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“4回転アクセル”がもつ意味

 そこまで羽生が目指す4回転アクセルとは何か。これは、彼だけでなくすべてのファンや関係者が改めて向き合わねばならないだろう。

 フィギュアスケートのジャンプは6種類あり、アクセルだけが前向きに踏み切って半回転多く回る。かつて3回転が最高の回転数だと思われていた時代に、トリプルアクセルを跳んだブライアン・オーサーやブライアン・ボイタノらが、高難度ジャンプの時代を切り開いた。また女子初のトリプルアクセル成功者である伊藤みどりは、92年アルベールビル五輪で、フリーの演技後半に成功。その後29年、後半で成功させた女子はいない。「アクセル」はいつの時代も、人類の限界を示す指標となってきた。

羽生は、4回転4種類を成功させており、トリプルアクセルの質も高く、4回転半に最も近づいている。一方、世界選手権三連覇で北京五輪の金メダルを狙うネイサン・チェン(米国)は、4回転アクセルはリスクが高いため挑戦しないと明言しており、「もし成功するとしたらユヅル。僕も観てみたい」とエールを送っている。

「暗闇の底に落ちていく感覚」

 羽生は2季前から本格的な練習に着手し、19年12月には大会の公式練習中に「4と4分の1回転」まで回せている状態を披露した。さらに昨季は、コロナ禍のなか練習拠点のカナダへ渡ることができず、一人で練習を重ねた。

「これだけ長い時間一人でやるのは、迷いも悩みも増えました。自分がやっているトレーニングや練習の方法が無駄に思える時期がすごくあって、そもそも4回転アクセルって跳べるのか、と。一人で暗闇の底に落ちていくような感覚の時期がありました」