【B○】棋○CP総合スレ【SS】 Part.2
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※将棋・チェス板にありましたが、板違いという指摘があり、移動してきました
※棋士の実名は避けて、伏せ字、イニシャル、アダ名、当て字、仮名などでおねがいします
※エロ要素のないブロマンス的な関係も語れたらと思います
※前スレ
【BL】棋士CP総合スレ【SS】
https://rosie.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1539462834/ 金○たんが内定もらったのかと思ったw
内定バンバン貰えそうw >>72
カナイタン"THE男前"みたいなカメラ目線凄い!w先生は心が飛んでるみたいなお顔で可愛い❤
先生は眼力半端ないからカメラ目線されると結構怖いので、このくらいぼんやりしてる方が安心できる
しかしなんて素敵なカップル 77
さすがに酔いが回ってきて、頭の中に色々な言葉が渦を巻き始めて、きちんとした思考にならない。
Call君の泣きべその顔や、ガラス戸におでこを付けた誘起君の横顔、金〇君の腕を掴んだオリヴィオの大きな手。
池の水面に広がる波紋、金〇君の涙。「純粋なもの」を失った自分。色んな事の輪郭がだんだんとぼやけてくる。
金〇君はお酒が飲めないから、こんな風に苦しさを紛らわす事も出来ないんだな。金〇君はお酒飲めなくて可哀想だなぁ。
でも、お酒に頼らず生きてて偉いなぁ。
僕なんて、今だってこうやってお酒に逃げているのに。勝負に負けた時も、
苦しい恋に落ちた時も、彼は人生のすべての瞬間を素面のまま見つめて生きているんだ。
彼みたいなのが、本当に強い男なんだろうな。
僕は弱虫だから、お酒飲んじゃうんだ。
少しウトウトして、夜中に目が覚めたら「ご心配おかけしました。もう大丈夫です」って返信が来ていた。
まあ、僕がなんか病気になったって先輩棋士に同じこと書くだろうし、それは普通の大人の書くとても常識的なメールなんだけど、
なんだか、「壁」を感じて悲しかった。
ああ、僕は「悲しい」んだ。この前金〇君と快感の裏で話していて「壁」を感じた時は、ひたすらイライラしちゃったんだけど…。
今僕は悲しいんだ…。
悲しくなった僕は、イライラした僕より成長しているんだろうか、それとも退化しているんだろうか?
「壁」を張り巡らせて、金〇君は何を守ろうとしているんだろうか…。
その「壁」の中で、彼の愛する人との思い出が守られているんだったら、僕は悲しまずに喜んであげるべきなんだろうか?それとも、
壁を破って出て来いって発破かけるべきなんだろうか?勝負師なら…でも、金〇君のイメージは僕の思う勝負師から遠すぎて、酔いと眠気でぼんやりした頭で考えたけれど、
どうしたらいいのかわからない。 お久しぶりです。
折角楽しく写真スレと化しているのに、また重苦しい重苦しい長編SS続きます。
前スレで落ちる直前位に、色々と応援して下さった方、ありがとうございます。
これは本当に無計画に始まって、自分の好きなもの全部(棋士、音楽、プロレス、文学、歴史)
何でもぶち込んでしまえ、整理整頓は後、という感じで書いているので辻褄あってない部分、
冗漫な部分、無くていい部分とかあります。誤字脱字、言葉の誤用も多いので、まとめて読んでくださっている方、
きっと読みづらいと思います。申し訳ありません。伏線も全部回収できるかどうか…
この沈黙の一か月半くらいの間に、作中の先生に言わせていたことを、本物の先生に言われてしまい、
その部分を残すか変えるか悩んでました。
二次創作って初めて書くんですけれど、実在のモデルがいるのって、難しいですね。
でも、書き続けていくつもりなので、お目汚しでしょうがよろしくお願いします。 >>77
先生の気持ちが辛いよ〜
先生の幸せはまだかな〜
>>78
待ってたよ〜
初めてでこれが書けるなんてすごいね〜
お目汚しじゃないよ〜
俺は基本的にこのスレには書き込まないようにしようと思って
俺のことあまり好きじゃない人もいるだろうから、あっちのスレにだけ書き込むつもり
それとスレ2つに全レスするのはハードだからね〜w
でもこのスレは毎日チェックしてるよ〜 >>80
えー、自分は何も感じなかったけど、何か感じることがあったのかな
書き込みは義務じゃないし、スレを覗いていて何か書き込みたくなったらまた書きこんでね〜
自分は向こうのスレでどこまでエロとか書いて良いのか悩むので、こっちを利用させてもらおうか、シブとかに移るべきか考え中
sageて書いてるけど、時々ageていく人いるしね
今は将○板の皆さんがスルーしてくれてるけど
悩ましいですわねw >>83
書き込まないでおこうと思ったのは、何か嫌な気分になることがあったとかじゃないよ〜
向こうのスレはリスクが高いとは思うけど、向こうのスレが無いと新規さんが増えないかなと思って
少人数でスレを回してる感じがするから、書き込む人が増えてほしい
それにエロいスレや書き込みはあの板にいっぱいあるからねwおっ〇いとかw
でもこのスレも大事。>>79さんがいるし、空襲が来たときの防空壕もなるからね〜 嫌なことがあったんじゃないなら良かった
女流棋士のおっ○いがどうとかも気持ちはよくないけど、ssだと好きな棋士の男同士の性行為とかで人格も変えられて、嫌な人は嫌だよな〜ってのは書いてる自分も常々思ってる
嫌でない人も、こんどはどっちが上か下か右か左か問題もあってジャンルによっては血で血を洗う抗争だっていうから、少人数でも荒れてなくてラッキーだよ
でも、始まって一年半位なのにもうパート4が終わりそうだし、固定の作家さんも何人かいるし、ロムってる人は多いんじゃないかな
楽しくやってたら人は集まってくると思うよ〜 >>79
作者さん乙です!
先生はSSの中でも優しくて繊細でナイーブなんだけど、現実にもそのままの先生を面食らってしまって、勝手に妄想している身としては困ったり…
これからも頑張って書いてください!
いつも心を動かされながら読んでいます とあるカラオケ店の昼下がり
「カズヲさーん!!聞いて聞いて聞いてくださいよ!」
「ん?入ってくるなりいきなりどした?けたたましい奴だな、とりあえず飲み物決めなよ」
(どうせまたセィヤの事なんだろうな…)
「あ…すみません誰かにずっと話したくて。こんにちは、緑茶お願いします」
「はいはいヒ口シ君こんにちは…で…セィヤがどうしたって?」
「なんでわかるんですか〜?」
「いやわかるだろ……でどうした?」
(しょっぱなからお前が話したいことなんて大抵セィヤがらみだし)
「そうだ!聞いてくださいよ…この前みんなでボーリング行ったじゃないですか」
「ああ、なんかお前最後眠そうにしてたやつだよな」
(ほんとは最後しょぼくれて様子おかしかったやつな)
「あの時俺見ちゃったんですセィヤとミライさんがトイレで…キス…してて…」
「おっ…おお…そっかぁ…まぁ…残念だったな…」
(なんだ…あっちはセィヤの片思いじゃなかったのか…これでこいつもあきらめる……訳はないか)
「もーっ!髪わしゃわしゃしないでくださいよ……うぅ…俺もセィヤとキスしたい……」
「そっか……まあ……頑張れ…」
(ですよね〜…)
「どう頑張ればいいんですかねぇ…したくても…セィヤ身長高いし…やつの協力がないと届かないし」
「協力ねぇ……まあ…頑張れ…」
(頑張んなくても…良いのに…)
「もう!頭ぽんぽんしないでくださいよ!自分がちょっと身長高いと思って……そう言えばカズヲさん身長いくつですか?」
「たしか77か78位だったはず」
(次にお前はセィヤと同じだと言う…)
「おぉ セィヤと同じくらいなんですね、ちょっと立ってみてくださいよ」
「めんどくさいな」
(ほら言ったでしょ) 「へへへ…かわいい後輩からのリクエストですよ」
「かわいいなんて思ったことないんだけど…」
(かわいくないと思ったこともないけど)
「そう言いつつ立ってくれる所がいい人なんですよねぇ…うんうん…こんな感じですよね。でもカズヲさんの方がひょろっと感がある」
「なんだよひょろっと感って」
「ほらセィヤってこうなんか…がしっと感というか、ずしっと感みしっと感があるじゃないですか、カズヲさんはひょろっと…と言うかすらっと?にょろっと?のびっと?」
「余計にわからなくなる気がするからもういい…」
(こいつほんとにセィヤしか見てねぇなぁ…同じなら……俺でもいいじゃん…まぁひょろっとなんですけどね…)
「ちょっと正面みててくださいね。大体10センチくらい違うから…不意打ちしかないのかな」
「急に跳ねて頭突きすんなよ…そう言えば…ちょうど良いと思う恋人との身長差ってアンケート、男側1位は10センチくらいだったらしいな」
(今不意をついてこいつにキスしたら……こいつどうするかな…こいつがセィヤにしようとしてることを俺が先に…)
「へぇじゃあ俺とセィヤってピッタリじゃないですか?あ…でもミライさんもその位だし…むぅーん…でも、なんで10センチなんですかね」
「ちょっと俺に目線合わせてみな」
(もうこれで、暇な時は二人で遊びに行ける程度には…仲良くなった関係も終わるのかなぁ…信頼なくして…ギクシャクして…避けられて…こんな風に遊ぶことも…まあしょうがない…)
「こうで…っ」
「………っ………な…これくらいだと男側から不意にキスがしやすいだろ?」
(舌は勘弁しといてやる……勇気がないだけなんだけど) 「かかかかかかかかずをひゃん??」
「声ひっくり返ってんぞ…めっちゃどもってるし……不意をつかれてキスされるセィヤ側の気持ちわかった?」
(すごい顔…想像してもなかったんだろうなぁ…こんな顔みるのも最後かも…ダメだ笑えてきた)
「もう!ニヤつかないでくださいよ…自分が遊び慣れてるからって…俺だって慣れてたら簡単にセィヤに……うっ…」
「……おーい…」
(あ…しょげてきたかな…てか泣いてる?…顔が見えん……ああもう…俺のバカ)
「ちゅ…っ…」
「……!」
(ふぁっ!な…なにが起こって…)
「よっしゃ!不意つけた!さっきのお返しですよ」
「お…おお」
(ダメだ考えがまとまんねぇ…)
「俺ねカズヲさんが、言おうとする事もわかるんですよ…不意をつかれてキスされるセィヤの気持ち…考えなきゃって……」
「おぉ……」
(さっきからおおしかいってないな…つぅかセィヤの事ってのも…俺にとってはこいつにキスする口実だったって方が強いし…素直に受け止めるのがこいつなんだよな)
「でも…俺カズヲさんにキスされて…めっちゃびっくりして…今もすごくドキドキしてて……なのにカズヲさん手慣れてて…
余裕で…笑ってるし…なんか悔しかったんですけどぉ…てかカズヲさん背高いし…スタイル良いし…笑ってるし…ぱっと見バンドやってそうだし…○ョジョ立ちするし…にやけてるし」
「だから…別に手慣れてないし!ひょろっと感なだけだろ」
(“だから”って繋ぐのなんか変だぞ…つかだんだん怒ってきてない…ジョ○ョ立ちしてねぇし…)
「キスされて…俺だけめっちゃあたふたしてんのに…カズヲさんの余裕顔見てたら…ちょっとムカついたけど…嫌とかなくてむしろ……ちょっと嬉しくて…」 「だったら……」
(…俺でも良いじゃんの言葉は言えなかった…て言うかそんなににやけたつもり無いのに…おこって言うより拗ねてるぽいな)
「もしかしたらセィヤも…嫌じゃない…そう思ってくれる可能性が少しでもあるのかなって……そんな考えダメなんですかねぇ…」
「ダメ……かどうかなんて…誰が決めるんだろな…まあ…頑張れ…」
(自分でダメだと思ったらこっちに来れば良いけど無理だろうなぁ…)
「はい!じゃ歌いますか!それでは聴いていただきましょう椙本カズヲで…」
「ちょっ先に俺かよ!?しかも全く知らん曲が……」
数日後
「…セィヤってばいくら不意をつこうとしても隙がないし下も向いてくれないんですよぅ」
「あー…そりゃ残念でした」
(そんな簡単にいくわけないよな)
「カズヲさーん聞いてますかー?隙あり!…ちゅ…カズヲさんなら隙だらけなのにな…」
「くそ…今度……やったら舌入れてやるからな……」
(いっそ組敷いて…)
「あっ!座ってたらそんなに身長差なくない??俺座高高いからなぁ…ブツブツ……ん?なにか言いました〜?」
「はいはいなんでもないなんでもない、その序盤研究の成果出ると良いねぇ……」
「もーっにやけながら髪の毛くしゃくしゃしないでくださいよー…うー…今のままだとカズヲさんとのキスだけが増えていく・・・・・・・・・まぁ良いか」
「良いのかよ!」
(良いのかよ!?)
