最近、日本と韓国の関係を考える上で、興味深い2つの出来事があった。1つは、在日コリアンが多く住む京都府宇治市のウトロ地区に放火した罪などに問われた男に対し、2022年8月30日、「特定の出自に対する偏見に基づく犯行だ」として、京都地裁は懲役4年を言い渡し、その後刑は確定した。男は「韓国人に敵対感情があった」と動機を述べていた。

 もう1つが、世界的にヒットした韓国のドラマ「イカゲーム」が、9月13日にアメリカの優れたテレビ番組などに贈られるエミー賞で、ドラマ部門の主演男優賞や監督賞など6つの賞を受賞したことだ。英語以外の言語による作品がエミー賞の主要部門を受賞するのは初めてだ。

 放火した男が様変わりした韓国の実情を知れば、果たして歪んだ優越意識を持っていたかどうか疑問に思った。本書『韓国の変化 日本の選』(ちくま新書)は、長年韓国に駐在し、現地事情に精通した外交官が、韓国市民の本音や日本観を冷静に分析した本で、いわゆる「嫌韓本」とは一線を画するものだ。韓国ドラマを見て、どうも想像とは違うようだ、と感じ始めた人に一読を勧めたい。

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 著者の道上尚史さんは、東京大学法学部卒。ソウル大学研修後、ハーバード大学修士。韓国で5回計12年間勤務した外務省きっての韓国通。現在、駐ミクロネシア連邦大使。

韓国は1990年を境に変わった
 道上さんによると、韓国人の代表的な日本観は以下のようなものだという。

 「80年代まで韓国は弱小国、日本は強国で、日本に不必要に譲歩した。今や韓国は強くなり日本に堂々とノーと言える」
 「寿司、居酒屋、日本観光が好き。3,40年前のような盲目的反日ではなく、コンプレックスもない。ビジネス、国際化の面で日本を抜いた。日韓はよい時代になった」
 「かつては4強(米露日中という大国)に韓国が囲まれる構図だった。今は米中二強対立の中で、韓日というミドルパワー2国がライバル関係にある」
 以上は、保守・進歩の差を超えて、ほぼ共通に見られるものだという。

 経済発展を遂げ、自信を得た韓国人。道上さんは、2017年夏、釜山総領事に着任。総領事館前に「慰安婦像」が設置され、連日デモが行われたそうだ。釜山の識者、日本通の反応は「ハハ、気にしないで」というもので、衝撃を受けたという。

 1990年を境に、韓国は変わったと分析している。「昔を否定し今を肯定する」発想が基盤にあり、それ以前を「克服すべき、遅れた時代」と見るあまり、時代を超えてどの国家にも当然必要とされる「外交」「国家」の常識が一部飛んでしまうのだ、と憤っている。

日本は韓国を3回「発見」
 「第3章 日本側が留意すべき点」に面白い指摘があった。1980年代前半以降、日本は韓国を3回「発見」したというのだ。

 1度目は1984~88年。NHKハングル講座の放送開始からソウル五輪にかけて。軍部独裁という暗い印象の国だったが、経済、文化、言葉など多様な韓国の姿が知られるようになった。