認知症になると元には戻りませんが、「認知症になりかけ」の状態ならまだ間に合います。しかるべき認知症予防を行い、積極的に脳を使うことによって、認知症に至らずに済ませることも可能なのです。認知症研究の第一人者・浦上克哉氏が監修した『すぐに忘れてしまう自分が怖くなったら読む本』(徳間書店)より、「認知症になりかけの状態」について見ていきましょう。

認知症は回避できる!発症する前の「黄色信号」
認知症のなかで最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、これはある日突然起こるわけではありません。自分が気づかないうちにじわじわと迫ってくるもので、それだけに大きな不安にかられてしまうことになります。

そして認知症には段階があり、発症する前のいわば「黄色信号」に当たるのが、「軽度認知障害(MCI)」です。MCIは、本人も周りの人も記憶障害(もの忘れ)が増えてきていることに気づいてはいるものの、日常生活に支障がない状態のこと。健忘症(老化によるもの忘れ)とも違い、健康な状態から認知症に移行する途中の状態です。この段階であれば、多くの場合でまだ「認知症」とは診断されず、認知症になるのを防ぐことが期待できます。

つまり、認知症になると元には戻りませんが、黄色信号のMCIの段階であれば、まだ間に合うということ。「認知症になりかけ」の状態なら、しかるべき認知症予防を行い、積極的に脳を使うことによって、認知症に至らずに済ませることができるのです。逆に、日常生活に支障がないからといって、MCIの状態で何もせずに放っておくと、認知症になる可能性が高いといえるわけです(図表1)。

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[図表1]軽度認知障害(MCI)なら元の状態に戻れる可能性も! (注)日本神経学会監修『認知症疾患診療ガイドライン2017』CQ4B-2,147

MCIの段階なら、もの忘れなどによるミスの繰り返しを自覚し、「今までの自分と違う…」と違和感を抱くことができます。それが、MCIから認知症に進んでしまうと、自分ではミスをミスだと認識できなくなるのです。

たとえMCIであることがわかっても、生活習慣の改善や脳の活性化などの予防策をとることで、認知症を回避できることをぜひ知ってください。

早期対処のために「MCIの人にみられる行動」を知ろう
現在の65歳以上の7人中2人は、MCI(軽度認知障害)か認知症であるという報告がなされています。また、「認知症予備軍」といえるMCIの状態で何もせずにいると、4~5年後にはその半数以上の人が認知症になってしまうというデータも示されています。

それを避けるためにも、自分がMCIであることを早めに発見し、予防策を早期に講じることが大切です。もっと言えば、MCIであることに早く気づくために、認知症のことを正しく理解することが重要なのです。

そのために大切なのは、日々の生活のなかでの「従来との違い」や「何度も感じる違和感」といった変化にいち早く気づき、「ひょっとしたら…」と疑ってみることです。日々の変化に敏感になることで、早期の対策が可能になるのです。

たとえばMCIの人に現れそうな行動や状態は、下記のようなものがあげられます。日頃の掃除や洗濯、買い物や料理などの行動のなかで、「最近、不安が募るようになった…」という方は、どのくらい当てはまるかチェックしてみると良いでしょう。