おしまい >>93 >>94 >>95
可愛くて面白かった!
二人の関係の行方と舌の行方がが楽しみ〜 かわいいね〜
10代を将棋漬けで過ごしたせいで
恋に恋するような甘ずっぱい感じが10年遅れて来たみたい
セイヤ「10年は言い過ぎ」 朝起きて、金〇君に「無理をしないように」と返信した。
すぐに「おはようございます。ありがとうございます」と返信があった。
久しぶりに本当に何もないフリーの日だったので、普段できない身の回りの細々したことをして回った。
お医者いったり、買い物したり。
近々、僕と近い世代の棋士たちとの研究会があるから、坂上のマンションにこないだ使い切っちゃったお茶っ葉とか砂糖とかの補充に立ち寄った。
空気も入れ替えたいし。
金〇君が持ち込んでいたキーボードが目に入った。
もう金〇君が来なくなるなら、あれ、ちゃんと持って帰ってもらわないと。
音楽は好きだから、誰かが弾いてくれれば辞めろとは言わないけど、誰かがあのキーボードを弾くのはなぜだかちょっと嫌だった。
金〇君が来るようになって、ピアノ弾けるってきいて、じゃあ今度弾いてよってなって、彼がキーボード持ってきて。
全てが自然な流れの中で起こった事で、それが分断された後で何をしたって不自然でぎくしゃくしたものになってしまう。
僕が面白がって「あれ弾いて、これ弾いて」というと、彼は「え〜、楽譜ないしむずいっす〜」なんて言いながらも、
首を傾げて空気の中から音楽を探し出すようにして弾き始める。
その時の、不確かな表情が、途中から確かなものに変わって、その時に彼の目尻に少し微笑みのようなものが浮かぶ、
その時の表情が好きだった。
パッヘルベルとか、サティとか、ラヴェルとかそんな音楽に満たされたVSの時代が終わったんだ。
ウィーン生まれのプロ棋士のキーボード生演奏付き研究会って、まあなんか贅沢な時間を過ごさせて貰ってたんだな。 この感情は何なんだろうな。金〇君がVS辞めるって言った時は、わけわかんなくてびっくりしてひたすら頭に来たけど、
今は純粋にこれから失われる時間を惜しんでいる。
本当に寂しくなるなぁ。
この寂しさは、この一年位感じていたぼんやりとした寂しさとは違う、もっとストレートな寂しさだ。
金〇君、僕は寂しいよ。僕は君とのVSの時間が好きだったから、将棋の内容も、音楽も全て込みで好きだったから、寂しくなるよ。
今までも色んな理由でVS出来なくなった棋士なんかにも、普通に「寂しくなるね〜」って言ってきて、
相手の棋士も「そう言って下さって嬉しいです」なんて言ってくれたけど…。
「そっか、理由はどうあれ寂しくなるよ」って、なんか素直に言いにくい。
でも、言ってあげるべきなんだろうか?言って意味があるんだろうか?
金〇君は自分との時間が僕にとって無駄だと思ってるみたいだから、僕が何か言っても社交辞令にしかとってもらえないんじゃないか。
大体、何が今までの棋士たちとの別れと今回のことが僕にとって違ってこんなに色色と引っ掛かるかっていうと、
家庭の事情とかの不可抗力じゃなくて、金〇君の意志でそうなったってとこなんだよね。
彼はずっと僕のことを憧れの棋士とか言ってくれてたから、こんな風な終わり方って、凄く理不尽。
でも、憧れてるからこそ重くなって辛くなっちゃうこととかもあるんだろう、多分…。
なんか色々疲れちゃって、このマンション手放しちゃおうかな〜と思いながら部屋を巡って窓を開ける。
立地も良いし、リビングが広くて大人数が集まっても対応できるし、地方から来た棋士を泊めて上げられる客間もあって便利なんだけどね。
金〇君がAO戦の前ころよく泊って一緒に研究とかしたから、歯ブラシとか着替えとか置いてある。
こういうのも処分してもらうのか〜。
同棲してたカップルの別れじゃないんだからさ〜。
まあ、仕方ない。現実ってなんか少し生臭いね。
生臭くないのは、ふっつりと消えてしまった初恋の彼くらいのものだ。
それも、現実と夢想の境がわかんなくなるから困るんだけどね。 金〇君のずっと前は、よく仙ちゃんが泊まりに来てた。
仙ちゃんとはお酒飲みながら将棋指して、そのまま和室で雑魚寝してた。朝起きるとずるずる這って仙ちゃんを起こして、ご飯作って…。
きゃ〜、今気が付いたけど、仙ちゃんここで歯を磨いたことない!
金〇君はお酒飲まないから、将棋が終わるとそれぞれの部屋に行って寝た。朝気が付くと金〇君は必ず先に起きてて、朝食を用意してくれていた。
僕は朝はご飯に納豆なんだけど、金〇君はパン食を用意してくれて、それはそれでいかにも棋界の貴公子と囲む朝の食卓、という感じで好ましかった。
そんなことも思い出に変わっていくんだな。でも、もう細かいことは抜きにして、一身上の都合にて終了、って金〇君との章を閉じるしかないんだろう。
78
マンションを出て新宿駅に向かった。人混みの中から、大きな人に声を掛けられた。
「ああ、やっぱり郷〇先生だ。先生みたいに色の白い人がいるなーと思ったらやっぱりそうでした」
警備会社の社長さんだった。ピアノの発表会で渡すみたいな大きな花束を抱えている。
「家族の墓参りで。母が生前、菊とかいかにも仏花みたいな花は飾ってくれるなって、花の指定をしていったんですよ。
だから霊園で買えなくて家の近所から買って持って行くんですけど、なんか引退興行の後のプロレスラーみたいでしょう?」
たしかにごっつい体格の社長が、薔薇だのユリだのの華やかな花束を抱えてる姿は、そんな感じだった。
「でも、亡くなった後も好みを貫くって、カッコいいお母さまですね」
「そうですね。残されたものは大変だけど楽ですよね。何がしたかったかわからない相手だと、残されたものはどうしたらいいか…。
まあ、亡くなっているから、何をしてやったところで、こちらの自己満足なんですけれど」
何をしたかったか分かってたって、若い人の死は辛い。
名人になりたくて、でもその夢が叶わなかった友人のことをふと、思い出す。 またまたご無沙汰してしまいました。
最初に先生をポンコツに設定しすぎてしまったため、先生に色々気づかせるのに苦労してます。
先生はそれを笠に着て「僕、ポンコツだからわかんな〜い」で全て逃げようとするし。
>>80
作品を書くのは初めてじゃないんですが、実在の人物をモデルにして書くのは将棋棋士達が初めてで、
どこまで書いても大丈夫なのかとか、よくわからないのです。
オリジナル作品はネットに載せたことがないので、ネットで作品を発表することのルールも
よくわからないし。
あと、今まではラスト一行まで決まってから書く感じだったんですが、この作品は
作中の人物たちと対話しながら書いている感じなので、自分なりのゴールはあるけれど
そこに持って行けるのか、全然違う終わり方になるのかわからないんです。
こっちのスレに投稿したのは、本来は先生が金〇さんと王座に嫉妬して
結構過激なエロい展開になる予定だったからなんですが、こんな長いことになってしまい、
違う意味でこっちに書いて良かったなぁと思っています。 >>93
ヒロシ可愛い〜
元気で明るく他人を疑わないヒロシ、いい子だね〜
片想いでも幸せそうだね〜
>>99
やっと先生から金〇君への恋心のようなものが感じ取れるように…
じわじわ近づくハッピーエンド…
>>102
ほんと作家さんとして、真剣に作品と向き合ってるんだね〜
作品書くの大変だと思うけど頑張ってね〜
俺も何か書きたいけど難しいな…
あっちのスレでこの長さだと、何スレにも跨ぐことになっちゃうしw、次話を探すのが大変だろうね〜w モタモタしてたら王座がまた変わっちゃいましたけど…作品中の王座は軍人兄上様ではないということでよろしくです。
79
僕が手に提げていた薬局の紙袋に気が付いた社長さんが
「あ、そこの薬局って使ってらっしゃるんですか?じゃあ、聖カタリナ病院ですか?」
と聞いてきた。
「ええ、この時期アレルギーがひどくなることがあって。でも、職業柄使える薬が限られるんで…」
「ああ、頭使うお仕事なのに、眠くなるものは使えませんものね。実は弟がそこで外科医やってるんですよ。
私くらい体格が良いのに、こんな太さの指で心臓の手術とかしてるんです。世界の七不思議みたいなもんですよ」
そう言いながら社長は自分の掌を開いて見せた。野球グローブみたいな手だった。
「随分会ってないなぁ、まあ、便りの無いのは良い便りなんでしょうけど」
そうなんだよね。最近、まだ僕と同年代は少ないけど、懐かしい人から連絡が来ると訃報だったり入院のお知らせだったり。
「今日の採血の結果聞きに来週又行くんですよ」
「じゃあ、正面玄関に貼ってある外科の勤務医のパネル見てみて下さい。私そっくりの男の写真が出てるはずです」
社長と別れた後、仙ちゃんのお見舞いに行った。
仙ちゃんはニコニコして迎えてくれた。だいぶ良くなったみたいで良かった。
「来てくれて嬉しいなぁ。ゴーちゃんなんか頭古いから、鬱病になるのは心が弱いからだって、俺は切り捨てられちゃったと思ってた」
…ちょっとまあ、最初の方はそんな風に思ってたけど…。僕も大分勉強して考え改めたから。
「忙しかったんだよ。今期は割と調子よくて色々勝ち進めてるから」
「いいなぁ。俺はね、7手詰、解けるようになったよ…」
かつては天才少年って呼ばれた仙ちゃんなのに、7手詰なんてプロにとっては九九の2の段が言えるよ、
みたいなことを本当に嬉しそうに話すので、涙が出そうになった。
話題を変えようと思っても、僕たちには将棋の話しかない。どうしよう…。 「そうそう、最近オリヴィオがお見舞いに来てくれたよ。彼は変わらないねぇ」
仙ちゃんの方から、話題を変えてくれた。
「僕も最近会ったよ。若い棋士になんか買ってくれたりしてるみたい」
「ああ、なんかそんなこと言ってた。なんか、ゴーちゃんを振り回すリモコンを手に入れたとか言って、楽しそうにしてた。
あの人、見た目も雰囲気も、昔のまんまだよね」
「何、そのリモコンって?」
「ゴーちゃんが可愛がってる若手に彼がちょっかい出すと、ゴーちゃんが反応するってことじゃないの?」
何それ?ああ、でも、本人が言ってたっけ。自分の精神年齢は8歳くらいだって。
「段先生が仰ってたこと、覚えてる?彼は恋愛がしたいんだって」
「うん、覚えてるよ。で、ゴーちゃんが恋愛なんてセックスに至るまでの手続きみたいなもんだって言ったのも覚えてる。
次の本で書こうかと思ってる」
仙崎様。私が悪うございました。それ、忘れて下さい。
「でもさぁ、恋愛がしたいってどういうこと?お付き合いをしたいってこと?」
お付き合いって言うと、僕の貧困なイメージでは映画見に行ったりとか…。
「恋をしたから、愛されたいと願うんだよね」
「それは分かるんだけど、恋愛がしたいって何?
『恋愛』って言葉、なんかいきなり純度が下がるような気がするんだけど、僕の気のせい?」
僕だって恋をした。愛されたいと思うほど傲慢じゃなかったけど、嫌われたくはなかった。
でも、僕は恋愛をしたいとは思わなかった。
「う〜ん。俺にはわかるんだけど、ゴーちゃんにわからせる自信が全くない。
多分、ゴーちゃん以外の全人類に説明できても、ゴーちゃんには理解させられると思えない」
何それ?なんでいっつもこの話になると、僕が世界で一番頭悪い人みたいなことになるの? 「ゴーちゃん、変な店に連れて行かれじゃない。その時にね、少しでも嫌悪感を示すとか狼狽えるとかしてたら、
彼もこんなに引きずらなかったと思うんだよ。もうそれであの人の恋は成就したようなもんだったと思うよ」
「無視されるより嫌われる方がまし、みたいな話なの?構って欲しいってこと?なんか安っぽい話じゃない?」
「う〜ん、Romeo must die って言う言い方あるの知ってる?」
知ってるわけないじゃない。
「ロミオってのは死ぬもんだ、と。可哀想でも死んでもらわないとロミジュリになんないわけだから」
で?誰が死ななくちゃならないの?僕?
