《(ウクライナ東部の)クプヤンシク近郊の森で、ウクライナ軍の第92旅団が、凍えて怯え切った『動員兵』を捕らえた。所属部隊から脱走し、ロシアに戻ろうとしたが道に迷った兵士だ!》

 ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問が、メッセージアプリ「テレグラム」に、そんな言葉を添え、兵士の動画を投稿したのは9月27日のこと。脱走兵とされる男は、ウクライナと国境を接するロシア西部のロストフから動員された人物で、5日前に動員され戦場に派遣されたという。

「男は動画の中で、自分は部分動員令でロシア軍に徴兵されたとして、戦闘ではロシア側に多くの犠牲者が出ていると話しています。また、この男によれば、戦地に派遣後、所属部隊の司令官に会ったのは1度だけで、3日目に捕らえられたとして、《ロシア政府のプロパガンダに耳を傾けてはならない、ウクライナとの戦闘に参加してはならない》と呼びかけています。これが事実なら、訓練なしの『兵士』が戦地に放り込まれ、司令官の指示もないという、通常の軍隊では考えられないことが起こっているということです」(軍事ジャーナリスト)

 動員されたロシア人が、訓練も健康状態のチェックもなしに、前線に派遣されているといった報告は、独立系メディアなどでも報じられている。

「前日26日には、ロシア語の独立系ニュースメディア『メディアゾナ』が、ロシア西部リペツクから戦場に派遣された動員兵の妻を取材し、彼女の夫が所属する連隊も、訓練を1日受けただけで、翌日にはドンバス地方の前線に派遣された、と報じています。また、国外追放されたロシアの人権派弁護士が結成する『Pervy Otdel』も同様の報告をしている。つまり、戦場の最前線で、一般人が目的もなしに、ただ武器を持たされている、という考えられない事態が起こっている可能性が極めて高いということです」(前出・軍事ジャーナリスト)

 そんな情勢が背景にあるのか、9月30日、ウクライナ国防省が立ち上げたのが、ロシア兵に向けた「国家プロジェクト『生きていたい』」と題したホームページだ。ロシア語で記された同ページには、《上官は真っ先に逃げ出していませんか。自分自身と家族のため、命を守って下さい》とのメッセージとともに、掲載された電話番号に連絡してから投降すれば、「1日3食」と「医療サービス」などを保証、さらに、自発的投降であっても、「戦闘における結果として捕虜になった」と登録し、ロシアでの処罰対象にならないと明記されている。

 プーチン氏の「ウクライナ4州併合宣言」による西側諸国の一斉反発、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟申請、そして明らかになりつつある「ロシア兵の実態」と戦闘の最前線…。情勢は依然として混沌としているのである。

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