日本の左翼は何を達成し、なぜ失敗したのか。

『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』は、忘れられた近現代史をたどり、時代の分岐点に求められる「左翼の思考」を問い直す。

激動の時代を生き抜くために、今こそ「左の教養」を再検討するべき時が来たーー。

※本記事は、2021年6月に刊行された池上彰・佐藤優『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』から抜粋・編集したものです。

忘れ去られた「左翼」の定義
佐藤 左翼はきわめて近代的な概念です。もともと左翼・右翼の語源は、フランス革命時の議会において、議長席から見て左側の席に急進派、右側に保守派が陣取っていた故事に由来します。この左翼、つまり急進的に世の中を変えようと考える人たちの特徴は、まず何よりも理性を重視する姿勢にあります。

理性を重視すればこそ、人間は過不足なく情報が与えられてさえいればある一つの「正しい認識」に辿り着けると考えますし、各人間の意見の対立は解消される、そうした理性の持ち主が情報と技術を駆使すれば理想的な社会を構築することができる、と考えます。

池上 19~20世紀の左翼たちが革命を目指したのも、人間が理性に立脚して社会を人 工的に改造すれば、理想的な社会に限りなく近づけると信じていたからですね。

佐藤 そうです。ですから現在一般的に流布している「平和」を重視する人々という左翼観は本来的には左翼とは関係ありません。理性をあくまでも重視し、理想の社会を目指す以上は、敵対する勢力と戦わなければいけないこともありますし、ロシア革命を指導してソ連の建国者となったレーニンは「現在の帝国主義戦争(第一次世界大戦)を内乱に転化せよ」と言っていたくらいですからね。

また意外と見逃されている事実ですが、伝統的な左翼は基本的に人民の武装化を支持するものです。職業軍人のような社会の中の特定の層の人たちが武装するのではなく国民皆兵、つまり全人民が武装すれば、国家の横暴にも対抗しうると考えるからです。

つづき
https://gendai.media/articles/-/112529