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ロシアのガルージン前駐日大使

 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩み、数年前に退職。一昨年『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、駐車違反を何度も繰り返すロシア大使館の外交官について聞いた。

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 週刊新潮の特別読物「『外交特権』悪用! 無法『ロシア大使館』の“罪と罰”」(2023年4月13日号)によると、日本に滞在する85カ国の外交官による駐車違反金の踏み倒しは、2021年度で3900件にも上り、そのうちロシアが1826件とダントツの1位だという。逮捕されない、裁判にもかけられないという外交特権を笠に着て、やりたい放題のようだが……。

「警察は手をこまねいているわけではありません」

 と語るのは勝丸氏。

「10年ほど前、私は公安部の外事課で各国大使館との連絡や調整を担当していました。当時から駐車違反の数はロシアの外交官が圧倒的で、次に多いのは中国でした。正直言って、どちらの国の外交官も遵法精神が欠如しているからですね。そうは言っても、悪質な外交官を放置しておくわけにはいきません。何度か罰金を支払わせたことがあります」

「コンタクト・ポイント」
 最も酷かったロシア人外交官のケースをご紹介しよう。

「数カ月間のうちに駐車違反を20回繰り返していた外交官がいました。彼が違法駐車した場所は、渋谷の道玄坂や新橋、銀座などの飲屋街でした」

 当時勝丸氏は、各国大使館に「コンタクト・ポイント」と呼ばれる連絡窓口を設けていた。

「私が親しくしていた外交官と24時間、いつでも連絡が取れるようにしていました。ある時、件の外交官が直近で違法駐車した件について問い質すため、ロシア大使館の担当者に連絡しました」

 担当の外交官は、「外交活動のために、やむなく路上駐車したようです」と説明した。

「私は彼に『なぜ、駐車場に入れなかったのか?』と問うと、『緊急の会食だったので、駐車場に入れる暇がなかった。短時間の会食だったので、やむを得なかった』と弁明するのです」

 当日、駐車監視員は、渋谷の道玄坂で22時にロシア外交官の車をチェックしていた。

「それから2時間以上経っても外交官は車を停めたままだったので駐車監視員がキップを切ったのです。『外交活動だから仕方がなかった』という言い訳は通用しません。私は『長い間会食して、お酒を飲んでいたのではないか?』と問い詰めると、『いや、お酒は飲んでいない』と言い張っていました」

「プロトコール・オフィス」
 勝丸氏は、そこで次の策を考えた。

「担当者の外交官に『そんな回答では、日本の世論は納得しません。マスコミに話さざるを得ません。ロシアの外務省にも伝えます』と告げると、『いや、待ってくれ。メディアに発表されては困る。件の外交官と話してみる』と。かなり動揺していたのがわかりました」

 それからしばらくすると、

「問題の外交官は、直近の駐車違反3件分の違反金を支払いました。本当は全て払って欲しかったのですがね。あまり厳しく追及すると、何かあった時にロシア大使館に協力してもらえなくなりますから、これでよしとしました」

 ところが、問題の外交官は、その次の年も頻繁に駐車違反を繰り返したという。