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新たに入手した資料を机上に広げ、朝鮮人が動員された新潟県内の信濃川発電工事について説明する竹内康人さん(左側の手前から2人目)=新潟市中央区

 戦中にかけて行われた朝鮮人の動員実態を全国の労働現場で調べている歴史研究者、竹内康人さん(66)の講演会が新潟市内であった。竹内さんは新潟県内での発電工事を取り上げ、当時の記録をもとに落石などの事故で犠牲者が出たことを指摘。「亡くなった一人ひとりの名前を明らかにし、歴史の否定や植民地主義を克服することが求められる」と訴えた。

 今月で関東大震災から100年。政府は流言により朝鮮人が虐殺されたことを示す記録の存在を否定した。講演会は、記録の大切さを後世に伝えたいと新潟大人文学部の藤石貴代准教授が企画して9日に開かれ、約40人が参加した。

 講演会では、主に1930年代に入って県内の信濃川で進められた2件の発電工事がテーマになった。1件は、国鉄の電源確保のため十日町市などで鉄道省が施工した工事。もう1件は、東京電灯(東京電力の前身)が津南町に発電所を設け、長野県側のダムから取水する工事。ともに現在も重要な電力供給源になっている。

 竹内さんは、朝鮮人が配置された各下請け業者の宿舎の状況を国勢調査から分析。朝鮮人の管理台帳にあたる資料なども調べ、両工事には「42年6月までに少なくとも1千人超が動員されたことがわかる」と話した。

 さらに、朝鮮人が工事中の落石や落盤、土砂崩落の事故で命を落とした事実を新聞記事や過去の調査資料から明示。今年新たに入手した図面なども示しながらどこで事故が起きたかなどを説明した。

 そのうえで、「動員された朝鮮人にとっては強制労働であり、亡くなっても名前すら明らかにされない状況が続いている」と問題視。「消されたままの名前を復元する必要がある」とし、市民の手で取り組む重要性を強調した。

 終了後の懇談では、講演会に参加した高校の男性教員から、教育現場で「負の歴史」が教えられていないとして現状を懸念する発言もあった。(北沢祐生)

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