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新しい戦車を手に入れているのはウクライナ軍だけではない。まあ、「新しいものに近い」という意味だが。

同盟国がウクライナ軍を支援しようと最高の北大西洋条約機構(NATO)スタイルの戦車の提供を続々と約束する中、ロシアは数百両にのぼるかもしれない古い戦車T-72をアップグレードして戦場に戻している。

その結果、少なくとも1つのT-72の新モデル、T-72B3 Obr.2022が誕生した。1980年代に製造されたT-72Bに昼夜対応のデジタル照準装置Sosna-U、新しい反応装甲、後方確認用ビデオカメラ、125ミリ主砲の新しい砲身などを搭載し、改良が施されている。

だが、過度な期待はしないほうがいい。それらの改良はT-72の性能を大幅に向上させるものではない。T-72の基本的な問題点である危険な弾薬保管構造を改善していない。

T-72は主砲の弾薬を回転式砲塔の下に収納している。被弾すると弾薬が爆発し、その結果、戦車は破壊されて3人の搭乗員は死亡し、往々にして砲塔は上空へと吹き飛ばされる。

ロシアの戦車の搭乗員にとって同様に不幸なのは、同国の戦車メーカーであるウラルヴァゴンザヴォドが部品不足のために照準装置Sosna-Uを搭載していない格下げされた「緊急用」T-72B1 Obr.2022を生産せざるを得なくなったことだ。

Sosna-Uの代わりに1970年代にNATO軍が自軍の戦車に搭載したものと同等の、時代遅れのアナログ式照準装置1PN96MT-02を搭載している。この緊急用のT-72B1 Obr.2022は良い戦車ではない。

ロシア軍の装甲部隊が1980年代に逆戻りするような状態になっていることは何ら驚くことではない。ロシア軍はほどほどに最新の戦車T-72、T-80、T-90を数千両投入してウクライナとの戦争を拡大したが、ウクライナの大砲、対戦車ミサイル部隊そして戦車によってあっという間に1500両超を失った。

損失が膨らむにつれ、ロシア政府は倉庫や車両保管場に眠っていた1万両もの古い戦車を引っ張り出してきた。皮肉なことに、長期保管されていた比較的新型のT-72やT-80の多くは1970年代に製造されたT-62よりも状態が悪かった。

ロシアでは高度な光学機器や電子機器が保管庫から出されると、あっという間に品質が低下したり盗まれたりする傾向がある。T-62には高度なサブシステムが搭載されていなかったため、何百両ものT-62が何十年も使われず無傷で残っていた。

ロシアが2022年夏に急きょウクライナとの戦闘に投入したそうしたT-62は長くは持ちこたえられなかった。ウクライナ軍は少なくとも20両のT-62を破壊し、40両ほどを奪取した。40両あればT-62大隊を編成できる。
--{フランス製部品がなくなると照準装置の生産は難しくなる}--
T-62は明らかに間に合わせのものだった。T-62とその搭乗員は、ウラルヴァゴンザヴォドが修理してわずかにアップグレードできるかもしれない古いT-72を特定し、ロシア軍の消耗した戦車部隊を復活させるためにウクライナにそうした戦車を送るための時間を稼いだ。

ロシア各地に5000両もの古いT-72が保管されている可能性がある。そのうちのどれだけが錆びておらず、また適切に修理されているかは不明だ。だが無傷の戦車の不足は大した問題ではないかもしれない。むしろ、ウラルヴァゴンザヴォドは戦車のシャシが足りなくなる前に光学機器不足に陥りそうだ。

T-72B3 Obr.2022の最も重要な特徴は照準装置Sosna-Uだ。戦車の砲手が日中でも暗闇でも4マイル(約6.4キロ)先の標的を見つけ出すことができるようにするSosna-Uは、10年ほど前にロシアの産業界が非合法な手段で入手した無認可のフランス製の光学機器を中心に作られたとされている。