少子化対策の重要な指標の一つ「合計特殊出生率」の公表値が、実態より過大であることが分かった。基となる厚生労働省の統計の対象が「日本における日本人」で、外国人の女性は計算に入らないのに、国際結婚で生まれた日本人の子は入っているためだ。外国人の人口が増加傾向にある中、多様性を増す時代の変化を統計が反映できなくなっている。(原田晋也)

合計特殊出生率 1人の女性が一生の間に産むと想定される子どもの数。ある年齢の女性が1年間に産んだ子の数を分子に、その年齢の女性の人口を分母にして年齢別出生率を出し、15〜49歳分を足し上げて算出する。人口推計や少子化対策で重視される指標で、国際比較にも使われる。

◆分子に外国人が生んだ日本人は含まれるが、分母に外国人女性は入らない
 合計特殊出生率は厚労省が発表する「人口動態統計」に含まれる。分母に女性の人口、分子に出生数を置いて算出されている。
 両親のどちらかが日本人なら子は日本国籍を得るため、日本人の父と外国人の母の間に産まれた子は「日本における日本人」として分子に入る。一方、その母を含めた外国人女性は分母に入らない。つまり分母は日本人女性だけだが、分子は外国人が生んだ日本人も含まれ、その分数字が大きくなるいびつな構造だ。過去最低だった2022年の公表値1.26も、実態より高いとみられる。
 厚労省の担当者は「人口動態統計は、出生率に限らず婚姻や死亡など全ての事象で日本における日本人を対象にしている。計算式は一度も変わっておらず、途中で変えれば比較できなくなる」と説明する。
 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)情報調査分析部の別府志海もとみ第2室長は「おそらく統計が始まった明治期に、根拠となる戸籍法の対象が日本人だったため日本人に限定した集計にしたのだろう」と推察する。
 合計特殊出生率については「計算方法が考えられた戦後期は外国人の割合がわずかだったが、時代が変わって無視できる範囲を逸脱してきた」と指摘。「外国の統計で一部の人口に限定したものしかないというのは見かけない。外国人を含む総人口で出すのが望ましいと思う」と話した。
 分子だけが大きくなる問題は、先月にあった内閣府の将来推計人口に関するシンポジウムで参加者が指摘した。社人研の担当者が講演した際、日本人女性に限った合計特殊出生率の推計は2070年に1.29だが、厚労省公表値の定義では1.36になると説明。外国人女性が増えていく想定のため、その分上振れすると解説した。参加者から「(計算方法を)知らなかった。厚労省の定義はおかしいのでは」との声があった。
 参加者の一人で大正大の小峰隆夫客員教授は「あまりにもおかしいので、にわかには信じられなかった。外国人の数が増えていくともっと大きな問題となる可能性がある」と指摘した。

東京新聞 2023年7月2日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366