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東京新聞の望月衣塑子記者。東京新聞でもこの”聞き違え発言”は大きく取り上げられた。望月記者は法相会見でこの発言を取り上げ、齋藤健法相に詰め寄った

 名古屋出入国在留管理局の施設で収容中に死亡したスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)を巡る中日新聞の報道で、メディア関係者から誤りを指摘する声が上がっている。問題となっているのは、同紙が2月10日朝刊の社会面トップで報じた、ウィシュマさんが亡くなるまでの様子が収められた監視カメラ映像に関する記事。看守がウィシュマさんに向けて話した発言を、聞き間違えて報道した可能性があるというのだ。看守に対する心象を一変させかねない”聞き間違い”はなぜ起きたーー。

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公判で上映が決まった「5時間分の映像」
 ウィシュマさんは2020年8月に不法滞在の疑いで静岡県警に逮捕された。その後、名古屋入管の施設に収容されたが、21年1月頃から体調が悪化。申請した2度の仮放免は許可されず、3月6日に体調が急変して亡くなった。

 遺族は同年11月、名古屋入管の局長(当時)ら職員13人を殺人容疑で刑事告訴。体調不良を訴えるウィシュマさんに適切な医療を提供せず収容を継続したのは、職員らが死亡しても構わないと考えていたからだと訴えた。しかし、22年6月、名古屋地方検察庁は不起訴とし、その後、検察審査会も不起訴相当と議決した。

【写真】鬼の首を取ったかのように”聞き違え発言”を用いて、法相会見で齋藤健法相に詰め寄る望月衣塑子記者

 一方、遺族が22年3月に1億5600万円の損害賠償を国に求めた民事訴訟は係争中だ。国側は「入管職員は注意義務を怠っておらず、対応に違法性はなかった」として全面的に争っている。

 その民事訴訟で昨年12月に国側から証拠として提出されたのが、ウィシュマさんが亡くなるまでの13日間を記録した監視カメラ映像である。

「提出された映像は約295時間のうちの約5時間分です。今後の公判で上映されることも決まっており、いま各社の記者が地裁に閲覧を申請し、順番に視聴しているところです」(社会部記者)

「サンダマリ」→「そんなので」?
 メディアの中でもっとも早く証拠映像を視聴して内容を報じたのが、2月10日の中日新聞だった。「入管映像 届かない叫び 嘔吐し『死ぬ』 看守に訴え 『そんなので死んだら困る』 名地裁で本紙記者視聴」という見出しの記事を朝刊の社会面トップに掲載。同社の東京本社が発行する東京新聞の夕刊にも同日掲載された。

 問題視されているのは、見出しにも取られた「そんなので死んだら困る」という文言である。記事にはこうある。

《二月二十三日午後七時台。ベッド上で吐いてしまい、「死ぬ」とうめき続けるウィシュマさんに、女性看守が明るい声で「大丈夫、死なないよ。そんなので死んだら困るもん」などと応じた。ウィシュマさんは「病院持ってってお願い。お願いします」と繰り返したが、女性看守は「連れてってあげたいけど、私、権力ないから」などと、取り合わなかった》

 だが、証拠映像を視聴したメディア関係者によれば、「そんなので死んだら困る」という箇所は、実際には「サンダマリ(ウィシュマさんの苗字)死んだら困る」と聞こえるという。

「ソンナノデ」「サンダマリ」……。早口で唱えてみるとイメージが湧くが、聞き違えそうな文言だ。同様の記事を毎日新聞や読売新聞も報じているが、いずれの記事にも「そんなので」とは書かれていない。

「励ましていたのではないか」という声も
 単なる聞き間違いだったとしても、読者が受ける印象はだいぶ変わる。記事には女性看守が《明るい声》で語りかけていたとも記述されており、「そんなので…」という発言からは看守が逼迫していたウィシュマさんの病状を軽視していたという印象を強く受ける。だが、もし「サンダマリ、死んだら困る」と《明るい声》で語りかけていたとすれば、逆に励ましていた可能性もある。

 実際、視聴したメディア関係者からは、「女性看守はちゃんと対応していたような印象を受けた」という声も上がっているという。