「結ばれないことが完成形の恋愛ってあるんだよ。俺と段先生は、彼は最初からそこを目指してたと思ってた」
「結ばれないって、男同士で結ばれるって何よ?結ばれたくない人が、何で僕を裸にしたのさ?」
「だからさ〜、そこでゴーちゃんが拒んでれば、それですべて済んだんだよ。
ロミオってのは死ぬもんだ、ってのと同じで白皙の美青年っていうのは、拒むもんなんだよ。
なのに自分でも手伝ってさっさと裸になってガーガー寝ちゃったんでしょ?」
だったらそこで失望して引き下がればいいじゃない。知らないよ「拒むもんだ」って言われても。
「美青年っていうならさ、役者や歌手に僕なんかよりよっぽど綺麗な人がごろごろいるじゃない。
彼ならパトロンにだってなれるんだし…」
「だから、彼くらいの高段者になると、そんな在り来りのことじゃ駄目なんだよ。
彼は別に誰かを自由にしたいとかは思ってなくて、むしろ翻弄されたかったんだと思うよ」
なんなの、その高段者って。 「結ばれないことで完成するなら、ずっと物陰で片思いしてればいいじゃない。片思いだって立派な恋愛でしょ」
「だから、関係性なんだよ。片思いは恋でしょ?双方向の感情がないと恋愛じゃないんだよ。ただ結ばれないんじゃなくて、
拒まれて成就できない恋愛がしたかったんだよ。なのにゴーちゃんは感情がない化け物だから…」
「ヒドイな~。あ、ちょっと悪くないかも、って思ったよ。それも感情でしょ?」
「ちょっと悪くないかも、じゃ恋愛できないでしょ?彼にとってはゴーちゃんは『不滅の恋人』なんだから。
『夢の女』なんだからさ」
仙ちゃんまで『不滅の恋人』出してきた。人気急上昇ワード?
『夢の女』って、やめてよ〜。文章書く人って、そういう言葉使うから嫌。
「遊び人が、ちょっと見た目の良い鼻っ柱の強い将棋の若い子からかいたかっただけだよ、大袈裟な」
『不滅の恋人』っていうのは…、もっと真剣で、苦しくて…・
「まぁ、大袈裟だから恋なんだし」
「僕があの晩、ちゃんと拒んでたらどうなったと思う?」
「それで昇華されたんじゃないの」
「だったら、あの時なんで続行しなかったんだろう?もっと事態が進んだら
僕だってさすがに怖くなって拒んだかもしれないのに」
「ゴーちゃんがあんまりにも散文的だから、萎えちゃったんだろう。普通、脱がされ始めたら拒むっしょ。
ゴーちゃんの話の勢いだと、お尻掘られても『ま、いっかぁ〜、酔ってるし』で済ませちゃいそうだもん。
彼は心の中の美青年のイメージを守たかったんでしょ、きっと」
「だったら、最初から手を出さなきゃいいんだよ!」
「だから〜、手を出して拒まれなきゃ完成しないんだよ」
ああ、もう面倒くさい!勝手にイメージ膨らませて、勝手に失望して。
何その、散文的って。みんなそうだ。僕のこと、芸術家肌だとか、気難しいとか、勝手なことばっかり…。
新しいイメージ追加だよ〜「不滅の恋人New!」「夢の女New!」って感じ〜?
そこには「僕」はいないじゃないか。 「…ゴーちゃん、明日はどうしてる?」
僕がムッとして黙り込んでいたら、恐る恐るという感じで仙ちゃんが聞いてきた。
「午前中に写真撮影入ってるけど、あとは暇だよ」
「明日、将棋会館に行かないといけないんだけど、連れてってもらえないかな」
「まだ、一人じゃ難しいんだ?」
「うん…」
僕ら羽〇世代の中で、一番傍若無人でいつも兄貴風吹かせてた仙ちゃんが、気弱そうに笑った。
翌日迎えに来る約束をして、仙ちゃんの家を後にした。
確かに、僕は仙ちゃんの言ったことが理解できなかった。
わけわかんない。結ばれないのが完成形の恋愛とか。
僕がオリヴィオの『不滅の恋人』とか、なんだか金〇君に悪いような気がした。
プロレスと野球好きな『不滅の恋人』とか、ありえないっしょ。
別にこの言葉が彼の登録商標とかじゃないんだけどね、ゴメンね、イメージ汚しちゃって。
…羽〇さんがフカーラさんの『不滅の恋人』で『夢の女』っていうのは変な感じしないんだけど、
どんな人かわからないのに、金〇君の『不滅の恋人』さんと『夢の女』という言葉は、なんだかしっくり馴染まない。
多分「女」っていう言葉の生々しさが、「僕の考える金〇君」のイメージにそぐわないからだと思う。
なんとなく、彼が好きになる人は「女」っていう感じでなく儚い少女みたいな人であって欲しい。
勝手なイメージの押しつけは、僕もやってることなんだな…。
やっぱり、本当の金〇君はそこにはいないのかな…。 翌日、自宅に来たカメラマンに雑誌掲載用の写真撮ってもらって、その後なんだかバキバキに緊張してる仙ちゃん拾って会館に行った。
会長室で今後のことを話し合わなきゃいけないとかで、仙ちゃんは汗を何度も拭った。
運転する社長が、慌てて車内のAC強くするくらいの汗だった。
これから会うのは、ずっと一緒に将棋指してきたみっちゃんとかモリちゃんなのに…。
「そうなんだけどね、ダメなんだよ」
そっか、そういう病気だもんね。
夕べすごい勢いでオリヴィオについて語ってたのが嘘みたいだ。
会館はなんだかワサワサしてた。取材の車も停まってる。今日は順位戦がある日だっけ。
いつもは階段使うんだけど、仙ちゃんの希望でエレベーターで会長室のある階まで上がって、会長室に仙ちゃんを押し込んだ。
「ゴ〜ちゃんもいてよ〜」って仙ちゃんに言われたけど、それはちょっと…。
廊下でタケちゃんに会った。あれ、髪切った?
「今日、俺、解説やるんだよ。俺、どう?」
はいはい、ハンサム、ハンサム。
ってことは、金〇君も来てるのか。彼はもっと早くからスタジオ入りしてるのかな?
身体の具合は大丈夫なんだろうか?順位戦は下手すると日にち跨ぐのに。
「あれから俺、凄い新手を考え付いてさ〜。やっぱ、俺、天才だわ」
うん、良かったね。
「このタブレット貸してやるからさ、これで俺の勇士見ててよ」
ありがとう。でも、これ、将棋会館って書いてあるよ。
廊下のベンチ片隅のベンチでヌコ生を見る。地下で撮ってる映像を3階で見てるって、変なの。出来立てホヤホヤみたいな感じ?
「先手がよく見えますね。角が二か所に効いていて。ただ、この歩が曲者で…」
金〇君が小盛四段とW解説してる。
今日はA級の龍王鬼王対局を中心に、いくつかの対局を拾っていく形らしい。
今日は女流も大きな棋戦の予選で出払っているので、四段の小盛君が駆り出されてる。
小盛四段は解説初めてということで、緊張して「はぁ、そうですね」しか言えないのを、
金〇君が質問したり自虐したりして上手くフォローしている。
「金〇有能すぎ」「金〇の気配り息詰まるw」なんてコメントが流れる。
金〇君は、ちょっと顔色悪いように見えるけど、元気そうだったので安心した。 アフィサイトさん、金〇君のアへ顔をいつか書くことが出来るのか、それが問題だ!
前回、校正前のテキスト上げちゃいました。ちょっといつもよりミスが多くてごめんなさい。
貼り直しを考えたのですが、まあいいやということで。
僕なんか昭和風味の棋士から見たら、金〇君なんて皇室からいらっしゃった人みたいな感じなんだけど、小盛君は輪を掛けて優しい女の子みたいな顔で、小綺麗。
金〇君が貴公子なら、小盛君は小公子って感じ。これから、こんな棋士が増えていくんだろうか?将棋界も随分変わるだろうな。
まあ、僕たち所謂「羽〇世代」が台頭した時も『こんな学生の延長みたいなのが勝負師の世界で生き残れない』とか散々言われたんだけどね。
僕なんて『ジャニーズみたいなの』とか言われちゃうし。でも、勝負師って、見た目が怖いから強いわけじゃないしね。
僕ね、最近はお医者さんみたいとか大学の中国文学の教授みたいとか言われることがあるの。僕の棋風は攻め将棋なんだけど、
柔らかい上品な外見で攻撃的で直線的な将棋指すのもキャラとして面白いから、スーツ作るときなんかは、とにかく保守的に上品にを心掛けるようにしてる。
アメプロでもさ、上品で小指立てて紅茶飲んでるお貴族風キャラが、突然切れて隠し持ってたスパナで流血沙汰なんてのがあって、そういう時ってお上品キャラがサディスティックになればなるほど盛り上がるんだよね。
プロレスと違って将棋はパッと見て何がどうなってるとかプロでもわかんないから、見た目と棋風のギャップ萌え
、みたいな演出は難しいんだけど、僕の場合は若い時から『剛〇流』って名前つけていただていたから棋風が分かり易かったのと、
太っちゃってぷにぷにになってしまった身体との対比を楽しんで貰えているみたいで良かった…のかな? いったん休憩になって、その後、タケちゃんと金〇君のW解説になった。
『てんて〜!』『システム来た〜』って画面が埋まる。タケちゃん人気あるなぁ。
電脳盤を操り、サクサク解説する金〇君を、タケちゃんは呑気に眺めて「説明上手いね〜」とか言ってる。
本当に金〇君の序盤中盤の解説は、惚れ惚れする位上手だよね。
「あのさ〜」「はい、何でしょう?」「郷〇との研究会辞めたの?なんで?」
金〇君が凍り付く。『え〜何で〜!』『金〇ご乱心!』『郷〇介護要員失う!』コメントで画面が真っ白。
「え、あ、先生もお忙しいし」
「郷〇なんて暇でしょ。将棋以外は酒と野球とプロレスだろ?あれか?なんか変なことされたんじゃないのか?」
しないよ〜。
「されてないですよ」
だよね!
「だから、なんでそうノータイムなんだよ。郷〇にあんたと出来てるのかって聞いた時もノータイムだったしさぁ」
画面がコメントの嵐で真っ白になってしまったので、コメントなしに切り替えようと思ったけど、よくわかんない。
金〇君の「何聞いてるんですか!」と、突っ込む声だけ聞こえる。
「金〇顔真っ赤w」ってコメントで、顔赤いんだ〜ってわかる。
「大体が郷〇なんて口が重くて、ホコリ被った床の間の置物みたいなのに、返事早かったぜ。
なんかそういうのって、余計に怪しいじゃないか」
床の間の置物って、ヒドイ。せめてホコリくらい払って。
「じゃあ、長考すればあやしくないんですか?二時間考えた後に、出来てないよって言ったら、怪しくないんですか?」
いいぞ、金〇君、反撃だ! >>104
そっかまだ仙ちゃん元気になってないころなんだね…
>>105
リモコン…先生や若い棋士をおもちゃにしないでほしい…
>>106
あららwそこがゴーちゃんの良さなんだけどね〜
>>107
美しすぎることは罪だね先生w
>>108
まだ先生が思う金〇君と本当の金〇君とに、大分ズレがあるね
>>109
金〇君を見守る先生が好き。胸にキュッってくるね >>112
アヘ顔って本人は気持ちいいんだろけど、見てる方は萎えないのかな?って思う…
美形なのに白髪でぷにっぷにで、優しそうなのに厳しい棋風の先生が好きw
>>113
画面ほんとに真っ白だろうね〜w
金〇君の真面目すぎて、かえって怪しい言動が好きw その時、駒音が響いた。
「あ、龍王、指しましたね。角でしたね。どういう考えがあるんでしょう?」
「良い手だと思ったから指したんじゃねぇの?それよりさ〜、あんたと郷〇さ〜」
みんな良い手と思うから指すんだよ!もう、タケちゃん仕事になってない。
「ここに角ですと、一見良くない感じに見えますね。僕も一瞬焦りましたが、
よく考えると、数手先にこう来てこうなってこうした時、この角が生きてくるんですね」
もう、金〇君はタケちゃんを見捨てて一人で解説を進めるつもりらしい。頑張れ!
でも、その筋は歩を打たれちゃうとまずいよ!
「でも、可能性としてここに歩を打ってこうしてこうなったらこうなるからヤバいよね」
タケちゃん、ファンタとか呼ばれてるけど本来は滅茶苦茶手が見えるんだよなぁ。
タケちゃんが軽く扱われてるのヤだから、ちゃんと仕事してよ〜。
「ああ、さすが冨士井先生、よく見えていらっしゃいますね」
「だろ?金〇君、俺と研究会しようよ。郷〇とのこと教えてよ」
「それ何の研究会ですか?だったら先生が郷〇先生と研究会したらいいじゃないですか」
「だって、ゴーダ誘ってくれないもん」
『てんてー可哀想!』『ゴーダ先生酷い~』『郷〇先生お願いです。てんてーを誘ってあげて』
画面が埋まる。ごめんね。誘わない。
「だからさ、俺のとこに来て振り飛車になってさ、
ゴーダ先生捨てて冨士井先生と研究会始めたおかげでタイトル取れました、っていい話じゃない?
俺、ゴーダに10戦以上負け越してるんだけど、金〇君が来てくれて振り飛車党になってくれたら
気持ち的に勝ち越せる」
もしかして、タケちゃんの言ってた新手ってこのこと?
