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旧ソ連製の野砲D-44

ウクライナ軍が同国の南部と東部でついに反転攻勢を開始してから4カ月近くがたつ。この間、ウクライナ軍は80門以上のロシア軍の榴弾(りゅうだん)砲とロケット弾発射機を破壊した。これに対し、ロシア軍が破壊したウクライナ軍の榴弾砲とロケット弾発射機はわずか24門だ。

ウクライナに侵攻する前、ロシア軍が保有していた大砲は4000門と、ウクライナ軍の2倍以上だった。母数が大きいとはいえ、損失数の差は歴然としている。そしてこの傾向は、ロシア軍にとっては不穏なものだ。

榴弾砲やロケット弾発射機の損失の増大により、ロシア軍は古い大砲にますます頼るようになっている。ウクライナ軍の一人称視点(FVP)ドローンの操縦士がこのほど、80年近く前のロシア軍の野砲を見つけ破壊したのにはそうした背景がある。

ウクライナ軍の有名なドローン操縦士、ロベルト・ブロウディは、爆発物を搭載したFVPドローンから撮影した動画を投稿した。1946年に旧ソ連が使用するようになった「師団砲」のD-44をズームでとらえている。

口径85mmのD-44がウクライナでの戦争に投入されたのはこれが初めてではない。ウクライナ側も、1970年代に製造されたMT-LB装甲けん引車にD-44を搭載し、「MT-LB-44」という新種の対戦車兵器を生み出している。

だが、ロシア軍が古い野砲を展開しているという事実は、同軍が多くの大砲を失いつつあり、そしてその損失を埋めようと躍起になっていることを示している。

旧ソ連の自走砲ウラルマッシュの工場は、1945年から1953年にかけて毎年1000門以上のD-44を製造していた。より威力のあるD-30が1980年代初めに取って代わるまで、D-44はワルシャワ条約機構の加盟国とソ連の同盟国で広く使用された。

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射程は約16kmで、俯仰角は榴弾砲より小さく、装甲貫通力もD-30に劣る古いD-44は、ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻するまでそれほど大きな価値はなかった。

ウクライナ軍が、D-44を長期保管庫から引っ張り出した理由は明らかだ。侵攻当初、ロシア軍は榴弾砲とロケット弾発射機をウクライナ軍のほぼ3倍持っていた。ウクライナは後に、北大西洋条約機構(NATO)加盟国から1100門もの近代的な大砲を受け取り、砲兵部隊を刷新した。

だが、ロシア軍が着実に損失を出し、それまで大量に保有していた大砲が減り始め、1940年代に製造された野砲の一部を再活用せざるを得なくなるまでには、時間がかかった。戦争が3年目突入に近づく中、ロシア軍は1000門を超える榴弾砲とロケット弾発射機を失ったが、ウクライナ軍側の損失は500門以下だ。

ウクライナ軍砲兵部隊の高位将校であるアーティ・グリーンは、対砲兵戦はウクライナ軍に有利になりつつあると主張。米国製の155mm砲弾エクスカリバーなどレーザー・GPS誘導弾に言及し、「精密弾は、ロシア軍が対抗できないものだ」と説明した。

ウクライナ軍の西側製大砲は、ドローンからの合図に基づき、ロシア軍の大砲よりも遠くから、そして高精度で発射される。そのため、ロシア軍の砲手は、自分達に照準が合わせられていることに気づかない。アーティ・グリーンは「ほとんどの場合、精密兵器を使用した長距離射撃だ」「敵の砲兵を発見したら、最も適切な射撃兵器を選択して攻撃する」と語った。

同時に、ウクライナ軍の巡航ミサイルによるロシア軍の車列や兵站部への攻撃は、ロシア軍の砲台に時に砲弾が回らなくなるほど大量の砲弾を破壊しているという。ロシアの方が砲弾の製造能力が高いにもかかわらずだ。

ロシア軍の古い野砲D-44を1門破壊しても、対砲兵戦の優劣全体にはさほど影響しない。だがD-44の存在は、ウクライナ軍の砲撃による近代的大砲の損失が増えるロシア軍の必死さを如実に示している。ウクライナ軍は砲撃戦に徐々に勝ちつつある。

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