東京都国立市の「くにたち市民芸術小ホール」で5月下旬、「東京トリカエナハーレ2022」というイベントが2日間にわたって開催された。

主催者が公開した映像には、足を大きく広げた何体もの「空気人形」が椅子の上に展示されている様子が映っている。チマ・チョゴリを着せていることから「平和の少女像」を模したものであることがわかる。

ただ、本来の「平和の少女像」には、時間の経過を意味する年老いた影が伸びているが、空気人形の影は狡猾な笑みが浮かべているものだった。つまり、平和の少女像を揶揄しているものだといえる。

ヘイトスピーチ問題を追いかけるジャーナリストは「歴史に対する冒涜だ」としながら、展示を許可した自治体の責任も指摘する。

どうして「許可」されたのか。国立市に聞いた。(ライター・碓氷連太郎)

●「国立市は地方公共団体の責務を放棄した」
イベントの映像がYouTubeにアップされたのは、5月23日のことだ。

その説明には「日本を罵る反日プロパガンダ展『トリエンナーレ』が芸術だと言い張るので、真逆の展示会を開きました」という一文とともに、慰安婦を貶めるコメントが並んでいる。

韓国の聯合ニュースによると、この映像に対して、韓国外交部が「慰安婦被害者問題の真実を否定し、被害者を冒涜する一部の日本右翼勢力の動きを非常に遺憾に思う」という声明を出した。

その影響なのか、韓国語による批判コメントも複数ある。

ヘイトスピーチ問題を追いかけるジャーナリストの安田浩一さんは「歴史に対する冒涜であり、唾棄すべき民族差別だ」と険しい表情を見せる。

しかし、「問われるべき責任は、こうした展示を許可した側にある」とも指摘する。

空気人形の展示があったのは「くにたち市民芸術小ホール」。つまり、国立市が運営する、れっきとした公共施設だ。

「そうした場所で堂々と"ヘイト展示"が開催されたわけです。考えられません。ヘイトスピーチ解消法では、差別扇動行為の解消に努める地方公共団体の責務が明記されています。国立市はそれを放棄したとしか思えません」(安田さん)

国立市では、独自に「人権を尊重し多様性を認め合う地域条例」も定めている。「市は、基本原則に基づき、人権・平和のまちづくりを推進するため、市政のあらゆる分野において必要な取組を推進するものとする」とある。

「人権尊重といった観点からも、明らかにこれに反しています」(安田さん)

●国立市は関与せず、指定管理者に任せている
なぜ国立市は、特定民族を冒涜するような展示に施設を貸したのか。

国立市・教育委員会生涯学習課に問い合わせると、「施設利用の承認の権限を持ってるのが指定管理者なので、そちらに任せている」という耳を疑う回答が返ってきた。

この小ホールでは今年4月、「表現の不自由展」が開催されていた。

その後の4月20日、市はホームページで「今回の催しの主催は民間の実行委員会であり、市は本催しについて共催や後援なども一切行っておりません。従って、本催しに市は関与しておりません」という声明を発表している。

5月の展示も主催や後援など一切おこなっていないことから、国立市・教育委員会生涯学習課は電話での問い合わせに対して、同様の対応をとったと説明した。

くにたち市民芸術小ホールの使用規定には、営業を目的とした展示はできないことや飲食場所の限定、電源利用などについて書かれているものの、内容についての記載はない。

しかし、「表現の不自由展」の際には、申し込みの1週間後に館長から「いつもはしないのだが、今回は面談をしてもらえないか」という電話が主催者側にかかってきていた。

その際に館長から「貸さなきゃいけないんですよね」と言われたと、主催者が記者会見で明かしている。

「不自由展」の際には、なぜ、そのような申し出をしたのか。施設管理者の公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団は次のように説明する。

「施設運営における警備などの対策上必要だった。基本的に貸館なので内容に踏み込むことはしないし、どの団体に対しても展示に立ち会うといったことは一切おこなっていない」

あくまで不自由展への申し入れは警備のためのものであり、指定管理者側も内容については規定にないため、一切踏み込まないという姿勢だというのだ。