鉄道の駅からごみ箱が姿を消している。以前からテロ対策で封鎖や撤去が求められることが多かった上、家庭ごみを持ち込むなどマナー違反が後を絶たないためだ。コロナ禍で使用済みマスクが捨てられる衛生上の問題で撤去の動きが広がり、首都圏の主要な11事業者のうち、ごみ箱が残るのはJR東日本のみとなっている。(米山理紗)

使用済みマスク

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ごみ箱が撤去された西武新宿駅のホーム。自動販売機の横にメーカーが設置するリサイクルボックスだけが残る(18日、東京都新宿区で)

 「ゴミは持ち帰りましょう」。2021年3月から駅のごみ箱を全て撤去した西武鉄道の西武新宿駅のホームには、貼り紙が貼られている。自動販売機の隣には飲料メーカーが置くペットボトルや缶、ビンのリサイクルボックスはあるが、使ったティッシュペーパーなどのごみは捨てる場所がない。

 同社は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて20年4~6月、ごみを介した感染を防ぐため、ごみ箱をいったん封鎖。宣言解除後に開放したが、使用済みのマスクが捨てられるようになった。これまでもマナー違反に頭を悩ませていたこともあり、全駅での撤去に踏み切った。

 当初は「なぜ西武鉄道だけごみ箱がないのか」と苦情もあったが、今はほとんどないといい、広報部の担当者は「一定の理解は得られている」と強調する。

 利用者の受け止め方は分かれる。西武新宿駅を利用する東京都東村山市の主婦(48)は「安全対策の必要性や、マナー違反がある以上、仕方がない」と理解を示す。同市の臨時職員(78)は「駅で食べ物を買って食べても、ごみが捨てられない。もう一度、設置してほしい」と訴える。

テロ対策
 首都圏の鉄道で、早くからごみ箱がないのが東急、京浜急行、京王電鉄だ。

 04年にスペイン・マドリードの列車爆破テロがあり、当時、鉄道各社が安全対策としてごみ箱を撤去した。その後、多くの事業者が乗客からの要望を受けて元に戻したが、そのまま継続したことなどが理由という。

 元に戻した各社は、近年ごみの分別が強化される中、指定通り分別しなかったり、捨てにくい家庭のごみを駅で捨てたりというマナー違反に悩まされてきた。家庭の生ごみのほか、注射針が捨てられるようなケースもあり、東武鉄道の担当者は「清掃業者の安全面でも課題があった」と明かす。

 こうした中、コロナ禍を契機に20年以降、7事業者で駅のごみ箱が姿を消した。

JR東は分別に力
 JR東がごみ箱を残しているのは、東京駅などの巨大ターミナルを抱え、長距離利用客が多い同社は、駅で弁当や土産物など様々なものを販売しているためだ。

 在来線を中心に一部のごみ箱は撤去したが、駅弁などのごみが出る新幹線や特急の停車駅のホームは残しており、JR東首都圏本部は「駅構内で多くの店舗が営業しており、全撤去の予定はない」とする。

 しかし、マナー違反に悩まされているのは同様で、昨年末から東京駅など首都圏3駅で、「ごみ箱」を「リサイクルステーション」と名称を変え、分別の種類も3種類から5種類に増やす試験的な取り組みを始めた。JR東の担当者は「再資源化を打ち出すことで、利用客の意識を高めるきっかけになれば」と期待する。

公園や観光地も悩み
 大勢の人が利用できる場所にあるごみ箱は、各地で悩みの種となっている。

 横浜市の公園では、家庭ごみなどの持ち込みをきっかけに、2003年から撤去が進んでいる。神奈川県茅ヶ崎市は昨年3月までに、同様の理由から、海岸清掃のボランティア向けに複数設置していたごみ箱を全て廃止した。

 群馬県みなかみ町の「谷川岳ロープウェイ」では昨年9月から、ごみ箱の利用に100円の「応援金」を徴収するようにした。ごみ処理や景観を守る費用に充てることで利用者の理解を求めている。

 大阪公立大の水谷聡准教授(廃棄物管理工学)は「ごみ処理にはコストがかかる以上、ごみ箱の撤去はやむを得ない面がある」としつつ、「一部のマナーの悪い人のために、多くの人が不便を被る。撤去して解決ではなく、ごみを誰が引き受けるのか、そのコストをどう賄うのかといった議論が必要だ」と指摘する。

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