3/20(月) 7:00    篠田博之 月刊『創』編集長
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20230320-00341881

当時の高市発言とキャスターたちの抗議
「けしからん番組は取り締まるというスタンスを示す必要がある」といった、とんでもない発言が政権中枢で交わされていたことを示した総務省文書問題。高市早苗経済安保担当相の「文書は捏造」なる、これまたトンデモな発言に振り回されて、当初、本質が少し見えなくなってしまったが、深刻な問題を提起していることは間違いない。

2016年2月にキャスターたちが抗議の会見(筆者撮影)
 

 ここに掲げた写真は、2016年2月に当時の高市総務相の「電波停止」発言に抗議したテレビキャスターたちが会見を行った時のものだ。極端な場合は電波停止もあり得るなどと放送を所管する総務大臣が国会で発言した事態は、放送界に衝撃を与えた。

 その発言に先立って高市大臣は2015年の国会答弁で、政治的公平性について「放送事業者の番組全体を見て判断する」との見解を説明した一方で「一つの番組のみでも、極端な場合は公平性を確保しているとは認められない」と補足した。今回の総務省文書は、その発言がどういう経緯を経てなされたのか、それへ向けて政権中枢でどんな議論がなされていたかを明らかにしたものだ。

「安倍一強」が続く中で、メディアへの介入は恒常的に行われ、今回の文書にも書かれた放送界の萎縮は確実に進んだのだが、この一連の事態は、その象徴的な出来事だった。

TBS「サンデーモーニング」を集中攻撃
 この文書ではTBSの「サンデーモーニング」や「報道ステーション」などを政権が取り締まりの対象と考えていたことが明らかになったが、「私たちは怒っています!」と抗議の声をあげたのは、主にTBSやテレビ朝日の報道・情報番組に関わっていたキャスターたちだ。

 そしてこの一連の事態を経て、テレ朝の古館伊知郎さんやTBSの岸井成格さんといったキャスターが番組を離れていった。安倍政権は放送現場に萎縮を促すような圧力をかける一方で、メディア経営者との会食を行うなどして「飴と鞭」でメディア支配を強めていったのだが、その影響は着実に浸透していったように思える。

 さらに言えば、その騒動の約10年前、個人情報保護法などメディア規制3法と言われた一連の法案が提出された時期に、メディア界は当初激しく反発した。キャスターたちの抗議会見はその頃から折に触れて行われたのだが、当初は安藤優子さんらを含む民放全局のキャスターが会見に顔を揃えていた。業界団体の民放連や新聞協会が自ら主催して抗議集会を行っていた。

 しかし、その後、メディア界の分断が進み、業界全体が政権のメディア規制に抗議することは不可能になった。2015〜16年の騒動の時には、政権の標的は既にTBSとテレ朝に絞られていた。この20年ほど、政権によるメディア支配は確実に進んでいるのは明らかだ。「報道ステーション」も確かに今回、この問題については特集したが、10年前だったらもっと大きな取り組みをしたと思う。

総務省文書問題を報じるTBS「サンデーモーニング」(筆者D撮影)
 今回の文書で最も激しく名指しで攻撃されているTBS「サンデーモーニング」は、いまや政権だけでなくネットなどで毎週のように激しく攻撃されているのだが、この総務省文書問題を番組で何度にもわたって取り上げた。いまや政権や右派からの総攻撃を受けているこの番組を支えているのは、高い視聴率に象徴される市民の支持で、それがある限り経営側も簡単に屈するわけにはいかないという自覚を持っているはずだ。

TBS「報道特集」の曹編集長の発言
 そしてなかなかすごい取り組みを番組で見せたのはTBSの「報道特集」だった。舌鋒鋭い語り口で熱い支持を受けていた金平茂紀キャスターが常時出演という状況ではなくなっているのが残念だが、代わりにこの総務省問題について自ら番組に顔を出して熱く語ったのが曹琴袖(ちょう・くんす)編集長だ。3月11日の放送での発言はこうだった。