それ、前向きなの?後ろ向きなの?
「なんだか訳のわからない話しになって参りました」
金〇君は必死に笑いにして受け流そうとしてる。
「あ、ここで昼食の情報が入って参りました。今日はたくさんの対局が行われていますから、
食事注文の新手はあるでしょうか?まずは、龍王の昼食注文です。ニンジン煮つけ定食、
デザートに角砂糖…」 会長室のドアが開いて、会長が僕を手招きした。
仙ちゃんが部屋の隅のソファーにぐったりと横になっていた。
「大丈夫?」と聞くと、仙ちゃんは目をつぶったまま頷いた。
「悪いけど仙ちゃんについててあげてよ。ちょっと対局の様子見て来る」
そう言って会長は出て行った。
「モテとね、来期に向けての話したんだけどね、もうクタクタになっちゃって」
仙ちゃんがか細い声で言った。
「先の話しすると、すごく怖くなっちゃうんだ。宇宙に放り出されるみたいな」
わかるよ。将棋界は急に路頭に迷うことのないシステムはあるにせよ、先の見えない仕事だもんね。
それなのに、仙ちゃんみたいに手が見えなくなっちゃう病気になって、もう元に戻らないかもしれない恐怖。
収入が、とか言うことじゃないんだよね。
僕たちの唯一の拠り所の「将棋」がわからなくなっちゃう恐怖。
取り戻せないかもしれない恐怖。わかるよ。それが想像もつかないくらい怖いって。
本当に、もし明日の朝起きたら頭が働かなくなって、将棋が指せなくなったら、僕はどうするんだろう?
『生きていても仕方ない』って言った、初恋の彼の言葉が頭をよぎる。
彼の、思春期の感傷も含んだどこか甘い響きのある『生きていても仕方がない』じゃない。
もの凄い現実味を帯びた、追い詰められた『生きていても仕方がない』
命を粗末にするとか、そういうつもりは毛頭ないけど…。
将棋の無い人生。将棋の無い郷〇真隆…。
…怖い。そうなったら僕はどうなっちゃうんだろう?
「今日の対局どんな感じ?」
仙ちゃんが聞くのでタブレットを見せたけど、仙ちゃんは「なんか目がチカチカするから音声だけ聞く」と言って目を閉じた。 中平六段、ビーフストロガノフに餅追加、斬新ですね〜」
金〇君が一生懸命将棋メシを盛り上げようとしているのに、タケちゃんは「ふ〜ん」とか、心ここにあらず状態。
「で、どうなのよ?俺んとこ来る?」
「弟子をお取りになるのは如何ですか?」
金〇君、ナイストライ!
「だからさ、プロ棋士に憧れられたいんだよ。プロで上品で小綺麗な金〇君みたいな人に憧れられたいんだよ〜。俺に全然憧れない?」
「いえいえいえいえ、憧れますよ~。独自のシステム作られた凄い先生じゃないですか!」
金〇君、声が上ずってる。いいよ、タケちゃんに気を使わなくても。
「じゃあ、なんで俺の棋譜取ってくれなかったの?なんでゴーダの時みたいに毎回感想戦見学に来てくれなかったの?」
「私、居飛車なので…」
「だから今から飛車振りなよ」
「だったら、小盛君は如何ですか?振り飛車党だし、僕より全然上品で小綺麗ですよ!」
金〇君、貴公子のくせに後輩を売ることにしたらしい。
控室にいる小盛君をカメラがパンして捉える。小盛君は急に自分の名前が出て来たので、ぽか~んとしている。
「う〜ん。小盛君かぁ〜」
タケちゃんが長考に入ったところで、昼食休憩になった。
「ゴーちゃん、俺、将棋の放送聞いてるんだよね?タケちゃんの声で振り飛車、とか言ってるもんね?」
仙ちゃんが本当に困惑した声で聞いてきた。
そうだよ。ごめんね。なんだかわかんないよね。ごめんね。 「これ、スタッフに配るお弁当だけど良かったら食べて」
と言って、モリちゃんがお弁当を持ってきてくれた。
仙ちゃんは食べたくなさそうだったけど、薬を飲むのに何か位に入れなくちゃいけないから、無理やり僕の食事に付き合わせた。
お茶注いであげるね。
「病気になってから、味覚が鈍くなってね、何食べても美味しくないの」
「へ〜、僕なんか味覚が鈍いから何食べても美味しいよ〜。凄く不味いもの以外は美味しいもの」
僕は食事と寝る所にこだわりがあまりない。これも棋士としては恵まれた才能の一つだと思う。
仙ちゃんは無頼を気取ってるけど、繊細なんだよね。
「仙ちゃんが炊いてくれたご飯で食べた納豆ご飯、美味しかったよね」
そういうと、仙ちゃんはしばらくポカンとしてたけど、あっと気が付いて
「うん、美味かった。何であんなに美味かったんだろうな。ご飯の一粒、納豆の一粒が確実に血肉になって行く感じがした」
って、力のある声で言った。
「俺たち、怒ってたよな」
「将棋界を変えるんだって思ってたよね」
「俺たち、少しは変えられたのかな…」
どうなんだろうね。なんか、結果として僕たち自身が旧態依然とした化石みたいになって悪目立ちしてる部分もあるし。
張り切って将棋のレベル上げちゃってスポーツみたいにしちゃったの、ちょっとまずかったよね。今、自分たちの首絞めてる。
「昔は、将棋、楽しかったな」
「今だって、これからだってずっと楽しいよ。楽しめないのは僕たちの個々の事情だよ」
「そうだよな。また楽しく将棋指せるかな…」
そう言いながら、仙ちゃんはお弁当のごま塩ご飯を「えい!」って感じで口に押し込んだ。
小さい子が、ご飯一杯食べて大きくなろうってするように。
仙ちゃん、また一緒に楽しく将棋指そうよ。 >>117
タケちゃん強引で面白いw
デザートに角砂糖美味しいよね〜w
>>118
仙ちゃん可哀想に…
>>119
あららw
仙ちゃんのリアクションが正しいよ〜w
>>120
仙ちゃんが隠し味に納豆ご飯に何か入れてたのか、と思ったけど違ったw 食事の後、薬を飲んで再びソファーに横になった仙ちゃんを残して、外の空気を吸いに会館の外に出た。
秋の風が気持ち良かった。千駄ヶ谷の方から、Call君が真っ赤な顔して歩いてきた。
「先生〜。うぐひゅひゅひゅ」
どうしたの?変な音声漏れてるよ?
「千駄ヶ谷の駅で〜、綺麗なおねぇさんに鳩が森神社への行き方聞かれました〜。良い匂いがしました〜」
ああ、それは良かったね。一緒に歩いて来たの?沢山情報収集できた?次回会う約束取り付けられた?
え、ただ道順教えて別れたの?
「え?あああああああああ!!!!!そうか〜!!!一緒に来ればよかったんだ〜!!!
あああああああ、僕はバカですう〜!!!古臭いカビが生えたみたいな矢倉教えてもらうヒマがあったら、
先生からスケコマシのテクニックを教わるべきでした〜!!!」
Call君、色々ヒドイ!矢倉は不滅だよ!
大体、なにそのスケコマシってお下品な言葉!
今どきの子、使わないでしょ!
こんなのテクニックでも何でもないよ。
好きな人がいたら、その人のこと知りたいと思うでしょ。
素直に訊けばいいんだよ、出会いの時間は本当に短いんだから。
でも、そう言えるのも、僕が年取ったからなんだよね。
Call君の年の頃だったら、恥ずかしかったり見栄張ったりで、素直になんかなれなかった。
「好きとかじゃないんです〜。でも、綺麗な人で〜、もっとそばにいたかったです〜」
うんうん、わかったよ、良い匂いもしたんだね。
「検討室に行くの?」
「はい〜。でもなんだか空気が抜けちゃいました〜」
「大丈夫だよ。良い対局見たら気分も晴れるよ」
「はい〜」 >>114 >>121
いつもコメントありがとう。励みになります。
以前は書きたいものを書きながらも短くしよう短くしようと頑張ってたんだけど、今はとにかく
納得いくように最後まで書き続けたいです。
ハッピーエンドにしたいけど、先生と金〇さんだけでないみんなのハッピーって何なんだろうと思うと、難しい。
でも、ゴールが見えそうな感じなので、もうしばらくお付き合いください。 検討室に向かうCall君を見送って、会長室に戻った。
5分くらいしか外に出ていなかったけど、仙ちゃんがちゃんとソファーに寝ていてくれてほっとした。
今くらい元気な時のほうが、仙ちゃんみたいな病気の人には危ない時なんだって聞かされてたから。
タブレットでまた放送を見る。
昼食休憩が終わって、対局が再開されたけど手が動かないので初手からの振り返りになった。
「24手目、ここは結構大きな変化だったんだと思うんですが、先生どうでしょう?」
「ん〜、そうなんじゃないの〜。でも終わってみないとわかんないし」
相変わらずのタケちゃんの態度に、金〇君も苦笑するしかない。
「ゴーダとさぁ、普段何話してんの?」
「将棋の話ですよ。ここで龍王が約40分考えて桂馬を打ちました」
金〇君、もうリアクションも取らず淡々と解説を進める。
「え〜、もっとなんか話してないの?」
さすがのタケちゃんも、蔑ろにされているのに気がついたっぽい。
「タケちゃん何やってんだ?後でちょっと絞めとくか」
戻って来た会長が画面をのぞいて、どすの効いた声で言った。
そうだよ、大体僕と金〇君のW解説がなくなったのって、
僕たち二人からスポットライト外していくためだったんじゃないの?
逆に火に油注ぐみたいなことになってるけど?
「そうそう、昼食休憩中に考えたんだけどさ〜」
と、タケちゃん。
「はい、何でしょうか?」
「やっぱり小盛君じゃないんだよ〜」
「何のお話でしょうか?」
「だからさ〜、おれは金〇君に憧れられたいんだよ~」
「え、あ、そのお話でしたら…」
「俺さ〜、ゴーダとお揃いが良いんだよ〜」
う、って感じで金〇君の動きが止まった。 画面のコメントも止まった。
そして、一瞬の後、「てんてー、それヤバい!」「それは言ったらいかん!」「マジきもい」
「ぎゃーホモだ〜!」「ゴーダ先生逃げて!」なんてコメントで画面が埋め尽くされて真っ白になって文字も読めなくなって、
その後画面が真っ暗になってしまった。回線が落ちたらしい。
画面に「システムの異常を確認しています。しばらくお待ちください。ご迷惑をお掛けします」
って文字が出た。ご迷惑おかけしているのはこっちです。ごめんなさい。
「あんの馬鹿野郎!」と叫んで会長が飛び出して行った。
仙ちゃんもか細い声で「あああ、タケちゃんどうしちゃったの」とか言って体を起こした。
ごめんね仙ちゃん、大丈夫だから寝ててね。
僕も正直一瞬鳥肌が立った。
なんか、聞いたことない?昔、仲のいい男同士が遊郭で同じ花魁抱いて疑似肉体関係をもって、
ホモじゃないんだけど友情以上恋愛未満の感情を満たした、みたいな気持ち悪い話。
僕、一瞬、タケちゃんが、金〇君を共有することで僕と繋がりたいのかと…。
みんなも同じものを感じ取ったからこんな大騒ぎになっちゃったんだと思う。
でも絶対タケちゃんにはそんな深い意図はないんだ。
ただ本当に金〇君に憧れられてる僕が羨ましくて、小盛君で代替え案を考えたけどしっくりこなくて、
やっぱりゴーダと同じ人から憧れるんじゃなきゃヤダ、それだけなんだよね。
連盟の職員さんが会長室に入ってきた。仙ちゃんにはその人が付き添うから、僕はスタジオに来てくれとの会長の伝言だった。
地下のスタジオは右往左往する人で大騒ぎだった。スタジオの隅で会長がタケちゃんの胸ぐらをつかまんばかりにして説教してるけど、
タケちゃんは何も感じてないっぽい。
僕を見て、「よお、ゴーダ、観てた?」とか言ってきた。
「郷〇君からもきちんと冨士井君に言ってやって。馬鹿な話ししてるんじゃないって」
「な、ゴーダ、イイよな、俺が金〇の第二のゴーダになるから安心して後は任せてくれ」
もうわけわかんない。 「放送が復活したら、もう冨士井君はいいから。金〇君と小盛君と俺で回す。俺が無料で解説すればヌコ生さんにも文句はないはず」
会長も解説しちゃうの?なんかすごい豪華な放送になるね。ワクワク。
「え〜、俺、カワイコチャンともっと解説したい」
「解説してなかっただろ!」
会長、ナイス突っ込み!
その時、モリちゃんが来て、「あ、金〇君が大変」と言った。
「立ち上がろうとしたら眩暈がひどくて歩けなくなっちゃって、今、布団部屋で寝かせてる。もしかしたら救急車とか呼ぶようかも」
え〜、また眩暈しちゃったんだ?まぁ、金〇君なんて花魁ポジションだもんね。なんだかわかんないおじさんの間で勝手に奪い合い?
