遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
5/16(木) 10:53
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ecbf04bcf2176fcd4e684600965dc104cbf39f71

 かつては世界を制覇していた液晶パネルの王者シャープが幕を閉じた。気が付けば中国が液晶パネルの世界トップを走っており、世界生産シェアの70%を中国製が占めている。トップ企業3社とも中国だ。

 現状と、なぜこのようなことになったのかを考察する。

◆世界のトップを行く中国の液晶パネル産業
 2016年、シャープが台湾のホンハイ(鴻海精密工業)に買収され、創業以来、初めて社外の社長(鴻海グループ副総裁の戴正呉)が就任したときには日本の落日を思い知らされたものだ。今年5月14日、ホンハイの劉揚偉董事長がオンライン説明会で、シャープがテレビ向け大型液晶パネルの国内生産事業から撤退することを宣言した。

 遂にあのシャープが液晶パネル産業から消える。

 栄枯盛衰とは言うものの、時代が一つの区切りを迎えたことを突き付けてくる。

 では、新しい時代では、いったい世界のどの国のどの企業が覇者となりつつあるのだろうか?

 2024年1月4日のTrend Forceのデータを見て驚いた。

 なんと、中国が圧倒的トップを行っており、しかもトップ3社までが全て中国ではないか。図表1にTrend Forceにある2023年の主たる液晶パネルメーカーの生産シェアを企業別&国・地域別の円グラフにして示してみた(細かなデータは無視した)。


 世界1位のメーカー「京東方」はBeijing Oriental Electronicsの頭文字を取って「BOE」と通称されており、2位の「華星光電」は中国のテレビ大手TCL科技集団(TCL)の子会社で英文ではChina Star Optoelectronics Technologyと称し、「CSOT」と略称されている。3位が同じく中国のメーカーで「惠科(惠科股份有限公司)」で「惠科」は中国語で「Hui-Ke」と発音するため、一般に「HKC」と略称されることが多い。

 この3社が世界のトップ3で、いずれも中国のメーカーであるため、中国(大陸)の合計が67.3%となり、世界の液晶パネル産業を制覇しているということができる。

◆液晶パネル産業の推移
 いったいいつから、このようなことになってしまったのだろうか?

 揃ったデータを全て持っているところは見つからないので、中国のCSDN(Chinese Software Developer Network)のウェブサイトにある<世界の液晶パネル生産能力は中国へと移り、車載ディスプレイ画面は飛ぶ鳥を撃つ勢いだ>という見出しの情報に載っているデータと、前述のTrend Forceのデータなどから拾い集めて作成した結果を示したのが図表2だ。



 日本以外は2000年あるいは2005年以降のデータしか揃ってないので、現時点では世界の概ねの傾向を知るという意味で、図表2に示した内容で考察してみよう。

 まず図表2を見ただけで明らかなように、日本(黄色)は1995年辺りをピークとして、世界の王者の位置から一気に転落していき、シャープがホンハイに買収されたあとも回復する兆しは見せていない(この経緯と原因は日本の読者は熟知しておられると思うので省略する)。

 日本の没落に代わって現れたのは韓国や台湾だが、2005年辺りから中国が少しずつ頭角を現し始め、2018年には台湾と韓国をも抜いて世界一に躍進し始めた。

 当然のことながら拙著『「中国製造2025」の衝撃』で書いたように、習近平が指示して2015年に発布したハイテク国家戦略「中国製造2025」の影響もあるが、それ以前から中国は複雑な試みと進展を模索している。

◆BOEは如何にして誕生し、成長したのか?
 6月3日に出版される『嗤(わら)う習近平の白い牙(きば) イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』の第七章に書いた「習近平とイーロン・マスクの秘話」にあるように、EVの話同様、実は液晶パネル産業を辿(たど)っていくと、話は毛沢東まで遡(さかのぼ)らなければならない。

 1953年に朝鮮戦争が休戦になると、毛沢東は朝鮮戦争によって中断されていた、1949年建国後に最優先することになっていた重工業の発展戦略に立ち戻り、「重工業と防衛産業を建設するために全力を尽くす」として「第一次五ヵ年計画」(1953-1957)に着手した。


つづきます