【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は、韓国は「明白な敵」だとして韓国を狙う戦術核兵器の量産を表明した。これに対し、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「一戦を辞さない構え」で北朝鮮の挑発には確実に報復するよう指示。対北抑止力強化で連携を深める日米韓に対し、北朝鮮は対抗措置を口実に核・ミサイル開発を加速させており、朝鮮半島を巡る緊迫の度が高まっている。

「『戦争準備』まで公言する南朝鮮傀儡(韓国政府)が疑う余地なくわれわれの明白な敵として迫っている」。金氏は昨年末の党中央委員会拡大総会でこう危機感をあおり、核弾頭増産の必要性を主張した。

尹氏は文在寅(ムン・ジェイン)前政権の親北路線からの脱却と米国の核の傘に代表される対北抑止力強化に向け、米国との連携を深めてきた。北朝鮮の無人機が昨年末、韓国領空を侵犯した後には「平和のためには圧倒的優位な戦争準備をすべきだ」と防衛計画の見直しを指示した。

これに対し、金氏は昨年12月31日に北朝鮮が「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」と呼び、対韓主力攻撃兵器と位置付ける短距離弾道ミサイル30基の「贈呈式」に出席し、「核には核、正面対決には正面対決で断固対応する」と米韓への対決姿勢を強調。このミサイルについて「敵に恐怖と衝撃を抱かせる兵器だ」と開発の成果を自賛した。

1日未明には、超大型放射砲を引き渡された長距離砲兵部隊がさっそく「射撃した」と北朝鮮メディアが報じており、実戦配備済みであることを示している。金氏は総会で、核兵器について防御以外の「第二の使命」も決行し得ると指摘。先制攻撃に使い得るとの立場を改めて明らかにした。

北朝鮮の戦術核は在日米軍基地も標的にしているとみられている。金氏は総会で安全保障協力強化に動く日米韓を非難し、「米国の同盟戦略に便乗し、わが国の尊厳と自主権を奪おうとしている国々」との表現で日本にも警告を発した。

韓国を狙った金氏の威嚇に対し、尹氏は1日、韓国軍幹部に「一戦を辞さない構えで敵の挑発に対し、確実に報復しなければならない」と強調。韓国国防省も「北朝鮮が核使用を試みれば、金政権は終末を迎える」と警告。尹政権は北朝鮮の核・ミサイルの脅威に、それを凌駕(りょうが)する防衛力の増強で対応する方針だ。

北朝鮮の総会では、金氏を除き軍序列1位だった朴正天(パク・チョンチョン)党中央軍事委員会副委員長兼党書記が解任され、後任に李永吉(リ・ヨンギル)国防相が就任。国防相に加え、朝鮮人民軍総参謀長も入れ替わる軍首脳の刷新人事が発表された。金氏の意向次第で軍の実力者も解任されることを見せ付け、軍部の引き締めを図る狙いとみられる。

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