防衛を巡る動きの背景にあるのが、日本周辺で活動を活発化させる中国軍です。去年、全国で中国海軍の艦艇が領海侵入したケースは、いずれも屋久島沖で、4月、7月、9月、11月、12月と、あわせて5回でした。

なぜ屋久島沖ばかり相次いでいるのか?謎を解くカギは「潜水艦」と「水温」でした。

屋久島に暮らす瀬山哲矢さん(49)。島で20年近く漁業を営んでいます。

(瀬山哲矢さん)「祖父の時代から漁業やっている。いい漁場」

到着したのは、屋久島から南西に10キロ、口永良部島から南に20キロ余り離れた日本の領海内です。

(記者)「この周辺が中国の測量艦が頻繁に航行するルートです」

黒潮の恵みを受け、トビウオなどが獲れる豊かな海。この海域では去年、中国の測量艦の領海侵入が5回確認されました。

国際法では、外国船が領海に侵入しても、沿岸国の平和や秩序に害を与えなければ航行できる「無害通航」が認められていますが、防衛省は「中国海軍が日本周辺で活動を活発化させている」として、相次ぐ侵入に警戒を強めています。

(瀬山哲矢さん)「測量艦が入って来るとやっぱり不安。自分たちの庭先を荒らされるような気持ち」

領海侵入の目的は何なのか?元海上自衛官で、中国の軍事動向に詳しい笹川平和財団 小原凡司・上席研究員です。海洋進出を強める中国が日本沖の海の状況を調べ、「潜水艦を太平洋へ行き来させるルートを開拓しようとしている」と分析します。

(笹川平和財団 小原凡司・上席研究員)「測量艦はおもに海図などを作成するために使われる船。屋久島周辺が、中国海軍の潜水艦が探知されずに太平洋に出入りするのに適していると判断し(調査している)可能性がある」

屋久島沖の近くには鹿屋基地があり、潜水艦の探知や対応にあたるP−1哨戒機が配備されています。仮に中国が太平洋に出入りしようと考えるなら、鹿屋から離れたルートを選びそうですが、なぜ屋久島沖なのでしょうか?

十管本部の測量船「いそしお」。船舶の安全な航行などのため、海底地形の調査を担っています。音波を出し、海底で跳ね返ってくる音の速さをもとに地形を割り出しています。

「いそしお」は、音の伝わる速さの変化を確認しながら、海底の地形を調べますが、潜水艦の探知や対応にあたる鹿屋基地のP−1哨戒機や護衛艦も同じように、敵の潜水艦が出す音を探知するなどしてその位置を特定します。音波で地形を割り出す上で、重要なのが水温です。

(第十管区海上保安本部 仲井一博・海洋調査官)「水温が変わることで水中の音の速度が変わる。水中に伝わる音の速さが変わると、実際の海底と異なった記録になる」

かつて海上自衛隊で潜水艦隊司令官を務めた矢野一樹さんです。敵の潜水艦の探知が特に難しいのが、屋久島沖などで見られる、海水温が急激に下がる「変温層」と呼ばれる深い水域です。

(元海自・潜水艦隊司令官 矢野一樹さん)「潜水艦の音波は変温層に当たって屈折する。変温層に入った潜水艦は探知できない」

変温層に加え、屋久島沖ではさらに中国の潜水艦が侵入しやすい条件があります。それが黒潮です。黒潮は水温の変化が激しいため、音波を使った水中の状況把握が、通常より難しくなるのです。

元潜水艦隊司令官の矢野さんは、屋久島沖は変温層に加えて黒潮が流れるため、「中国海軍にとっては潜水艦が探知されにくい海域」だといいます。

(元海自・潜水艦隊司令官 矢野一樹さん)「黒潮は非常に流れが速いので、非常に複雑な音の伝播(伝わり方)になる。その音の反射が、潜水艦と間違われることもある」