3/24(金) 6:10   デイリー新潮
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 東京大学の入学式や卒業式などでの式辞は毎年大きな注目を集める。今年の卒業式は、今日、24日である。新たなステージに進む学生たちに心を込めたメッセージが送られることだろう。

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 注目度が高いだけに、式辞は時に波紋を呼ぶこともあるが、それもまた言葉を贈る側にとっては計算済というところかもしれない。

 もちろん圧倒的に支持されたものもある。2015年3月、ある「式辞」がネットで拡散され話題になった。東京大学の教養学部学位記伝達式で当時の学部長だった石井洋二郎氏が語った式辞だ。

 ここで石井氏は、情報社会における危険性を以下のように説いた。

「善意のコピペや無自覚なリツイートは時として、悪意の虚偽よりも人を迷わせます。そしてあやふやな情報がいったん真実の衣を着せられて世間に流布してしまうと、もはや誰も直接資料にあたって真偽のほどを確かめようとはしなくなります」

 卒業式で読まれてから8年経った今でも、この式辞はネット上などで広く読まれている。

 東京大学の卒業式である今日、改めて石井氏が語った全文を以下に引用する。

19世紀イギリスの哲学者、ジョン・スチュアート・ミル (出典:George Frederic Watts, PD, via Wikimedia Commons)

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 皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。

 また、ご列席のご家族の皆様方にも、心よりお祝い申し上げます。今年度の教養学部卒業生は175名で、そのうち女性は50名、留学生が1名です。

 全学の式典はすでに午前中、改装されたばかりの安田講堂で挙行されましたので、ここでは教養学部として、あらためて皆さんとともにこの日を喜びたいと思います。

 東京大学の卒業式といえば、もう半世紀も前の話になりますが、東京オリンピックが開催された年である1964年の3月、当時の総長であった経済学者の大河内一男先生が語ったとされる有名な言葉が思い出されます。いわく、「肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ」。

 当時、私はちょうど中学校にあがる年頃でしたが、この言葉は新聞やテレビでかなり大きく報道されましたので、鮮明に記憶に残っております。また、子供心に、さすが東大の総長ともなると気の利いた名言を残すものだと、感心したこともなんとなく覚えております。皆さんの中にも、どこかでこの言葉を耳にしたことのある人は少なくないでしょう。

 ところが、これはある機会に一度お話ししたことがあるのですけれども、じつはこの発言をめぐっては、いろいろな間違いや誤解が積み重なっているんですね。

 まず第一の間違いは、「大河内総長は」という主語にあります。というのも、これは大河内先生自身が考えついた言葉ではなく、19世紀イギリスの哲学者、ジョン・スチュアート・ミルの「功利主義論」という論文からの借用だからです。

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