2023年1月6日 14:00   日本経済新聞
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米首都ワシントンで起きた連邦議会襲撃事件から6日で2年が経過した。襲撃を扇動したとみなされたトランプ前大統領の求心力は下がり、2024年の大統領選での復権シナリオが揺らぐ。バイデン大統領は米社会の分断修復よりトランプ氏への批判に力を入れており、米民主主義の立て直しは道半ばだ。

バイデン氏は6日、事件について演説し、当時議会の警備にあたった人物ら12人に大統領市民勲章を授与する。ジャンピエール大統領報道官は4日、記者団に「最も暗い日の一つだ」として襲撃事件を重ねて非難。バイデン氏の演説について「他人や民主主義のために自らを危険にさらした米国民をたたえる」と語った。

襲撃事件は21年1月6日、バイデン氏の大統領就任を最終決定する議会手続きの最中に起きた。トランプ氏が20年11月の大統領選で勝ったと信じる支持者らが議会に乱入し、複数の死傷者を出した。米議会が攻撃を受けるのは米英戦争のさなかの1814年以来で、事件は米国の民主主義にとって汚点となった。

事件は世界の安全保障を揺るがしかねなかった。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は事件の真相を調べる下院特別委員会に「米国の敵国が米国の国内政治は不安定だと判断して隙を突こうとするとの一般的な懸念があった」と証言した。米国が機能不全に陥ったとみなされれば、中国やロシアの挑発行動を助長しかねない。

事件を受けて辞任を決断した当時のマット・ポッティンジャー大統領副補佐官(国家安全保障担当)は「米国は衰退していると主張するための攻撃材料を敵国に与え、敵国をつけ上がらせた」と話した。民主主義と強権主義のイデオロギー対立が激しくなるなかで中ロを利したと考えている。

トランプ氏は事件を受けて「過激派」との印象が強まり、無党派層の支持に陰りがみえる。22年11月の中間選挙で西部アリゾナや南部ジョージア、東部ペンシルベニア各州の上院選でトランプ氏が後ろ盾となった共和党候補が敗れた。

CNNテレビの出口調査では、米国の民主主義が危ういとの回答は68%にのぼり、襲撃事件が民主党に追い風になった可能性はある。

トランプ氏は2日、襲撃事件について「何も悪いことをしていない!」と記したメールを支持者に送った。特別委員会が自身を刑事訴追すべきだと司法省に勧告したことに改めて反論した。「反撃のためにあなたが必要だ」と強調して献金を呼びかけ、自らに襲撃事件を引き起こした責任はないとする強気の姿勢を貫いた。

一方で中間選挙での苦戦は、岩盤とされてきた保守強硬派からの支持にも影を落としかねない。共和党は下院では多数派を握ったが、3日開会の新議会で自党の下院議長を選出できていない。保守強硬派の議員が従わず、ケビン・マッカーシー氏を支持するよう求めたトランプ氏の呼び掛けにも応じていない。

保守強硬派は経済政策で「小さな政府」を志向し、歳出拡大を好んだトランプ氏と相いれない面が大きい。それでも保守強硬派がトランプ氏と歩調を合わせてきた理由について「トランプ氏の選挙での強さだ」と、保守派団体首脳は指摘する。襲撃事件などを背景に中間選挙で苦戦し、トランプ氏に遠心力が働く可能性がある。

バイデン氏は6日の演説でトランプ氏を信奉する支持者をめぐり、民主主義を脅かす存在だとして糾弾するとみられる。大統領就任直後は米社会の分断修復を進めるためにトランプ氏を名指しで非難しないケースもあったが、中間選挙前に対決姿勢へ一気に傾いた。24年の大統領選が近づくほど与野党の対立に拍車がかかる公算が大きい。