みたいなことになってて、ダイレクトにあの発言喰らったんだから、クラクラしちゃうよね。
「郷〇先生、ちょっと顔出してやって貰えませんか」
って誰かに言われて、周りもうんうん、って感じで、なんか流れでお見舞いに行かなくちゃいけないことになった。
行きたくないよ。そりゃ彼のことは心配だけど、かえって気を使わせちゃうから。
布団部屋って、4階にある座布団や将棋盤なんかを置いている和室なんだけど、金〇君はそこに座布団を並べて寝かされていた。
電気を付けない薄暗い部屋の中で金〇君は身体を横にして「横たわっていた。
側に付き添っていた自明君が「あ、郷〇先生」と言ったので、金〇君が目を開けて体を起こそうとした。
したんだけど、身体に力が入らないらしく、彼の手足が虚しく宙を切った。
自明君が手を貸そうとしたので、「起きなくていいから」って言って自明君の動きを止めた。
「申し訳ありません」と、金〇君が目を閉じて眉間にしわを寄せたまま言った。
申し訳ないの意味が、寝たままで申し訳ないなのか、倒れちゃって解説が出来ないことなのか、何だか分かんなかったけど「うん、気にしないで」って応えた。
「電気の光が辛いそうです。あと、目を閉じていても船酔いみたいな感覚があって吐き気がするとか」自明君が説明してくれた。 僕に何ができるわけもないので、自明君の横に座って金〇君の様子を見ていた。
薄暗い灯りの中に、金〇君の青白い顔が浮かんでいた。形の良い眉を寄せて目を閉じている。濃い睫毛が頬に影を落とす。あれっと思い、ああ、と納得する。
金〇君は何度も僕のマンションに泊ったけど、僕は彼の寝顔を見たことがなかった。別の部屋で寝ているんだから当たり前と言えばそうなんだけど。
でも、Call君だってAOだって、泊った回数はずっと少ないけど、寝顔見たことあるんだよなぁ。朝、起こしに行った時とかに。
金〇君は、朝必ず先に起きて朝食の準備してくれてたし。まあ、どうでもいいことなんだけどね。
そうこうするうちに、連盟の嘱託医がやってきた。金〇君の目の中を懐中電灯で照らしたり、腕を伸ばさせたりして検査するんだけど
金〇君はそれだけで吐き気がするらしく、口に手を当てて「うげっ」みたいな不穏な音を立てている。
医者が首を振った。アメリカ映画の「これはお手上げだ」みたいな、ため息をつきながらの首振り。何?金〇君末期ガンかなんかなの?
僕の背筋が宇宙空間に浮くみたいな嫌な感覚に襲われた。
お医者さんは金〇君に「おそらくストレス性の眩暈で、治らない病気じゃないと思う。早く治療開始すれば、それだけ早く治る。
でも、万が一この眩暈が腫瘍から来ているといけないから、大きい病院で検査して。会長の所に紹介状置いて行くから」と言った。
今はとにかく休養が必要だからと言って、注射を一本して帰って行った。
自明君が連盟の職員さんに呼ばれて部屋を去り、僕と金〇君の二人きりになった。
おそらく注射は安定剤か睡眠薬だったんだろう、金〇君は必死で睡魔と戦っているようだったけれど、じきに寝息を立て始めた。
僕はどうしていいかわからなかったので、じっと金〇君の寝顔を見ていた。
金〇君は悪い夢でも見ているのか、身体が苦しいのか、眉根を寄せて何回も何かを振り落とそうとするように首を小刻みに振っている。
母と祖父は僕を医者にしたかったんだよね。こんな時には、自分が医者だったらなと思う。普段は棋士になったことに全く後悔はないんだけど。 ……」
金〇君が何かつぶやいた。え、どうしたの?何か欲しいの?聞き取ろうと思って彼の口元に耳を近づけようと屈みこんだ。
その瞬間、金〇君が目を開けたので、もの凄く近い距離で金〇君と目が合った。あ、良かった、気が付いたんだね。
でも、金〇君はまるでお化けでも見たみたいな表情で「先生、私、眠ってましたか?私なにか言いましたか?」って聞いて来た。
「なんか言ってたけど、聞き取れなかったよ。何か欲しいものある?」って聞いたら、ふぅ〜っと息を吐いてまた眠ってしまった。
ごめんね、金〇君、目を開けたらおっさんの顔が目の前にあったら怖いよね。
金〇君の眉根がまた寄って、彼の手が顔の前の空を掻くような動きをしたので、何だか分からないけどその手を握った。
僕の手より厚みのある手だった。
この手から、指先から、綺麗な音楽が紡ぎだされるんだなぁ。その手は冷たかった。
その時、襖が開いて王座が入ってきた。
金〇君の上に屈みこむようにして手を握ってる僕を見て、王座が一瞬止まった。
「こう…金井さんが倒れたって聞きまして…」
王座、ちょっとドギマギしてる。
金〇君にの上に屈みこんで手を握って、傍から見たらキスでも狙ってるヤバいおじさんに見えたかも。
「なんか、眩暈と吐き気がするって。今、お医者さんが注射して帰った所」
何でもない風に金〇君の手を彼の身体の脇に置いて手を離す。実際何でもないんだけどさ。
こっちは王座の金〇君への感情知ってるし、王座がちょっとドギマギしてるから、こっちまでドキドキしちゃう。
座布団の上に力なく置かれた金〇君の手は、なんだか寂しそうだった。
でも、まさか王座に「金〇君の手が寂しそうだから握ってあげて」とは言えないしねぇ。 明日のイベントのために一日早くこっちに来た、来て良かったと言いながら、王座が金〇君の額にかかった髪を撫で上げた。
とても自然な優しい仕草だった。
してしまってから、王座は僕が側にいることを思い出したようで、動きが止まったけど、僕は気が付かない振りをして、
「へ〜、何のイベント?」なんて聞いたりした。
でもちょっと、金〇君が優しくされて嬉しかった。
そうだ、あの日、料理してた王座の指が金〇君の唇に触って…。
あの時の衝撃を思い出して、急に顔が赤くなってしまった。
王座、こっち見ないでね。
自明君と会長が入ってきた。
タケちゃん解説続行、小盛君の都合がつかないので、金〇君のスポットに自明君が入ることになったらしい。
自明君が枕元に置いてあった金〇君のタブレットを持ち上げながら、
「こうちゃん、これ借りるよ」と、言った。金〇君の反応はなかった。
王座がちょっと驚いた様子をしているのに気が付いた自明君が
「金〇六段は将棋専用のタブレットにはロック掛けないんだよ。んで、解説の時は凄く勉強して来てるから。見てよこれ」
と言って画面を見せている。ヒュ~っというような音とも声ともつかないものが王座の喉から漏れた。
「凄いですね。ここまで調べるんだ…」「でも、使うの一割もないんだよ。下らない雑談コーナーとかで時間使われちゃうから。なのに、こいつは…」
自明君が、とてもやさしい眼差しで金〇君を見た。
そうだね。金〇君はいつも全力投球だよね。
それに、棋士の雑談コーナー、いらないよね。 会長が、僕の側にしゃがみこんだ。
「マスコミが多くてちょっと救急車呼びにくいんで、一般車両で搬入して救急扱いにしてもらえるように手配したから」と言った。
わさわさっと人の気配がして、襖が開いた。
オリヴィオが「やあ」と言いながら体格のいい男の人達を従えて入ってきた。
彼らは金〇君の頭の下に板のようなものを入れると、彼をマネキンでも動かすみたいに軽々と持ってきたストレッチャーに移して去って行った。
なんだか、邪魔なものは捨てちゃいますねー、みたいに速やかで軽やかに。
自明君も王座も僕も、ポカンとして運び去られていく金〇君を見ていた。
なんだか金〇君が知らない物体になってしまったように感じた。
自明君ははっと気が付いて、タブレットを持って部屋を後にした。
会長が僕に「俺、こっちが終わったら行くから、ゴーちゃん病院に行って貰えないかな。ご両親とE野先生には連絡取ってあるから。ちょっとマイナーな所だけど」
と言って、僕に病院の名前と住所を書いたメモを渡した。あ、ここ知ってる。
「仙ちゃんは社長の送り届けてもらうから」
「うん、わかった」
王座がじっとこちらを見てるので、
「一緒に行って貰える?」と聞いた。
王座は、ほんの少しだけ嬉しそうに「はい」と言った。
僕、良い人でしょ?こういう良い先輩には、順位戦の時恩返しするんだよ。
まあ、それは冗談だけど。でも、僕は実は彼に残酷なことをしているのかも知れないな。 >>123
何にも感想無いと段々書く気が無くなってくるよね〜と思ってレスしてるよ〜。頑張ってね〜
>>124
あらら会長さんがお怒りに…
>>125
へぇぇ〜疑似肉体関係か…すごいものがあるんだね
俺は3Pが好きだな
例えば俺が先生を好きで、先生が金〇君を好きだとしたら。俺と先生と金〇君で3Pする
実際にS〇Xするんじゃないよ、感情的なものだよ
>>126
金〇君が心配…
>>127
寝顔を見たことなかった、って何か胸にグッとくるね…
金〇君完璧な自分を見せようとしてたのかな… >>128
金〇君は先生の名前でも呼んだのかな?
いいところで王座が入ってきちゃった…
金〇君が先生と結ばれたら、王座振られるんだよね…
>>129
頑張り屋の金〇君も優しい自明君もいいね〜
>>130
金〇君の体調がすぐ良くなって、再発しませんように…
あぁいよいよ金〇君の奪い合いに… >>123
連載ありがとう、お疲れ様
何度も読んでるよ〜
登場人物みんなに惹かれる
金〇君限界だよね、目眩は本当につらいけどタケちゃんの爆弾が必要だったってことか〜
ゆーきが「幼稚園のときに出会って…お互いが棋〇になったら。死ぬまで」って言ってたのをふいに思い出したよ
みんな一生懸命だから幸せになってほしいよ >> 131,132
いつもありがとう。
いつも、ちゃんとこちらが描きたかった部分を掬い取ってくれてコメント下さるので嬉しいです。
本スレの方のSSへのコメントもすごく良く読み込んでるな〜といつも感心させられています。
感情的な3pって、なんだかすごく色っぽいですね。
それで一つ作品が書けそう。
自明はもっと狂言回し的な役割になるかと思ってたのに、何だか良い人になっちゃいました。
これも金〇君パワーかもしれないw
ちょっとは悪い人が出てくんないと困るんで、オリヴィオに頑張ってもらいます。
>>133
ありがとうございます。
タケちゃんの爆弾で少し金〇君の要塞が崩れたかな~、という感じですが…。
もっと破壊力あるかなと思ったら先生の鈍感力の方が強かった。
もっと色んな爆弾投下しないと駄目なんだろうか、このおっさんは。
でも、先生ケロッとしてて金〇さんが一人ひっそり爆死してそう。
ゆーきそんなこと言ってたんですね。
金〇さんなら「小学生で恋をして、自分もプロになったら死ぬまで…」って感じでしょうか。
私もみんなに幸せになってもらいたいです。 駐車場に行くと、大きなヴァンに金〇君を乗せたストレッチャーが入れられている所だった。
オリヴィオが僕と王座にも乗り込むようにと手招いた。王座とオリヴィオの体型がよく似ていて、邪悪なお父様と心美しい息子みたいでちょっと面白い。
ヴァンに乗ると、王座がさっと金〇君の手を握って髪を撫でた。
もういいじゃん、金〇君。彼にしちゃいなよ。
僕、全力でE野先生と王座の師匠説得するから。
カミングアウトする準備が出来てないなら、出来る限り庇うからさ。
彼は「不滅の恋人」じゃないかもしれないけど、こんなに君のこと心配してくれて、大事にしてくれて…。「
不滅の恋人」さんは心の神棚にでも飾っておいてさ、時々お参りに行って、普段は王座と楽しく過ごしなよ。
遠い身内より近くの他人、とか言うじゃない。なんか違う?
オリヴィオがひょろ長い身体を折り曲げて僕の隣に座ると、連盟の職員さんが外からドアを閉めてくれた。
オリヴィオがいかにも面白くてたまらないって風に金〇君の髪を撫でる王座を見ている。
その名の通りって、こっちで勝手に名付けただけだけど、イタリア人みたいな(って、じゃあフランス人とどう違うって言われたらよくわかんないけど)
彫が深くて垂れた目尻で形の良い唇の口角を上げて、頬杖ついて横目で二人を見ている様子は色っぽくて見ほれるくらいだったけど、なんだかヤだった。
こんな庶民的なヴァンの中なんて似合わないんだから、乗り込んでこなければいいのに。何がそんなに面白いの?
