韓国が独自開発したロケット「ヌリ号」が先月、衛星の軌道投入に初めて成功し、同国内で宇宙開発の機運が高まっている。8月には米国と協力して韓国初の月軌道衛星が打ち上げられる予定で、政府やメディアは「宇宙強国への跳躍」とムードを盛り上げる。ロケット技術の進展は、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対抗する国防力強化につながるとの期待もある。(木下大資)

◆先進国との「格差埋める」

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韓国・大田(テジョン)で、8月の打ち上げに向けて準備が進む月軌道衛星「タヌリ」=韓国航空宇宙研究院提供

 ヌリ号の成功に勢いを得て、韓国航空宇宙研究院(KARI)は月を周回する衛星「タヌリ」の準備を進めている。まもなく米国に移送され、8月3日に民間宇宙企業スペースXのロケットに載せて打ち上げ予定だ。

 タヌリは米航空宇宙局(NASA)が開発した特殊カメラなどを搭載し、月面を撮影した動画をリアルタイムで地球へ送信する。韓国は2031年までに月面に無人探査船を送る目標を掲げており、探査船が着陸するのに適した地形などを調べる。

 韓国は、米国が主導して有人月面着陸などを目指す「アルテミス計画」に参画しており、タヌリは米韓が宇宙探査で協力する初の事例になる。KARIの金大寛キムデグァン月探査船事業団長は「宇宙先進国との技術格差を埋めるには、協業が最も効果的」と期待する。

 韓国の宇宙開発は近隣の日本や中国に比べ、出遅れてきた。13年に打ち上げに成功した「羅老ナロ号」はロシアの技術を流用。後継機のヌリ号で、ようやく国産化の道筋を付けた。米国と結んでいたミサイル指針の改定で20年に固体燃料の使用制限が解除され、今年3月には軍が固体燃料ロケットの試験発射に成功。衛星打ち上げに向けた技術開発を加速させている。

◆「宇宙開発とともに国防分野も発展を」
 韓国メディアには、こうしたロケット技術の向上に軍事面の意義があるとする論調がある。朝鮮日報は、ヌリ号の成功を報じながら「有事の際は大陸間弾道ミサイル(ICBM)として活用可能」と指摘した。

 北朝鮮は昨年に「国家宇宙開発5カ年計画」を策定し、偵察衛星の運用を最重要課題としている。今年の2月末と3月初めに「偵察衛星の実験」と称して弾道ミサイルを発射したが、実際にはICBMの予備実験だったとみられている。

 ICBMは大気圏再突入に耐える必要がある点を除けば、ロケットと技術は同じ。先端に弾頭を載せるか、人工衛星を載せるかの違いだ。

 韓国国防省OBの朴哲均パクチョルギュン前軍備統制検証団長は「わが国がICBMを持つ意味はない」ときっぱり。一方で、ヌリ号の成功で偵察衛星を独自に打ち上げられる可能性が開かれた点を重視する。尹錫悦ユンソンニョル政権は、北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知した際の先制打撃や迎撃を可能にする体制構築を進めており、衛星による探知能力の強化が課題とされる。朴氏は「国家の宇宙開発技術とともに、国防分野も併せて発展させなければいけない」と語る。

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