本日、ワシントンでバイデン米大統領との首脳会談を控える韓国の尹大統領は、19日のロイター通信によるインタビューで、「ロシアによるウクライナ侵攻で民間人への大規模な攻撃や虐殺があれば、我々が人道支援や経済支援だけにこだわるのは難しい」と述べ、軍事支援に踏み切る可能性を示唆した。中国については「力による台湾海峡の現状変更に反対する。台湾問題は北朝鮮問題と同じグローバルイシューだ」とコメント。

これに対し中ロ両国は猛反発。こうした背景には、尹政権の韓国内での支持率の問題や、アメリカと交渉したい経済問題についての思惑があることは前編『「ウクライナへの軍事支援も辞さない」「台湾有事は北朝鮮と同じグローバル問題だ」…韓国はなぜロシアと中国にケンカを売ったのか? 本日、米韓首脳会談へ』で紹介した。

韓国国内で高まる「独自核武装論」と安全保障問題
そして第3が、韓国内で燃えさかっている「韓国の独自核武装」や「米戦術核再配備論」などの主張を、何らかの形で円満に解決することだった。独自核武装や戦術核再配備を求める世論は、合わせて6~7割に上る。保守支持層にも一定数の核武装論者がいるため、尹大統領は米韓首脳会談で、国民を納得させるだけの合意が必要だった。

26日の首脳会談は、韓国側のこうした事情に配慮し、尹大統領が国民に説明できる要素がいくつか盛り込まれるだろう。ただ、米国はそれほど優しい国だろうか? 米韓首脳会談を横目に見ながら、日本政府関係者の1人はこう語る。

「米国は日本に対し、決して核兵器の使用に関する情報を明かそうとしない。それは米大統領だけが持つ権限だからだ。米国がどんな状況で、どの目標に、どの核兵器を使って、どのように攻撃するのか。米国が韓国に機密事項を明かすとは思えない」。

韓国はアメリカとどれくらい関係を築けるのか
おそらく、政軍ゲーム(机上演習)で、米国側の核の傘を含む拡大抑止力の提供に向けた強い意思を示す仕組みを考えることで、韓国を納得させるという程度で決着するだろう。だがいくら言葉を飾り立てても、それは1980年代から米国が日本に向けてやってきたことと、それほど変わらない。

尹大統領は26日の米韓首脳会談を通じ、韓国保守層の結束と一定程度の無党派層の取り込みには成功すると考えられる。また、尹氏は2013年の朴槿恵大統領(当時)以来、10年ぶりに米上下院合同会議で演説を行う。米国には民主党を中心に、朝鮮半島に無関心だったり、誤解したりしている議員も少なくない。文在寅前政権が推進した朝鮮戦争の停戦宣言について、北朝鮮が在韓米軍撤退の根拠にする可能性もあるというのに、宣言を積極的に支持する議員もいる。尹政権の外交ブレーンの1人は「尹氏は米国に人脈がない。今回の訪米で、上下院の議員たちと関係を築く意味は小さくない」と語る。

それでも、米国がIRA法で韓国自動車メーカーのEVに補助金を与えたり、サムスン電子の中国工場への投資を認めたり、はたまた、韓国に米国による核報復攻撃の作戦計画を教えたりする可能性はほぼゼロと言ってよい。

韓国の安全保障専門家の1人は、「文在寅政権は、北朝鮮問題で支援してもらえるかもしれないと思って中国に接近した。尹政権は、経済や安全保障での支援を期待して、米国に接近した」と語る。さらに「文政権の時代、北朝鮮のスパイが多数韓国に入り込み、韓国の安全保障をズタズタにした。それを考えれば、尹政権の方向性も理解はできる」と語る。ただ、同時に「尹政権の外交政策はやや危なっかしい面があるのも事実だ」と述べ、その根拠を二つ上げた。