オリヴィオは僕の視線に気が付いたのか、こっちを向くと「狐の皮衣って感じだねぇ」と言った。なんだっけ、それ。高校の時に習った記憶がある。
なんか最近、プラトニックがどうしたとかこの詩だとか、もっとまじめに勉強しとけばよかったみたいなことばっかりだ。
「汚れちまった悲しみは〜」だっけ? 昨日図書館で読んだ先ちゃんのエッセイに先生と中◯中◯が登場してた〜偶然だけどなんか嬉しい
ネットのプレビューでも読めるページだよp35〜
https://books.google.co.jp/books?id=SyBcxw2t7PkC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_atb#v=onepage&q&f=false 「なんでこんな車用意してたの?普段はなんか偉そうな車に乗ってるのに」
「金〇君が解説するっていうから、差し入れ持って来てただけだよ。そしたら倒れちゃったから、うちの会社の車都合しただけ。会社、新宿だからすぐ来れるし」
「会社って、あなた何してる人なの?」
「何にもしてないよ。ただ偉そうにして時々ハンコ押してるだけ」
「ふ〜ん」
「嬉しいなぁ、君が僕に興味持ってくれるなんて」
ちょっと疑問に思っただけだよ。君本体には興味ないから。
ただ、あんまり君に王座と金〇君見て欲しくなかっただけ。
車が病院に着いた。
駐車場にはスタッフが待ち構えていて、あっという間に金〇君を乗せたストレッチャーは病院の中に消えた。
ここは私立の病院だから、オリヴィオの実家の息が掛かってるんだろう。
偉そうな人達が出てきて挨拶してる。この人にそんなに頭下げなくていいから。
なんか、応接室みたいな部屋に通された。
この病院、いつも僕が使ってるとこで、普段は固い待合室の椅子に座らされてるのに…格差社会…。
「すみません、僕は金〇さんの側にいたいので、失礼します」
そう言って王座が部屋を出て行った。
「う〜ん、清々しいねぇ」
って、オリヴィオが口角を上げた笑顔で言った。
「なんか知ってるの?」
なんだか王座の恋心を馬鹿にされているようで気分が良くなかった。
これが恋じゃなく只の友情だったとしても、『側にいたい』って凄い言葉じゃない?笑うこと?
「君が知ってることなら大体知ってると思うよ。それに君が知らない君が知るべきことも」
ふ〜ん。でもどうせはっきり言わないんだったらどうでもいいや。
僕が聞きたかったのは、箇条書きみたいな事なんだから。 Wi-Fiのパスワードが壁に書いてあったので、タケちゃんから貰った?連盟のタブレットを起動してヌコ生が再開してるか見ることにした。
こういうのも全部金〇君から教わったんだよなぁ。
金〇君がうちに来なくなったら、新しい技術出てきた時、AOとかCall君とか、金〇君みたいに根気強く優しく教えてくれるかなぁ。
僕、打たれ弱いタイプだから。
「本日の聞き手を務めます、女流初段のカナイじめ子で〜す。兄弟子が体調不良のため妹弟子が頑張りま~す」
「なんだよお前、やりにくいよ。なんか他にいなかったのかよ、さっきゴーダとかモリとかウロウロしてただろ」
なんで僕やモリちゃんがタケちゃんの聞き手すんのよ。ゴーダ真子で〜すとか、やんないから。
画面には金〇君が交代になったことを心配するコメが一杯流れる。金〇君人気あるなぁ。
自明君はタケちゃんを軽くいなしながら、サクサクと解説を進めていく。頼もしい。
そうこうしているうちに、モリちゃんに連れられてE野先生がいらっしゃった。
この前のやつれた様子から回復なさって、いつものダンディーなE野先生だった。
「郷〇先生、恒太は大丈夫でしょうか?会えますか?」
E野先生、お父さんというよりお母さんみたいだ。
今検査中で会えないと伝えると、フラフラとソファーに座り込んだ。
「放送見てたら何だか急に画面が真っ暗になってしまって、驚いていたら会長から連絡があって恒太が倒れたって。
恒太が何かやらかして放送がおかしくなっちゃったんですか? コードに引っ掛かってコンセント抜いちゃったとか?」
先生、放送じゃなくて配信って言うそうですよ。恒太君はやらかされた方です、というわけにもいかないので、
「体調不良で眩暈がひどいんだそうです。放送は人気がありすぎて回線がパンクしちゃったらしいです」
「恒太は働き過ぎなんですよ。何度も断ることも仕事のうちだって教えたんですけれど、ああいう子なので断れなくて」
そうなんだよね。断れないんだよね。ああいう子だからね。ああいう…。
あれ?ああいうって、どういう?今、僕、なんか金〇君に対して疑問持った? >>135
心の神棚ねぇ…そこに祀られるのは先生自身なんだよ…
>>137
先ちゃんのエッセイ初めて読んだよ、上手だね〜
>>139
オリヴィオは王座の恋心も金〇君の恋心も知ってるってこと?
なんか恋心が汚されそうで嫌なんだけど…
>>140
先生がWiFiのパスワード入力出来るなんてびっくりw金〇君頑張ったねw
AOにもCallくんにもそんな根気無いと思うよw
カナイじめ子ちゃん可愛いねw
E野先生金〇君のお父さんみたいだね。金〇君すごく気に入られてるんだね
ああいう子…先生にはどういう子に見えてるんだろう?そして本当の金〇君とどれくらいズレてるんだろう…? お医者さんが来て、一応バイタルは安定しているし眠っているから、ご家族が来てから今後の方針を、みたいなことを告げた。
「まあ、さすが先生ですわ! 先生、ステキ! 先生、じゃあここに角を打ったらどうなりますの?」
「気持ち悪いからそれ止めろよ」
自明君が女言葉で茶々を入れるので、気味悪がったタケちゃんが自明君を黙らせるために頑張って解説している。さすが自明君。
ネットの他の場所でも話題になってるらしくて、どんどんアクセス数が増えている。そっか〜。こうやって話題作りして視聴者ゲットか〜。
本当に今の若い子たちは凄い。
「会長が向こう離れられそうもないから僕が来たから、ゴーちゃんお疲れ。ありがとう」
病院の人と話してたモリちゃんがやって来て、僕を解放してくれた。
うん、僕帰るね。
金〇君のご両親にお会いしたくなかったので、ちょっとホッとした。
金〇君は僕との指導対局で褒められてプロを目指したって色んな所で言ってくれて嬉しいんだけど、基本的にはご両親に対して
「こんな優秀なご子息をヤクザな道に誘い込んで申し訳ありません」って気持ちになる。
ご両親にはAO戦の時にご挨拶してるけど、あの時は夢も希望もあるときだったし…。
今はなんだか健康害するほど働かせちゃってて…。
僕は自分が棋士になったことになんの後悔も無いけど、それでも母や祖父はちょっと悲しんだ。
医者にしたかったから、棋士になる前にゴタゴタあったんだよ。
実際の所、僕は将棋だからこれだけ頑張れたけど、他の道に行ってたらそれほど成功したと思えないんだよ。
それなりに何でもこなせるとは思うけど。
でも、金〇君なんて、ちゃんと東京六大学なんて出ちゃって、普通に常識もあるし他の分野でも十分成功できたと思うんだよね。ピアノも上手だし。
なのに将棋指しなんかになっちゃって。しかも、あんなわけわかんないタケちゃんの言葉で歩けなくなっちゃって。
僕とのことを面白おかしくいじられてることとかさ、一体自分たちの大事な息子をなんだと思ってるんだ!と思われても仕方ないことだし。
本当に申し訳ありません。
僕は逃げます。連盟の理事も、師匠も居ますし、あとお宅の息子さんをあ、あ、愛している青年も。
あの、年下ですけど、息子さんより背は高いです。えっと…とにかく逃げます! 「送って行くよ」
オリヴィオがすっと僕の横に立った。
いいよ別にって思ったけど、ちょっと聞きたいことがあったから好きにさせることにした。
帰り際に、正面玄関のスタッフ紹介のポスターを見た。社長そっくりのお医者さんの写真が循環器外科の所に載っていた。
でも、社長と苗字が違っていた。ふ〜ん。どっちか婿養子にでも行ったのかな?
病院の外に出た。まだ明るかった。なんか、色んなことがあったからずいぶん時間が経っているような気がしてたけど。
「あのさぁ、教えて欲しいんだけど」
なんだか妙に静かなオリヴィオに聞く。
この人、三つか四つ大学出てて、博士号とか一杯持ってるんだよ。
留学もしてて、オックスフォードとか、ハーバードとか。
あと、ワルソー大学ってのにも行ってて、僕たちは「悪そうってそのまんまじゃん」って笑ったけど、
平たく言うとワルシャワ大学って聞いてがっかりした。
「プラトニックラブってさ、どんな理由でもエッチしなかったらOKなの?」
オリヴィオはブフって感じで笑った。
「OKって誰に許可貰うのさ」
って聞かれて、ああそうだよなぁって。
「プラトンだっけ、言い出しっぺのおっさん?なんか、免許皆伝みたいなのくれる機関無いの?
『君はよく我慢しましたね』って。一万円くらい同封すると免状送り返してくれるみたいなの。プラトニック初段とか」
「昇段規定は何?」
「我慢した回数とか?」
オリヴィオは骨張った首をのけぞらせてははは、と笑った。これだから将棋指しは数字ばっかり、とか言いながら。
「まあ、あの人は美少年好みだったけど報われない人生だったらしくってやらせてもらえなくて悔しいから、
言い訳になんか考えだしたんじゃないの?イデアだっけ?負け犬の逃避としか思えないけどね」
ちょっと〜。大学いっぱい出てるんでしょ?もう少し高尚な考察してよ〜。
そんなの、僕と仙ちゃんだって考え付くよ。
「まぁ、さすがにEDとかだと駄目なんじゃない?もうちょっと精神性重視っていうか」
「精神性のEDでもダメなのかな?」
「う〜ん、出来ないんじゃなくてしない所が肝なんじゃないの?なんで?」
「うん、ちょっと知り合いに聞かれたから…」
「金〇君の事、知り合いとか酷いなぁ。もっとなんか呼び方無いの?」 >>147
自明の聞き手可愛いねw
AO戦の夢と希望………
そうだよね、金〇君いかにも先生に影響受けて棋士になったみたいで
他にもっと得意なことありそうだよね…
>>148
プラトニックかぁ…
身体に触れることと、自分の性欲だけを満たすことは違うことだと思うなぁ…
指一本触れてなくても、頭の中で淫らなことをさせていたら、プラトニックって言えるのかな?
