>>189
「美しく総合力がある内村さん、ルールからはみ出たのが僕。

僕は羽生選手とは正反対で、美しい技はできなかった」

――新しい技に挑むというのは、新しい技術だけでなく、新しい概念を作る、大きな作業なのですね。

そうですね。4回転ルッツや4回転ループ、トリプルアクセルなどで「良い」とされて来たことを、成功者として保守的な気持ちもあるので、良いと思い込みたい部分もあると思います。でもこれまで良いとされてきたことが、果たして4回転アクセルにとって良いことなのかどうかは、誰も分かりませんよね。良いとされる4回転アクセルはどんな跳び方なのか、それすらも、羽生選手が新たに決めていいことだと思います。

――「良いジャンプ」という視点になると、4回転までの羽生選手のジャンプは、出来映え(GOE)で「+5」を狙える「良い」ものです。まさにお手本といえるジャンプを跳んできました。

そこは、競技として面白い部分だなと思います。体操では、ルールという枠からはみ出ずに美しい技と総合力で勝っていったのが内村航平さん。はみ出て勝っていったのが僕なんです。僕は、羽生選手とは正反対で、人と同じ技をやっても美しくできなくて、技の難しさで離していくしかなかった。だから難しい技に挑戦するという気持ちではなく、その技をやらないと自分が日本代表にいる意味がないと思っていました。審判が可能だと思っている範疇を超えていくことが、自分が選手として残るために必要でした。自分の技に名前がつくというのは、そういう世界だったんです。

――羽生選手は、内村さんのように総合的な強さ、美しさを兼ね備えた選手です。新技のために、セオリーから外れていくリスクもあるかも知れません。

羽生選手にとって今、「4回転アクセルを成功させた姿をみなさんに見せたい」というのがプログラムの中心にあるなら、4回転アクセルに関しては、今までと全く違う考えのジャンプ理論を確立していいと思います。ルールに沿って跳ぼうというのではなく、自分が初めて跳んで、そこからルールができるという考えです。教科書からの引用は1つもいりません。そこは羽生選手本人が一番分かっていると思います。
「回転」か「高さ」か、選手よって違うバランス