1950年に日本で出版された小説『チャタレイ夫人の恋人』は、「わいせつ文書」として警察に摘発され、翻訳者と出版社社長はともに有罪となる。小説はどのようなストーリーだったのだろうか? 主人公コニーが夫から「他の男の子どもを産む」よう提案されたシーン、本能に突き動かされて他の男と関係を持つシーンについて紹介する。

■法的に「わいせつ」とされた『チャタレイ夫人』

コニーは森番のメラーズと恋に落ちる(画像はイメージ)
「芸術」と「わいせつ」は両立可能か——日本中が考えさせられることになった1950年代の「チャタレイ裁判」。これは、20世紀のイギリス人作家・D.H.ローレンスの傑作『チャタレイ夫人の恋人』(以下、『チャタレイ夫人』)の正当性について、知識人と法律家が長年争った記録です。

 1957年3月、最高裁は『チャタレイ夫人』を「わいせつ物」だと断定しました。その理由は「性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」=「わいせつ」という、法的な見解にもとづいていたのですが、性描写よりも、さらに危うい部分は他にあったかもしれません。

■映像作品で「問題箇所」はどう描かれる?

『チャタレイ夫人』の物語の舞台は、20世紀初頭のイギリスです。ヒロインのチャタレイ夫人ことコニー(本名・コンスタンス)は、人気画家を父に持ち、海外で自由な教育を受け、当時としては広い見識を持つお嬢様です。それは「性」についても同様でした。

 自由な彼女に惹かれ、結婚したのがクリフォード卿という貴族の男性でした。彼は準男爵(じゅんだんしゃく)という爵位と、炭鉱を含む広大な領地や館を有する資産家です。

 しかし、二人の甘い新婚生活はわずか1ヶ月だけ。クリフォード卿は第一次世界大戦に出征して負傷し、腰から下がピクリとも動かない状態で屋敷に戻ることになったのです。二度と性行為はできない身体ですし、存命の兄弟はいません。

 準男爵家の跡継ぎ問題をどうしたらいいのかと悩んだクリフォード卿は、コニーに「あなたがだれかほかの男の子供を産んでくれると、その方がいいんだが」と大胆な提案を持ちかけます。

 実際に複数の映像作品を見て、この「問題箇所」をどう描いているのか確認しましたが、すべての映像版のコニーは、夫からの思わぬ提案に傷つくという反応を見せたのに対し、原作のコニーは驚くものの、比較的、あっさり受け入れてしまっています。

 原作のコニーは、車椅子生活になって気難しさを増すクリフォード卿との生活にハリをもたせるため、夫が館に呼んだ男性と隠れて身体を重ねるなど朝飯でしたからね。

■本能に突き動かされる登場人物たち

『チャタレイ夫人』がやばいのは、ヒロインだけではありません。後にコニーの運命の恋人となる、森番(領地管理人)のオリバー・メラーズのキャラも原作では、かなりやばいのです。

 メラーズには別居中の妻がおり、彼女との間に生まれた女の子を、ふだんは自分の母親に押し付けています。そして娘が見ている前で泥棒猫を射殺、泣かせたところにコニーが出くわすのです。