好きな人を汚さないことが大事なんだと思う
なんで知り合いが金〇君の事ってなってるの? え、って驚いて彼の顔見ちゃった。
「うん、そうなんだ。知ってるんだよ」
オリヴィオはなんだか済まなそうな顔で言った。
この人がニヤニヤ笑ってない顔なんて、あの夜以来かも。
しかも、あの時は僕デロンデロンに酔ってたし、25年以上も前のことだし…。
いつものちょっと人を小馬鹿にしたみたいな顔だったらもういいよってなるんだけど、こんな表情されたら、どうしたって読みを入れたくなっちゃうじゃない。
以前なら、これもこの人の仕掛けた罠かもとか勘ぐったりしたんだけど、今はもうそんな情熱も無いから、目の前にある情報を処理していく。それで騙された所で、
どれ程のダメージがあるわけでもないし。
「金〇君から聞いたの?」
「金〇君にプラトニックとか吹き込んだのが僕だからね。勿論、彼だってプラトニックって言葉は知ってたけど、
自分の恋をそこに位置できなかったから手助けしようと思って」
「ああ、不滅の恋人さんへの恋に名前を付けて上げようとしたんだ」
金〇君がこの人に質問に行ったわけじゃなくてちょっとほっとする。
「でも、返って彼は悩んじゃったみたいでね。可哀想なことしたかな」
「なんで悩むの?」
「自分の卑しい恋情がそんな大それた思想と同格に語られていいのかと」
ひゃ〜、難しいんだね。辛い思いしてるんだから、少しくらい大袈裟でもいいじゃんね。
「卑しい恋情なの?」
「僕は全然そう思わないけどね、彼がそう思ってるからどうしようもない」
ふ〜ん、そうなんだ。それは可哀想だね。
「好きな人がいて、その人と行きつくところまで行きたいって思うのは、そこまで悪いことなのかな」
「僕に聞いても何の参考にもならないでしょ」
まあ、そうだよね。僕はオリヴィオのこういう自分自身に対する冷静な判断は好き。 「金〇君って君から見たらどんな子?」
「礼儀正しくて真面目でいつでも全方向に対して全力投球の子じゃないの」
そうなんだ。なら僕の『ああいう子』と同じだ。安心した。
オリヴィオと価値観が同じで良いのかよくわかんないけど。
「いつから金〇君のこと知ってるの?」
「奨励会の頃から知ってるよ。僕は奨励会員は一応全員知ってるもの。
彼の君への傾倒は有名だったから、趣味が合うと思って目を掛けてたんだよ。
クラッシックコンサートの会場なんかでも会うことがあって、挨拶したりしてたし」
オリヴィオは、地面を見つめてふふっと笑った。
「いつだったかな。彼がプロになる前か後か。君の話になって、僕が若い頃の君を引っ張りまわしてた話なんかして、
君の容姿と性格が僕の好みにドンピシャなんだって言ったらね、金〇君が『郷〇先生は容姿も優れていますけど、先生の棋譜はもっとキレイですよ』
ってちょっと気の毒そうに言われちゃってね。
僕はチェスは少し指すけど、将棋は全くだからね。あの表情は良かったな」
そっかー。そう言ってくれたのかー。なんか、僕も鼻の奥がツンとするような、泣きたいような気持になってしまった。
「それで、コンサートなんかにも一緒に行くようになって。鬼界ケ島でもっと親しくなって」
「なんで?」
「まあ、色々と個人的に相談に乗るようなことがあって」
「あんな遠いとこ行ってまで人生相談?彼、そんなに悩んでることあるんだ?」
「いや、あっち行って悩みが出来たんだけどさ。まあいいよ、車呼ぼうか?」
鬼界ヶ島で急にできる悩みって何?島の娘に恋をしたとか?でも、オリヴィオはそのことについては話さないよ、って感じで話を打ち切ったから、僕も深追いしなかった。
なんにしても、もう何年も前の話なんだし。
「車はいいよ。僕、この近くの高校に通ってたんだけど、いっつも時間に追われてたから、今日はゆっくり昔を偲びながら帰るよ」
「んじゃ、付き合うよ」
普段だったら断ってると思うんだけど、今日のオリヴィオがなんだか素直なので、こっちも仙ちゃんとかモリちゃんとかの古い友達といるみたいな気持ちになってしまって、
何となく一緒に歩き出しちゃった。実際彼は古い知り合いだしね。 「あの時、凄かったよねぇ。鬼界ヶ島での将棋。日にち跨いで。君が青白い顔で濃い藍色の着物着て部屋に入って来たの覚えてる」
「滅茶苦茶自分に腹立ってたからね。最後の分岐点で日和ったんだよ。自分を信じきれなくて。信じなかった自分に対して、信じられなかった自分が腹立ててたの」
ふふっとオリヴィオが笑った。いつもの人を小馬鹿にしたような笑いで、ちょっと安心してしまった。
「君のあの時のギラギラした目は今でも僕のオカズだよ」
はいはい。お元気そうで何より。
「貴方はあの時検討室にいたの?全然記憶にないんだけど」
「居たよ~。ただすぐ部屋出ちゃったからね。気が付かなかったかもね」
あの時はなんだかすごい騒ぎだったからね。ああ、金〇君来てるな、って思った瞬間、カメラのフラッシュバシバシ焚かれて。そのままインタビューになったんだっけ?よく覚えてないや。
やっと色々終わってホテルの部屋に帰ったら、すぐ部屋のドアノックされて。何にも考えずにドア開けたら、いかにもプロですって女の人がいたから、部屋間違ってますよって言ったら主催者が気を利かせて送り込んでくれた女の人で。
僕がムッとした顔しちゃったから女の人も恐縮しちゃって、なんだかお互いにペコペコ頭下げて別れた。
ああいう時どうすればいいんだか今でもわかんない。今でもあの女の人に申し訳ない気持ちになるってことは、僕の対応が間違ってたんだろうとは思うけど。良い人だったな。何度もごめんなさいって言ってくれて。
その口調に尊敬があって。
僕も申し訳ない気持ちは伝えられたんだろうか…。
綺麗な人だったし、言葉遣いに教養のある人だって言うことが分かった。
僕が彼女を抱かなかったことが、彼女にとって大きな問題でないと良いんだけど. >>150
金〇君の真面目さが胸を締め付けるね…
オリヴィオって邪魔してるだけじゃなさそうだね…
>>151
『先生の棋譜はもっとキレイですよ』って重要なところだよね?
鬼界ヶ島で何があったの?
>>152
売〇婦が来たってことだよね
先生は無条件に売〇婦を賎しい人間だと思わないんだね
ちゃんと個人を見るんだね、すごい人だね 何度もタイトル挑戦もしてるし、遠征にも行っていて、最近でこそ主催側が女の人を送り込んでくるなんてなくなったけど、昔はこんなこと普通だった。
先輩棋士があの土地の女はどうだったこうだったって話してるのを何度も聞いたし、実際に僕の所にもそういうことって何度かあった。
僕は道徳心が云々じゃなくて、単純にそういうのがダメだから毎回お断りしていたけど、あの夜の鬼界ヶ島の女性は印象に残っている。
それは多分、自分としては凄く情けない負け方して心も体も怒り狂っていて、正直に言えば性欲も猛り狂ってたんだよね。
(あ〜やだ、猛るって漢字、タケちゃんの名前の字じゃない!)
そこに彼女が来て、正直心が動いた。でも無理だった。
死ぬ前に走馬灯のように人生の色んなシーンが見えるっていうけど、一瞬僕の脳裏に将棋の世界に入ってからの色んな事が浮かんで…。
母に連れられて初めて道場に行って師匠に会った日から、奨励会の日々やプロデビュー、タイトル戦や順位戦の光景が脳裏に流れて、
最後にはすぐさっき見た金〇君の青白い顔と一斉に焚かれたフラッシュで終わった。
それは本当に、彼女がそういう目的で来たと理解してから断るまでの数秒だった。
名を惜しむ、というのとプライドが同じ意味なのかは分からないけど、僕は僕の名前を惜しまなくてはいけない。
大切にしなくてはいけない。
それはC2四段でタイトルとった唯一の棋士として、羽〇世代の一翼を担う棋士としての名前だ。
師匠に愛され先輩達に鍛えてもらった名前だ。
そして、金〇君が僕の顔よりずっと綺麗だと言ってくれた棋譜を作って来た名前だ。
僕が死んだ後も、僕の棋譜の横に残される、郷〇真隆という名前…。
その女性が去った後、ベッドに座り込んで、僕は本当に神様に感謝したんだよ。
笑っちゃうけど。この一瞬をやり過ごす力を与えてくれたことに。
馬鹿みたいな拘りだと思うよ。プロの女の人と寝たからって、僕の将棋の価値が変わるわけじゃない。
それが棋譜に残るわけじゃない。だけど、僕にとっては、負けた夜をどう過ごすかっていうのも、棋士としてすごく大事なんだ。
でないと、金〇君みたいに、僕の棋譜を美しいと思ってくれる人達に顔向けできない。 そして、今なんでこんなことを回想しているかというと、
オリヴィオとの会話に鬼界ヶ島でも思い出をインスパイアされただけじゃなくて、現実を直視したくないからだ。
腫瘍がとか言ってたじゃない、お医者さん。もし金〇君の脳に変なおできが出来てたら…。
本当にひどいこと言うけど、そのおできがある日突然破裂して死んじゃう、とかなら良いの、僕としては。
でも彼が、若い将棋の道途中の人が、少しずつ思考力とか記憶力とか運動能力を奪われて、将棋を指せなくなっていくのを見るのが怖い。
さっき、座布団の上で起きようとしてもがいた金〇君の姿を見た時、昔ドキュメンタリーで見た、レースの途中で転倒して足の骨を折ったサラブレッドの姿を思い出して、本当に『背筋が凍る』思いがした。
馬ってね、怪我したらすぐ殺処分なの。僕が見たのは外国のドキュメンタリーだったから、銃を持った男の人が入ってくるところが映って画面が変わったんだけど…。
子供心にも何が起こるかは分かって…。あんなに綺麗で力強かった馬が馬場の土の上でもがいていて…。
「小綺麗で上品」な金〇君の手足ももがいていて…。
僕は怖いのは嫌いなの。だから考えない。 >>154
先生は棋譜も心も身体も美しい棋士でいたいんだね
ほんとすごいなぁ先生は…
だから金〇君はこんなにも先生のことが好きなんだね
>>155
俺の親は後何十年も生きるべきときに、脳の病で能力を奪われたよ…
そこから死ぬまでの数年間、その姿を見るのが本当に辛かった…
だから俺ももう1人の親も、一瞬で死にたいと強く願ってるよ
重い感想になったけど気にしないでね〜
昔のことすぎて忘れたよ〜
金〇君が大した事無く元気になりますように 大通りに出た。
右に行くと僕の母校と駅。左に曲がると公園があって…。
僕はその公園に行きたかったから、左に曲がろうとしたら、道路の向こうで誘起君が手を振っている。
誘起君は歩道橋を多分三段飛ばし位で駆け上がって走って渡って、階段の半ばくらいから飛び降りて来た。
なんだか、谷〇先生の「光速の寄せ」みたいだった。
「聖カタリナ病院ってこっちで良いんですか?よかった、郷〇先生に会えて」
あんなに走ったのに息が乱れていない。
「この道このまままっすぐ行けばわかるよ。金〇君のお見舞い?今彼は眠っているから会えないと思うよ」
「いえ、でも今回のことで金〇さんには凄く迷惑掛けてしまったし。ご両親がいらっしゃると伺ったので、ご挨拶してお詫びしたいし…」
偉いなぁ、誘起君。逃げることしか考えていない僕とは偉い違いだ。
「向こうには理事とか王座とかいるから、応接室はどこですかって受付で聞くといいよ」
そう言うと、誘起君はぱっと明るい顔になって病院の方に走って行った。重さを感じさせない、若い子特有の走り方で。
「若いねぇ」
思わず口に出ちゃった。
「君は彼みたいな子には興味ないの?美少年とか言われて女の子に人気あるみたいだけど」
オリヴィオに聞いてみた。
「うん、可愛いね。でも僕は君でいいよ」
「君『で』ってなによ?君『が』ってお世辞でも言うもんでしょ?」
こういうのがオリヴィオを喜ばせるって分かってて言ってしまう。意識を金〇君の病状から外したかったからというのもあるし、
なにか今日の彼には昔からの友人としての親しみみたいなのを感じてしまっていた。
やっぱり僕は頭おかしい。20年以上前とはいえ、自分を実際に裸にして変なことする直前まで行った相手なのに…。
オリヴィオもなんだか普段に比べるとすごく鈍い感じで笑っている。
いつもの彼なら、こんな『只やん』みたいな局面を見逃すはずなくて絶対踏み込んでくるんだけど。今日は彼も変だ。 今度はちゃんと左に曲がった。
「あ、まだあの定食屋やってるんだ。もう代替わりしたかもしれないけど」
本当はオリヴィオを無視したかったんだけど、あんまり懐かしくて声に出しちゃった。
「あそこでね、部活の帰りに3人前食べたんだよ。カツ丼と麺類ともう一つ丼物か定食か。でも満腹じゃなくて、4人前食べるお金がないから、まあ今日の所はこの辺で許してやるか、みたいな」
余り物に動じないオリヴィオがさすがに『へぇぇっ』て顔をしたので、自分でもバカだとは思うんだけどちょっと嬉しかった。
「本当にあの頃は胃に歯が生えてる感じで…」
本当にあの頃は…胃にも脳みそにも歯が生えてる感じだった。
食べ物も将棋もバリバリ咀嚼して…。
この道を通るのは、本当にあの日以来かもしれない。
いつも僕と彼は駅まで歩いてそこで別れていた。僕は大概千駄ヶ谷の会館に向かったし、彼の家は反対方向だった。
会館に用のない日でも、じゃあだからお茶でもしようかっていう知恵も勇気も余分なお小遣いも無かったから、別れがたい気持ちを抱えて別れた。
一度だけ夏休みのある一日、何かが故障して図書館が閉鎖されることになって、僕たちは急に外に放り出されてしまったので、とにかく駅に向かうことにした。
「マサタカさん、もし時間があったら公園に行きませんか?」
突然彼が言った。
『公園に行かない?』
それは僕が心の中で何度も反芻して、言うことのできなかった言葉だった。
だって、断られるのが怖かったから。
それは本当にただ彼の都合が悪いとか、そんな理由だったとしても、きっと僕は拒絶されたと感じて傷ついただろう。
奨励会でどんな負け方したって「ナニクソ!」って感じで跳ね返し乗り越えてた僕だけど、
彼に拒絶されることだけは、とても怖かった。その怖さは、今でも胸のどこかに残っている。
僕の中にもまだ一抹の純情が残っているっていうことなのかもしれない。 >>156
ご家族のこと、書いて下さってありがとうございます。
大変でしたね、としか言えなくて申し訳ないです。言葉が見つかりません。
自分が怖いから金〇君にサクッと逝って欲しいって考える先生のヘタレさには変わりないんだけれど、
軽々しく頑張ってね、とか言っちゃうより先生らしいかな。
夜の女性の話はBLのスレだし考えてなかったし自分が書くなら男性の設定にすると思うんだけど、先生が
「そういえばこんなことがあってね」と言って語ってくれたというか…。
オカルトみたいな話になって申し訳ないです。 夜中に書いていたら変な文になってましたw
オカルトみたいというのは「先生が私に話しかけてきて書く予定のないことを…」みたいな部分のことです。
分かりにくくてごめんなさい。 >>157
誘起君の若さとまっすぐな心が、眩しすぎて胸にしみるね
先生とオリヴィオの今の空気間、なんだろう…すごくいいよね
>>158
あらあら若かりし先生すごい食欲w
食欲も体力も断られるのが怖いという気持ちも、歳を重ねると消えていくよね…
>>159
先生が作者さんに話しかけてきてるんだろうなって感じるよ
ほんとこの作品、この先生が実在しているみたいだね 郷○先生の学生時代の定石は「吉野家の牛丼特盛に並盛り追加」だったとご本人が話してた
しかも早食いなんだよね
棋士になって運動しなくなってお酒もおぼえたからあっという間に太ったらしいw あの日、初めて彼と二人で駅を越えた。
滝乃川公園には他の友人とは何度も行ったことがあったけど、夏の日差しの中で、彼と行ったその公園は全く違う世界のように思えた。
今思い出すのは、日差しの白とくっきりとした影の黒。狂ったような蝉の声。
僕の頭の中も夏の日に晒されたように真っ白で、頭の中がガンガンしていて。
今、30年の時を越えて、季節も全く違っていて見える景色も違うけれど、鮮明にあの当時の自分の気持を思い出すことが出来た。
あの時の自分の気持を確認したくて、ここに来たかったんだ。
金〇君、僕の恋が本当のプラトニックだって言ってくれたけど、そんなことないんだよ。
僕は将棋では頑張って来たけどね、それ以外の所では格調高くもない、只の弱虫なんだよ。
君の恋が卑しい恋情なら、僕の恋だってそうだ。恋なんて卑しいんだよ。だって恋って乞うだもの。
でも、それって自分を謙虚にする人生の一瞬でもあるんだよね。
「将棋を指すのが職業になるんですか?」
彼は真剣に驚いていた。
「それって、賭けマージャンみたいなギャンブルじゃなくて? 将棋指してお金貰うんですか?」
マサタカさんは、進学しないって伺いましたけど、将来の夢って何なんですか?
