無数のカメラや顔認証で国民が監視されている中国では、要注意人物の行動を追跡して事前に取り締まる体制が構築されていると、The New York Timesがレポートしています。

The New York Timesによると、社会が不安定になることを何よりも恐れている中国政府は、国中に張り巡らされた監視網から入手したデータを徹底的に自動解析し、犯罪や抗議活動が行われようとしているのを事前に予測するシステムを構築しているとのこと。中国政府から見た「トラブルメーカー」としてマークされている人の中には、犯罪歴や政治犯、ウイグル族を始めとする少数民族や移民の労働者、精神疾患を持つ人が含まれています。

そのことが端的に表れているのが、2020年に中国南部の警察当局が、「香港の夫と一緒に住みたいという女性の移住申請を拒否した」という事例です。このケースは、監視ソフトが「婚姻関係に不審な点がある」と警告したことにより特定されたもの。その後の調査により、女性とその夫は同じ時間に同じ場所にいることが少なく、春節の休暇も一緒に過ごしていないことが分かったので、警察は「2人の婚姻は女性が香港に移住するための偽装結婚だった」と結論付けました。つまり、中国では国民が好きな場所に住めないだけでなく、いつ、どこにいるかが当局によりほぼ完全に把握されているということです。

国際的な人権団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチで中国担当上級調査員を務めるマヤ・ワン氏はこうした監視網を「これは社会に課せられた、目に見えないテクノロジーの監獄です」と述べました。

中国当局は、特に政治的な動向に目を光らせています。中国の首都・北京に隣接する天津の警察は2022年に、ウイグル人弾圧に関与しているとしてアメリカ政府が取引禁止企業のリストに入れた監視カメラ企業・Hikvisionの監視システムを導入しました。このシステムは、政府に不満を持つ「陳情者」に関するデータを収集し北京に行く可能性についてのスコアをつけることで、デモや抗議活動の可能性を事前に予測するものです。

また、The New York Timesが入手した資料によると、2018年に福建省・周寧県の警察が地域内に追加した監視カメラ439台のうち、9台は精神疾患を持つ人の家に取り付けられたとのこと。資料の中には、キーパーソンとしてブラックリストに入れられている人の中には、移民や少数民族の人々、外国人、HIV感染者、さらには学校や仕事に行っていない、日本で言うところのニートの若者まで含まれていることが記載されていました。

こうしたテクノロジーによる全体主義社会について、文化大革命中に家族が政府から拷問を受けたことをきっかけに長年抗議活動をしてきたというZhang Yuqiao氏は、取材に対し「政府は問題を解決するのではなく、問題を提起する人を黙らせるために、あらゆる手を講じています。これは社会にとって大きな後退です」と訴えました。

https://gigazine.net/news/20220627-china-surveillance-police/