安倍晋三元首相が、今月8日、卑劣な凶行の犠牲になり、亡くなられた。享年67歳。総理大臣として歴代最長の在籍期間を誇りながらテロによって落命した戦後初の首相となってしまった。このようなことは、今後二度と起こるべきではないし、起こさせてはならない、と強く思う。

安倍氏ほどある種の偏った思想を持つ人びとからの甚だしい悪意に晒された政治家は、おそらく過去に例がないだろう。安倍氏に繰り返し投げかけられた言葉や抗議活動は、批判などという穏当な意見表明ではなく、そのほとんどが誹謗中傷であり、罵倒であり、あからさまな憎悪そのものだった。著名人限定で具体的に検証してみよう。

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ざっと眺めてみただけで胸が悪くなる。「醜悪」の一語しか脳裏に浮かばない。世の中に何かを訴える前に大人として当たり前の礼節を身につけなさい、とこれらの人びとには言いたくなるが、疾うに手遅れの感が否めない気もする。

この世の良からぬことのすべては安倍氏のせいだ、と考える人たちを世間では「アベガー」と呼ぶらしい。安倍氏が非業の死を遂げて初めてアベガーたちは、自分たちの安倍氏に対する振る舞いが実行を伴わない暴力——表現による私刑(リンチ)だった、と気づいたようで、慌てて撒きちらした主張の論点をずらしたり、SNS上の汚い文言を消去したりしている。まるで証拠を隠滅するかのように。

アベガーと言われる人たちのほぼ全員がこの国の左翼陣営の人びとだ。リベラリストを自称しているが、リベラルなどではなく、「社会主義革命ごっこ」の路線を今日まで懲りもせず無邪気に継続してきた人たちとその人たちの言動に惑わされ影響を受けてしまった気の毒な全共闘後世代の集まりだ。

テロの実行犯が左翼リンチ村の住人でなかったことは、彼らにとって幸運だった。しかし、彼らアベガーはそのことに安堵して終わりにはならない。たとえばアベガー系メディアなどは早速安倍氏に対する悪辣なバッシングを再開している。喪に服す時間も惜しいのだろう。

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安倍氏暗殺犯の動機が反社会的カルトへの敵意と判明した時点で、アベガーたちの攻撃性がどの方向に発動するのかは、自明のことだった。被害者とはいえ、悪質カルトと関係のあった安倍氏にも非がある、と印象を操作する。ちなみにロシアのウクライナ侵略はウクライナ側の外交に問題があったからだ、と考える人びととアベガーの構成員はかなり重複している。被害者も悪い。どっちもどっち。

安倍氏を非難するために利用できるからこそ彼らは、このカルトを執念深く取りあげ、批判しつづけるはずだ。もしや犯人の目的はそれだったのではないか? とつい考えてしまう。むろん単なる憶測にすぎない。だが、安倍氏を陰謀塗れの悪しき権力者に仕立てあげてきたアベガーたちの活躍が加害者の妄想をまったく補強しなかったと考えるのは、むしろ不自然なように思える。