そう聞かれたから、正直に答えたんだ。
「誰がお金くれるんですか?それってすごく変じゃないですか?だって、それって、ゲームして遊んでるのに、お金貰うってことですよね?
マサタカさん、すごく真面目な先輩だと思ってたのに…」
そう言うと、彼は白い頬を文字通り朱に染めて笑い出した。
僕にとって、プロ棋士になることは揺るがない目標だったし、勿論、奨励会ではそれが当たり前のみんなのゴールだったから、そんな僕にとっての「当たり前なこと」が全く理解してもらえないことに、僕は戸惑ってしまった。
しかも、唯一、僕が自分のことを理解してもらいたいと思っていた彼が、理解どころかあきれて笑っている。その現実の残酷さに、僕は本当に動揺してしまった。
将棋連盟というのがあって、とか、企業がスポンサーになって、とかお金が払われる仕組みを説明するのも虚しい。だって、彼は僕がゲームして食べて行こうと思ってることを笑ってるんだから。
僕が今、YOUTUBERになりたいっていう若い人に呆れるのと同じ感じだと思う 芝生に横たえた細い身体を捩って、本当におかしそうに笑っている。
いつもは無表情に近い顔を苦しそうに歪めて。
普段はガラスケースの中の日本人形のようだった彼が、急に生身の人間になった。
理解されないこと、自分の真剣な夢を笑われた理不尽さへの怒りもあったんだろう。
突然、血が流れ脈打ち始めた。僕の心の中の彼にも、僕自身の恋心にも、肉体にも。
その笑っている唇を、自分の唇でふさぎたい衝動に駆られた。
そして、その細い身体を抱きしめて、滅茶苦茶にしたかった。
『滅茶苦茶にする』ということが、『犯す』ということだったとは思わない。
具体的に、何をどうしたい、というのではなく、ただ、その生意気な唇をふさいで、その体を思い切り抱きしめたかった。
抱きしめて、抱きしめて、その後どうする、ということは全く考えていなかった。
目の前が赤く染まるような衝動に身を任せそうになった。実際、僕は身体を起こして彼の肩に手を掛ける瞬間だった。
彼が目を開け、笑い過ぎて涙の光る目で僕を見上げて、
「だから、僕はマサタカさんが好きなんだ」と言った。
その一言で、僕の中の衝動は消えた。
「愛してる」でも、「尊敬しています」でもない、ただ「好き」という言葉。
僕は彼に好かれたかった。嫌われたくなかった。
『好き』という、何の色もないすっぱりとした、爽やかな言葉。
ずっと僕は、その言葉を彼から聞きたかったんだ。
一番聞きたかった言葉が聞けた。僕は幸せだった。
たった一人の一言に、自分の幸不幸を委ねる。それが恋なんだろう。
あの後、プロ棋士になったりタイトルを取ったり、色々な幸せを味わったけれど、
あの夏の空の下で彼が「好きだ」と言ってくれた瞬間に勝る幸せはなかった。
勝ち取った幸せではなく、思いがけなく与えられた恩寵としての幸せだからだろう。
勿論彼のいう「好き」と僕が望んでいた「好き」は同じではなかったけれど、その言葉の涼しさ、清らかさ。
そこに、性を持ち込むことは、僕にはできなかった。 >>163
プロ棋〇って先生がプロになろうとしてたころは、今みたいなイメージじゃなかったんだよね?
今のクリーンなイメージは先生達の世代が作ったものなんだよね?
今は聡〇君とかいるから、プロ棋〇になりたいって超かっこいい夢なんだろうな〜
>>164
いいなぁ先生は。俺は先生ほど誰かを愛したこと無いよ…
先生は素敵な恋をしたんだね。それは先生の心をより豊かにしたと思う
先生が金〇君の恋に気付いて、自分自身の恋にも気付いて、幸せになりますように 萩尾望都先生の頭の中ではこの40年、エドガーとアランが楽しそうに話してたんだそうです
私の頭の中では、先生がやっと前向きになってくれたけど、金○さんはまだ背中向けたまま
金○さんは思い込むと先生より頑固なんだな、って驚いています
金○さんが悩んで苦しんでる分、大きな幸せが彼に与えられると良いんだけど… とあるカラオケ店の昼下がり
「100点キター(゚∀゚)!やっとセィヤが居ても点数とれるようになったなぶははは」
「いや…今までも相当な高得点だったと思うけど…」
「人が居ると点数落ちちゃうから…」
「それでも高得点じゃん…何でもできるよね君は」
「そんなことないけど…セィヤが居てもこの点数はいいことだよ…俺にとっては…セィヤがいても普段通り意識せずに歌えてるって事だし…」
「意識してくれてないんだ…別に良いけど…」
「拗ねてる?」
「拗ねてなんかないよ…まあカラオケだって…君はヒトカラの方が好きだって知ってるのに…こうして着いてきちゃってるわけだし…」
「それが拗ねてるって言うんだよぶはははは」
「うー」
「でも意識しないでいられるから、こうして一緒の時間が増えたわけだしさ」
「うう…その大きな目で…覗きこまれたら……」
「こまれたら?」
「キスして…いい?」 「いちいち聞かなくても…」
「ちゅ…っん……ん…ふぅ…なんかオレンジの味がする…」
「さっき舐めたのど飴かな…」
『…それでは聴いていただきましょう椙本カズヲで…』
「!?隣…急にマイク入ったと思ったら……この声…」
「ヒ□シ??」
「ぶははははは…あっちはこれからみたいだし…見つからないうちに出ようか?」
「ん…時間途中だけどいいの?」
「またいつでも来れるし…」
「機嫌なおった?」
「拗ねてないし…」
「はいはい…で、二人でゲームの時は点数負けた方の奢りだけど…なに奢って貰おうかな〜」
「えーカラオケ代じゃないの?」
「甘いですよ金道君…あ!食べたあとまたカラオケ行く?さっきの続き…」
「だからその目で覗きこまないでよ…」
「ぶははははははは」
おしまい
https://i.imgur.com/VoiTfKU.jpg
こちらあくまでイメージ映像ですw
これで画像投稿できるのかな ミライの豪快な笑い方ステキ
翻弄されてるセイヤかわいいなー
若い人達はいいわね〜!
2人のこの先が気になる〜w >>166
ポ〇の〇族だよね〜。すごいな〜プロってそういうものなんだね〜
頑固な金〇さん、幸せになってほしいな〜
>>167
ミライとセィヤのカラオケデートいいね〜。楽しそう〜
変に意識しないで一緒に居られるのっていいよね〜
>>168
隣にヒ□シがw見つからない方がいいね〜。乱入されちゃうかもw
何食べてるのかな〜?何を奢って貰うつもりかな〜?
ほんとに楽しそうだね〜ラブラブだね〜 セックスが汚らわしいとかじゃないんだよ。
ただ本当に僕は心から満たされて、僕の体の中の衝動がどこかに消えてしまったんだ。
僕は片肘をついて状態を起こしたまま、彼を見下ろした。
僕たちは木陰の芝生の上に寝転んでいたんだけれど、僕の記憶の中の彼は真っ白い日の光に包まれていた。
彼の顔も首もシャツも白かった。シャツの胸元から、手術の傷跡がのぞいていた。それは彼の喉元からバッサリと肋骨を切り開いた跡で、
途中心臓に向けた切込みもあって、巨大な桃色のトの字のような傷跡だった。
小学部からの生徒は皆その傷のことを知っていたけれど、僕のような高等部からの入学組は、彼が高1に上がって来た時にロッカールームでその傷を見て、さすがにギョッとした。
僕たち上級生は遠巻きに見ているだけだったけれど、彼と同学年の高等部入学組は珍しがって傷に触ったりしていた。彼も慣れたもので、
鷹揚に傷に触らせ、質問に答えたりしていたけれど、ほっそりと女の子のような彼が自分からシャツの前を広げて男の子たちに囲まれて胸を触らせている様子は
ちょっと、いやかなりエロティックで、僕の側に立っていた同級生が押し殺した声で「なんか、やばくないか?」と言った。
僕も同じ思いだったけれど、認めるのが嫌だったから、何でもない風を装った。
その時、彼の同級生の一人が「あ、お前の傷の色と乳首の色、同じだ!」と素っ頓狂な声を上げた。
彼の乳首も傷も綺麗なピンク色で、男同士なんだけれども目のやり場に困る感じだった。彼は自分の胸元をのぞき込んで、
「あ〜、多分、俺の体中のメラニン色素が頑張ってもこれ以上濃い色にならないんだと思う」と、真剣な声で答えたので、皆爆笑した。
僕も、自分の中のもやもやを吹き飛ばすために、とにかく大笑いした。
その日、部活でも色々ミスをし、奨励会に行っても悪手指しまくって指導の先生にお説教された。
「雑念を払って集中しろ!」って言われたのが恥ずかしかった。
僕は傍から見ても雑念ばかりだったんだ。
その雑念って、男の子の乳首だよ? その頃、僕はまだ彼に恋をしてはいなかったんだけれど、それ以来なんとなく彼を見るのが恥ずかしいような気持ちになったし、部活の時ロッカールームで彼と一緒になるのを避けるようになっていた。
でも、夏の日差しの中で、彼のシャツも、肌も、桃色の傷跡もきっぱりと清潔で、僕はいつものように眼を逸らすようなことをせず、彼を見つめることが出来た。何も恥ずかしがることなく…。
その時、別に『同性愛万歳!』みたいな気持ちだったわけではないと思うんだよ。
ただ、僕には、もう自分の感情を責める気持ちがなくなっていた。
彼が僕のどの側面を切り取って好きと言ったかはわからないけれど、とにかく僕は嫌われていないんだ。
「僕、また手術しなくちゃならないんです。したくないんだけど。生きていても仕方ないし」
僕の視線から眼を逸らすようにして、彼が言った。
金〇君にちょっと似た品の良さのある彼にふさわしくない、投げやりな言い方に少し驚いた。
「こんなに浮腫むようになっちゃって」
そう言って彼は片足をひょいっと宙に上げて、靴下をずらして見せた。
細い足首にくっきりとゴムの跡が付いていた。彼の身体はほっそりとどこにも無駄がないように見えていたのに…。
「でも、手術したら、また好きな剣道も出来るようになるんじゃないの」
何と言っていいかわからなかったので、そんな月並みなことを言った。
「剣道なんて好きじゃないです」
えっ?って彼の顔を覗き込んだ。彼の目も僕を捕えた。土下座して謝りたくなるくらい、冷たい目だった。
「剣道なんて言ったって、只のスポーツじゃないですか。剣って、切るための武器ですよね。それを竹の紛い物に替えて、切られた振りをして…」
綺麗な眉を寄せて、吐き捨てるように言う彼に圧倒されて、僕は何も言えなかった。
「将棋を戦争の代わりだから下らないって言ったことありましたよね。申し訳ありませんでした。剣道だって下らないです」
ちょっと僕は混乱してしまった。 >>171
このころのエロさって大人のエロさとは違うよね
未完成で透明でみずみずしくて
>>172
彼は死を連想することが、死に繋がることをスポーツやゲームに変えて楽しむことが嫌いなのかな? ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています