埼玉県川口市でトルコの少数民族クルド人の一部と地域住民との間に軋轢(あつれき)が生じている問題で、川口市議会は、国や県などに「一部外国人による犯罪の取り締まり強化」を求める意見書を可決した。「クルド人」と名指してはいないものの市議らの大半は「彼らを念頭に置いた議論だった」と明かす。「対立と共生」。今、欧州や米国では移民をめぐって社会が激しく動揺している。市議会の意見書可決までの道のりにも、この問題が凝縮されていた。

市議にも被害者
クルド人は家族や親戚など大勢で集まる習慣があり、夜間などに不必要な誤解を住民に与えてしまうことがある一方、窃盗や傷害、ひき逃げなど実際に法を犯すケースも後を絶たない。

「私たちにクルド人を差別したり対立したりする意図は毛頭ない。ただ、わが国の法やルールを守れない一部クルド人の存在は、残念ながら地域住民に恐怖すら与えている」。自民党の奥富精一市議(49)はこう訴える。

奥富市議は意見書の提出をまず自民党内で提案。すると、同僚市議らのもとにも、「敷地の駐車場を壊された」「ゴミ出しでトラブルになった」などの苦情や相談が住民から相次いでいることが明らかになった。公明党市議団にも相談したところ、市議団長自身があおり運転の被害者だったという。

警察も把握しきれず
クルド人の集住地域に住む男性(35)によると、改造車が中東の音楽を大音量で流しながら、住宅街を暴走することは日常茶飯事で、「深夜に家の前を爆音が通り過ぎる。その様子を自身のインスタグラムでアップしている者もおり、面白がっているとしか思えない」と話す。

令和3年10月には、19歳のクルド人少年がトラックで県道を暴走し、横断中の69歳男性をはねて死亡させ、逃走した。少年の所持品に運転免許証はなかったという。事件後、少年は出国しようとしたところを逮捕された。

ただ、こうした大きな事件は別だが、実際には言葉の壁などもあり警察が動くことはまれだ。関係者によると、交通事故などをめぐっては車の所有者すら分からず泣き寝入りするケースも多い。クルド人だけでなく外国人犯罪の実態なども把握しきれていないという。

6月29日に市議会で可決された意見書は、議長を除く41人の採決の結果、34人が賛成した。提出先は衆参両院議長と首相、国家公安委員長、埼玉県知事、県警本部長で、「一部の外国人は、資材置き場周辺や住宅密集地などで暴走行為やあおり運転を繰り返し、窃盗や傷害などの犯罪も見過ごすことはできない」と具体的に指摘。警察官の増員や犯罪の取り締まり強化を求めている。

日本人も罪を犯す
一方、意見書の採決に反対したのが、共産党4人と立憲民主党2人、れいわ新選組の1人だ。ただ、れいわ所属のもう1人の女性議員(48)は本会議の起立採決で立ち上がり、賛成した。女性議員は賛成の理由を議会関係者にこう話したという。

「私の自宅の前でも毎日、暴走車両が通り抜けて、近所から苦情が殺到している。到底見過ごすことはできなかった」。議会関係者によると、この議員はその後、れいわ内で難しい立場に立たされたという。党本部に取材を申し込んだが、応じていない。