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有田芳生氏(撮影:張溢文)

 旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と政治家との関係が注目されている。だが、それらは35年前、「朝日ジャーナル」が徹底的なキャンペーン報道で迫ったテーマだった。問題解決の機会はなぜ失われてしまったのか。

 朝日新聞社が発行していた週刊誌「朝日ジャーナル」(1992年休刊)の徹底追及を機に、87年2月ごろから新聞やテレビなどの報道が一斉に始まり、霊感商法は社会問題化した。「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が結成され、被害者が返金を求める民事訴訟を起こし、教団が損害賠償を命じられるケースも出てきた。92年には歌手の桜田淳子さんや元新体操選手の山崎浩子さんらが参加し話題になった合同結婚式をきっかけに、報道はさらに過熱。ここまで注目されながら、その後、長年にわたり問題は放置されてしまった。「朝日ジャーナル」が92年に休刊したことも悔やまれるが、理由はそれだけではないだろう。

 前参院議員でジャーナリストの有田芳生氏も朝日ジャーナルの取材班の一員で、その後、週刊文春で合同結婚式の問題を取り上げた。有田氏がこう指摘する。

「山崎さんが脱会する93年まで週刊誌、ワイドショー、スポーツ紙は大きく報じましたが、一般紙はほぼ無視でした。95年の地下鉄サリン事件以降はオウム真理教に焦点が移ります。93年からの“失われた30年間”で、統一教会はメディアと社会の監視から隠れてしまったのです。私は直接、警視庁幹部から『政治の力が働いた』と聞いています」

 安倍元首相が昨年9月、旧統一教会の「友好団体」である「天宙平和連合」の集会にビデオメッセージを送ったことが、山上徹也容疑者が安倍氏に殺意を抱くきっかけとなった。教団と政治家のただならぬ関係が表面化したわけだが、朝日ジャーナルの86年7月25日号には、その後の展開を予感させる記事が掲載されていた。

 86年7月の衆参ダブル選挙で、当時の中曽根康弘首相はスパイ防止法の制定を目指していた。

 この動きを後押ししたのが、文鮮明氏が反共を旗印に68年に設立した政治団体「国際勝共連合」だ。勝共連合は各地の大会で「スパイ防止法を推進する議員を当選させよう」と呼びかけた。結果は、自民党の圧勝。朝日ジャーナルの記事では、勝共連合が応援した130人の候補者が当選したことを報じている。

<ダブル選挙開票日の翌日、統一教会とかかわりの深い日刊紙『世界日報』に「勝共推進議員一三○人の当選を祝す」という勝共連合の一ページ広告が載り、当選したばかりの衆参両院議員の名前が並んだ。

 それによると、(中略)今回の選挙では「全力をあげて推薦議員の当選を期して戦い、その結果、本連合特別会員および顧問一三○人の当選をみるに至りました」となっている>

 全国霊感商法対策弁護士連絡会の渡辺博弁護士がこう説明する。

「勝共連合の共産主義反対という趣旨に賛成する議員たちが、選挙の応援を受けていたのです。運動員を動員して、無償で秘書も提供して後援会もつくる。その代わり、議員は統一原理の講義を泊まり込みで受けたり、イベントに参加したりする。それをいまでもやっているということです」

 政治家との関係は連綿と続いてきたようだが、教団に衝撃を与える事件が起きる。2009年、「先祖の因縁がある。印鑑を買わないと命がなくなる」などといって高額な印鑑を買わせた疑いで印鑑販売「新世」の社長らが警視庁に逮捕され、教団の渋谷教会など関連施設が家宅捜索を受けたのだ。東京地裁は社長に対し、特定商取引法違反で懲役2年(執行猶予4年)、罰金300万円の判決を言い渡した。霊感商法で同法が適用されての懲役刑は初めてだった。

 前出・有田氏が語る。

「教団は新世事件から、本部教会が摘発される日が来るのではないかという恐怖感を抱き、『有力議員への働きかけ』などの対策を強めていったのではないかと推測します」

 連絡会によると、1987~2021年に連絡会や消費者センターに寄せられた相談件数は3万4537件。被害額は1237億円に上る。被害は際限なく深い。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2022年8月19・26日合併号より抜粋

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