韓国はただ今「秋夕(中秋節、旧暦8月15日)」の連休中だ。今年は前日の28日からスタートし紀元節にあたる10月3日の「開天節」まで6連休になっている。この時期、外国人は何かと不便だ。商店は休みだし交通は帰省客で混雑するので遠出も難しい。

そこで自宅でたまった本でも読むかとなり、7月発売の小説でキム・スム著『忘れられた人』に手を付けた。日本統治から解放2年後の1947年9月16日の釜山港での人間群像を描いたもの。著者は定評のある女流作家で書評での評判もいい。作品では日本人の話も登場するというので読む気になった。

650ページもの長編で冒頭部分に早くも「カツコ」なる日本女性が登場する。彼女は日本で朝鮮人男性と結婚し朝鮮に渡ったが解放後、夫に捨てられ子供も奪われ独りぼっちになり、釜山でみすぼらしい日雇い暮らしをしている。彼女はよたよた荷運びしながらつぶやくように「ナクナ、ヨシヨシ、ネンネシナ、ナケバ、カラスが…」と日本語の子守歌を歌い、涙を落とす。

しかしこれは東海林(しょうじ)太郎のヒット演歌『赤城の子守唄』ではないか。子供を寝かしつける普通の子守歌とは違う。異郷でわが子を思う母が東海林太郎の歌をつぶやくかなあ?と首をかしげた後、先に進めなくなっている。(黒田勝弘)

https://www.sankei.com/article/20230930-G4QJI7M42VPO5KDMGRYJIFTULQ/