国会は、立憲民主党の小西洋之議員の持ち出した総務省の行政文書をめぐって紛糾している。文書の内容は大した話ではない。2014年11月から2015年にかけて安倍首相の礒崎陽輔補佐官(当時)が「政治的に偏向している番組を行政指導しろ」と総務省に執拗に求めたが、総務省は拒否し、放送法の解釈を変更しなかったというだけだ。

 ところがその中に脇役として登場する高市早苗総務相(当時)についての記述が「捏造だ」と高市氏が否定し、それが捏造でなかったら議員辞職すると答弁したため、彼女の進退を賭けた騒動になってしまった。その真偽を明らかにする過程で出てきたのは、総務省のずさんな公文書管理だった。

大臣レクが「捏造だ」と当の高市大臣が否定
 この行政文書は総務省が本物だと認め、公式ホームページでも公表されているが、正式の決裁を得た公文書ではない。その半分以上が作成者不明で、内容の真偽は「引き続き精査を実施中」である。

 78ページの文書の大部分は、礒崎氏と総務省の官僚のやり取りで、彼は特定の番組(特にTBSの「サンデーモーニング」)を名指しして、総務省が警告するよう求めたが、総務省が民放との全面対決を恐れ、過去の答弁を踏襲した一般論で収めようとした。

 その中で高市大臣が登場し、特定の番組名を出すと「民放との徹底抗戦」になるとコメントしたため、礒崎氏も了承した。このうち礒崎氏の部分についての記述は彼も基本的に認めているが、高市氏に関する4ページは本人が「捏造だ」と否定した。

 特に問題なのは、2015年2月13日の「高市大臣レク結果(政治的公平性について)」という文書である。ここでは安藤友裕情報流通行政局長が高市大臣に対して礒崎氏からの注文を伝え、高市氏が「苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか」など対応を議論している。

総務省が公開した行政文書
 ここで高市氏が慎重な方針を出し、安藤局長はその内容を4日後の礒崎補佐官レクで説明し、礒崎氏も「上品にやる」と矛を収めた。つまりこの高市大臣のコメントは、安倍首相の権威を笠に着て暴れ回る礒崎補佐官を抑え込む上で重要な役割を果たしたが、高市氏はそんな話は聞いていないというのだ。

「上司の関与を経て文書が残っているなら」という曖昧な答え
 国会で高市氏は、2月13日に放送法に関する大臣レクはなく、礒崎補佐官の関与についても今年までまったく聞いたことがないと答弁した。これについて今週の参議院予算委員会で、総務省の小笠原情報流通行政局長は、次のように答弁した。

 作成者によりますと「約8年前のことでもあり、記憶は定かではないが、日ごろ確実な仕事を心がけているので、上司の関与を経てこのような文書が残っているのであれば、同時期に放送法に関する大臣レクが行われたのではないかと認識している」ということでありました(中略)。
 以上を勘案いたしますと、2月13日に関係の大臣レクがあった可能性が高いと考えられます。
 これは奇妙な話である。大臣レクには6人が出席し、そのうち3人が大臣室、3人が情報流通行政局長以下の官僚だった。高市大臣と大臣室の2人(平川参事官と松井秘書官)は「そんなレクはなかった」というのだから、あとの3人が「あった」と記憶しているなら、その証拠を出せばいい。

 大臣の日程表は秘書が分刻みで記録しているので、2月13日の15時45分に大臣が何をしていたかはわかるはずだ。総務省は「1年以上前の大臣の日程表は破棄した」というが、イントラネットには電子メールなどの証拠が残っているはずだ。