているそうです。『防衛費が増額されるなら、車両の車庫が欲しいですね』とのことでした」(同・軍事ジャーナリスト)

「掩体壕」の重要性
 装甲車の駐車場に屋根がないというのも困った話だが、これが軍用機となると、国防上の大問題に発展してしまう。